作戦
『作戦を話すぞ。』
ライの頬にまだジンジンと痛みが残っている中で、秘密の作戦会議が開始された。
『うん。』
『わぁーったよ。』
『は、はい!』
、、、
その数刻前
後方に吹っ飛ばされたライは倒した筋肉ダルマではなく、小さな少女によって命の危機に陥っていた。
『そ、それはまずいって。』
少女が再び振り上げた拳にはバチバチと線香
花火の牡丹のように光が纏っている。
『わ、わ、わ、わ、わ、』
先程までとは人が変わったように慌てふためき怒りを上手く吐き出せない少女の様子は滑稽とも言えるが、その拳には殺気が充満していた。
『落ち着いて話を聞いてくれ!、それを食らったら俺は死んでしまう。』
相手を殺すとまでは思っていなかった少女は拳を振るうことに若干の戸惑いを見せた。
『俺たちは君の兄も救ってみせるつもりだ!』
その一言で少女はなぜ?という顔をして能力の籠った拳を引きさげた。
『俺たちは裏ギルドを潰すために動いているんだ。それなら当然君の兄も含まれるだろう。』
『でも、、』
さっきの筋肉ダルマの様子から、兄が裏ギルドに囚われているような状態であることは推察できる。しかし少女を納得させ協力を得るためにはもう一押し必要だ。
『ちなみに、君以外に索敵が行えたりこちらの情報を把握出来るような能力者はいるか?』
頬を抑えながら立ち上がり、女の子と対等かそれ以上の存在だと見せつけるように質問を行う。強さは信頼に繋がるからだ。
『多分、いないと思います。』
『そうか。』
いない、というのは予想外だった。筋肉ダルマは恐らくE級ハンター程の実力はあるはずだが、1人しか居ない貴重な索敵系能力者を外に連れ出せる程とは思えない。
実際こうして倒されている訳だし。
この子がどれだけの情報を持っているか知らないが、恐らく他にも能力者がいると仮定した方が良さそうだな。
『もし他の能力者がいたら直ぐにここに駆けつけるはずですから。』
なかなか冷静じゃないか。確かに普通に考えれば少女の言う通りなのかもしれない。しかし
『実は俺の能力でこの会話が外にもれないようにしているんだ。そこのダルマを倒した時から音を遮断しているから、だからバレていない可能性もあるな。』
『え!?あなた凄いんですね。空間能力ですか?、、、、、、だるま?!』
今更ながらのタイミングでお互いの名を知らないことに気づいた。
『悪い、自己紹介が遅れた。俺はライ=トーラスだ。さっきまで狼に変身してたそこの熊みたいなのはモコモ=ファントランス。君の好きなように呼んでくれ。それと俺は音使いだ。』
『よろしくねん。』
『ご丁寧にどうも。私はオルフィア=ルシリヴィルと申します。』
ルシリヴィル、、、通りで気品が漂ってていたわけだ。
『ということは囚われた兄はケイ=ルシリヴィルか?』
『兄をご存知なのですね。囚われた、という表現は適切ではありませんがその通りです。』
『名門ルシリヴィル家のご令嬢だったとは。さっきの能力はやはり電気系の攻撃か?』
ここで1つの考えがライの頭に浮かび上がっていた。、、もし、、
『名門だなんて気を使うのはやめてください。あなたもご存知でしょう?我ら一家が堕ちた名門と蔑まれていることを。』
『、、あぁ。すまなかった。』
そうだ。この堕ちた名門を再興させるようなことがあれば手っ取り早く地位を確保できるのではないか?
なんせオリフィアの祖父、エレスト=ルシリヴィルはB級ハンターだ。この子の兄が裏ギルドに所属していたことは風の噂で耳にしたが、それでもルシリヴィル家が名門に名を連ねていられるのはエレストのおかげだと言っても過言ではないだろう。
B級ハンターの元にはあらゆる情報が入ってくるはずだ。恩を売っておくのには最高のタイミングかもしれない。
1度裏ギルドに所属したハンターを表舞台に復帰させるのは至難の業だがここはやるしかない。
『いえ、私も気にしてませんから。』
少女はまだ幼い、しかしこんなに悲しい笑顔ができるのか。どれだけ辛い環境で育ってきたのだろうか。
『私も、、協力します。』
ガタッ
『うーん、』
少女が意外なタイミングで承諾したのと同時に、倒れた筋肉ダルマがムッと起き上がった。
『てめぇ!』
『ちょっと冷静になってくれ。俺たちはあんたも救うつもりだ。』
『あぁ?!』
『俺たちはフォーランドを潰すために動いてる。』
『はぁ?、、、ぶはっ!!!』
『俺たちは本気だ。そのためにあんたの情報を教えて欲しい。』
『てめぇも裏切ったのか。、、、選択肢はねぇようだな。』
こいつも見た目に反して物分りがいいらしい、3対1の状況をすぐさま理解して白旗をあげた。
『助かる。』
オリフィアを傷つけていたこの男を目の前で誘うのは少し酷だが状況が状況だ。今は耐えてもらうしかない。
そうして作戦会議が始まった。
ライとモコモの能力を話せる範囲で説明し、これまでの情報収集の成果と敵アジトへの潜入のことを話すと2人は呆気にとられてた様子だった。
『じゃあ次にあんたたちの能力を教えてくれ。』
『俺の能力は他人の能力の底上げだ。』
『私はトーラスさんが仰った通り、電気の能力を使います。』
『どうやってここまで来たんだ?だる、、まずあんたの名前を教えてくれ。』
『お前今ダルマって言おうとしたな!?、、、俺はマッキン=ブラウンだ。』
マッキンは筋肉ダルマの名に心当たりがあるようで、なかなかに鋭い。
『いや、そんなことは、、、、。』
『ずぼしかてめぇ!』
『能力がはたらいている時には特殊な電磁波が発生するんです。私はその電磁波を見ることが出来るのですが、トーラスさんの能力のように万能ではありません。』
オリフィアはマッキンを制するように説明を行った。マッキンも今では、これまで虐げていたこの少女より立場が低いことを自覚しているためにムッとしつつも大人しくなっている。
『マッキンさんの能力でパワーアップさせてここまで来れたということか。』
『はい。』
ならこの2人は能力の相性面で動向を共にしていると言うことなんだろう。
『ちなみにこの場所をほかに知っているのは?』
『数人が知ってるが、俺の独断で来てるんだ。心配いらねぇよ。』
『そうか。じゃあ2人の帰りが遅いことに関しては大丈夫か?』
『俺は下っ端だ。こいつも、アニキはともかく大したことはねぇよ。だから別になんともないはずだ。』
これで2人とも下っ端なのか。それに話しぶりからすると索敵系能力者の価値はあまりないのだろうか?
『よし。、、やることが決まったぞ。』
全員を一瞥し、覚悟を確認するように深呼吸をした。
『時間はかかるが確実に行こう。マッキンさん、あんたがこの作戦の鍵だ。』
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