幸運?
『ここ数日情報を仕入れてわかったことをまとめるぞ』
1.不当解雇で有名な裏ギルド『フォーランド』が解雇を行う条件は友好関係にある2つの組織からの要請+その人物が必要ないと判断した場合。
2.解雇要請から実行までの期間は5日間
3.前回のゼルディス含め、フォーランドの組員は名の通った実力者揃い。裏ギルドに所属するものはそのほとんどが表からのあぶれ組。
4.ココ最近、依存性が高く使用すると能力が次第に使えなくなる効果のある麻薬が出回っていてその麻薬売買に携わっているのが友好関係にあるうちの1つである。
5.麻薬売買業者はフォーランドをボディーガード代わりにしているが、特別な理由により麻薬取引の邪魔になりそうな組員を金で解雇させている。
『まぁこれくらいか。フォーランドについてはだいぶ分かったな。』
『そうだねん。ただ学園まで悪い噂が届いてただけに相当黒いかんじだねん、、。』
モコモは実力者だが、気が強い訳では無い。それにそうでなくとも不安になるのだってわかる。確かに魔女と比べたら大したことはないが、俺たちのやろうとしていることは裏ギルド『フォーランド』の解体だ。
恐らく国で一番大きな裏ギルドであるフォーランドに手を出せば、たかが初心者ハンターの俺たちは一瞬で消しずみにされてしまうだろう。
『あぁ、だが計画が現実的になるまでじっくりいこう。』
何故か分からないが焦らずともセルネは無事だと何となく、そんな気がして心の平静は今も保たれている。恐らくモコモも同じ気持ちだろう。
『、これが成功すれば裏ギルドを解体したハンターとして名が上がって魔女の情報にありつけるかもしれないもんねん。』
『あぁ、その通りだ。トゥリーの情報を得るにはどうしてもこのヤマを超えなければならない。』
しかし、地位に合った実力がないのは問題だ。
『俺は銃の弾になる音の性質のコントロール兼強化しないとな。いくら情報があっても強くならないと意味が無い。、ところでだが。』
『うん。その話ならこの通りん。』
モコモが年季の入った紙切れを自慢げにヒラヒラと靡かせた。
『本当にあったんだな。それにしてもよく持ってきてくれた。』
『闇ギルドの討伐依頼書、マキア先生の言ってた通りに中央都市ギルド「ファロムデス」のB級↑の部屋にあったよん。』
そんな国家機密にありつけるなんて、本当にモコモはどうやって忍び込んだんだ。いくつものセキュリティがあるはずだが。
まぁしかし、
『後は裏ギルドを失ったハンター達のはけぐちをどうするかだな。先日裏ギルドからも追放されたギルディスさんみたいなハンターにも協力をこぎつけたい所だ。』
『なにか思いついてるのん?』
『あぁ。1つ目は解雇対象になるような麻薬売買の邪魔になる裏ハンターと表ギルドの連中を鉢合わせさせること。』
『それでどうするのん?』
『闇ギルドの討伐依頼書が出てるくらいだ、表でも裏を捕まえる動きは前々からあったってことだ。解雇されるようなハンターを現場に鉢合わせるよう誘導すればこれ迄掴めなかった証拠を吐いてくれるだろう。』
『そう上手くいくかなん?』
『これが上手くいく条件はふたつだ。俺たちが解雇されるようなハンターの情報を事前に知っておくこと。そしてそのハンターが解雇される前に表側に捕まえさせること。でなければ例え暴露したとしてもフォーランドの'黒い棒人間を逆さにしたような紋章'が消えて証拠不十分となってしまう。』
『2つ目はん?』
『2つ目は、俺の変声術を使ってフォーランドのハンターを誑かす。』
『どういうことん?』
『廃屋でも用意して、そこに俺の声だけ飛ばすんだ。誘導はどうにかなるが、ここで必要なのは前情報で誰が解雇対象になるか知っておくこと。占い師じゃないが未来予知を演じて信者を集う。そうして集めた信者を使い暴動を起こすんだ。』
『そっちの方が良さそうだねん。』
『ただ両方とも、俺でも盗み聴くことが出来ない建物内に侵入して情報を仕入れて来る必要があるんだ。』
これまで集めた情報は酒屋や宿、路地からのもので
本当にやばい情報が飛び回る建物は'何か'で固くガードされているらしい。それでもこれだけの情報を掴めたのはラッキーだった。
モコモに潜入役を頼みたいところだが裏ギルドの総本山はさすがにモコモでも危険じゃないだろうか。それにそこで大した成果を得られない可能性だってある、今のところリスクがデカすぎる、と確信を言いあぐねているとモコモが悟ったかのように返事をした。
『いいよん。やってみるよん。』
『待ってくれ、それに相手にも俺のように索敵系の能力者がいた場合危険すぎる。』
