クリームソーダ
暑そう…。
里奈が思わずつぶやくと同時に、グラスの氷がカランと鳴った。外ではセミがジージーとうるさい。
時間通りに来ないのはいつものことだ。
知っていても、つい10分前に待ち合わせ場所に来てしまって、そんな自分に苦笑いしてしまう。
こんな日くらい、早く来ればいいのにね。
あぁ、こんな日でも、早く来れないようだから、私たちは別れるのか。
純平がやってきたのは、約束の時間の30分後だった。
それでも、急いで来たことがわかる様子に、里奈はやっぱり何も言えない。
「今日はコーヒーなんだ?」
まずは、遅れたことを謝りなさいよ。
いつもと同じ顔で笑っていることが少し腹立たしい。
「…気分的にね。」
いろいろとありがとう、と言って、鍵を渡された。
3年分の思い出は、言葉にすると短くまとまってしまった。
何を話していいかわからなくて、荷物の郵送方法について聞いてしまった。どうでもいいわ。
「今日もクリームソーダ飲んでるかと思ったよ」
「残念、はずれたね」
あなたの中の私は、そうでしょうね。
じゃあ、いくね。ありがとう。
そう言って、伝票を持って去って行った。
最後なんて、あっさりしたものだ。
実はね、クリームソーダはそんなに好きではないの。
のっかってる真っ赤なサクランボも苦手だし。
ただ、あなたとこの喫茶店で、クリームソーダを頼んで、くだらない話をする時間が好きだっただけよ。
アイスコーヒーをひと飲みして、氷もガリガリッと食べて。苦い涙もごくりと飲み込んだ。
カラン。
夏が終わる音がした。