『でも、ガイダーさんすら会った事のないような能力なんでしょん?それに仮にそんな能力者がいたとしても僕は大丈夫だよん。』
『だが、、
ズガァァン
その瞬間、元々壊れそうなぼろ宿ではあったが風化とは言い難いスピードで煙を立てながら壁が崩れ去った。
突然のハプニングだが2度目なのもあって2人はすぐさま警戒態勢をとる。
『言ったそばから、、、
この世界で成長を遂げたのは人間だけではない。動物もまた、魔物に対抗するためあらたな進化を遂げたのだ。
自身の変身能力を解放したモコモは鋼鉄をも噛み砕く牙を持つ大型の狼へと変化し、ライはその上に股がって煙に見える影をじっと見つめた。
ギシギシと音を立てる床を見て、現状を把握すると、この大きな狼はチョイス間違えたかもしれないぞ。なんて考えるくらいには、冷静さは失っていない。
誰か知らないが今度は以前とは違うぞ、と場をわきまえないワクワク感をライは密かに感じていた。
『おうおう!おめぇーらか。ここ最近俺たちのことを嗅ぎ回ってる野郎ってのは。』
あだ名はおそらく筋肉ダルマだろうゴツい男が声を荒らげて部屋に入る。
『うん。』
よく見るとその前には男の半分もない体躯に、肩まである嫩黄の髪の少女がボロボロのみすぼらしい格好をして立っていた。髪もボサボサで顔にも泥が付着しもう何日も風呂に入っていないような少女だが、その姿からはどこか気品をかんじる。
『はぁ?!こいつらガキじゃねぇか。嘘だったら承知しねぇぞ!』
『、、っ!』
少女は男の手の甲で払いのけられるように横に飛ばされ、しかし一切表情を崩さない。死んだような、静かな表情を終始浮かべている。
『ま、間違いありません。』
『まぁいいけどよ。お前が使えなかった時は兄貴が痛い目に遭うだけだ。』
お次にニヤニヤと感じの悪いやつだ。どうやらこの少女の能力で俺たちの存在が露見していたらしい。
それは本当であれば逆の立場のはずだ。しかしこの少女は計画上放っておく訳には行かない、それに、、。
『モコモ、ここは俺にやらせてくれ。』
『ライ、任せていいのん?』
ふかふかの背中越しに話すモコモは久しぶりで、この大きな背中はやっぱり安心する。
『あぁ、心配いらない』
むしろ色々とラッキーだ。飛んで火に入る夏の虫とはこの事だな。
『俺がこの数日間で手に入れた攻撃手段。見せてやるぜ。』
『あぁ?!』
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
バタッ
次の瞬間、モコモの目にはひとりでに倒れる男の姿と、表情を崩さないと思っていたが筋肉ダルマの様子を見て驚く少女の姿だけが写った。
先日、ガイダーに自身の能力を指摘されたと嬉しそうに話していたライだが、もうこんなにも頼もしくなっているではないか。ライが何をしたのかはあまり分かっていないが、いつの間にかモコモが感じていた不安は消え去っていた。
『なんで、今まで俺はこんなことに気づかなかったんだ。』
『え、あ、、』
『君、立てるか?』
『は、はい。』
期せずして、比較的安全に潜入が行える2人のキーパーソンに出会ったライは計画の実行を決心した。
バチンッ!
『あ、、ごめんなさい、』
少女の手を掴んだライは少女のビンタを受けて後方に吹き飛ばされた。何とかと言った具合に立ち上がったライの左頬は赤く腫れ上がっている。
咄嗟に出てしまった手を収めようとしていてた少女だが、ハッとしたように両手をグーにして現実逃避でもするかごとく、木片の散らばった床に怒鳴りつけた。
『なんてことしてくれるんですか!!?』
『は、はい?!』
・・・・・・
『…………』
『おやおや、随分と早いじゃないか。こちらもすこし手を打たないといけないようだね。』
『……、……』
『誰に指図してるんだい!?お前も魂のない抜け殻にしてやろうか!?』
『……ッ!』
、、、、
『ふぅー、これだから私は嫌なんだよ。しかし、あんなものにまで愛着が湧いてしまったら、大変だろう?捨て駒は生物で十分さ。』
『おっしゃる通りです。』
『グルルルル』
暗闇に光る朱の目を持つその生物を愛でながら、魔女は向いに立つ片翼の男へと楽しそうに語りを続ける。
『お前たちは替えがきかないい従順で愛しい私の下僕なのだから。』
『おっしゃる通りです。』
かえってくる言葉など分かりきっているというのに。
自身の可能性に気付いていくって言うのいいですよね。
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