結果
はぁ、はぁ
頭をぐるっと紐が締め付けるような、そんな痛みを感じ、グラグラする視界の中で少年のまともな思考力は機能を失った。
魔女の時は気付く間もなく腕を飛ばされたため感じることのなかった、ハッキリとした濃密な殺気が真っ向からライに向かっているのだ。生まれて初めて向けられた圧倒的強者からの殺意を受けてまともでいる方がおかしい。
殺される、、いや、まさかそんなはずは無い、、しかし、、。
その殺意には'敵意'がある訳では無い。ガイダーからすればただの威圧に過ぎないことも分かっている。
だが明確な死のイメージを頭からぬぐい去ることが出来なかった。
あと少し、あと少しでも集中が切れればたちまち卒倒してしまうだろう。
ライは両の手の平を膝について重くのしかかる圧に必死に抵抗する。重力がここだけ強くなったように頭は前を向こうとしない。
1,2,3、、、4、4人?
沈んだ顔で目線だけどうにか上に持っていくと、ぼやけた視界の中で男は増えて行く。
俺は今幻覚でも見ているのか。
あれ?、、、目の前から聞こえてくる心音は、、、2つ?
命の危機を察したライは、普段無意識に制御していた自身の能力をフルに発動していた。
相手の心音なんて常に聞こえる訳では無い。能力を発動するという自覚がなければ、ライはただ普通より耳がいい程度でしかなかった。
ライが無意識に能力を制御していた理由としては、入ってくる情報量の多さ故に思考回路がショートしてしまうからである。
しかし、この時ばかりは'それ'がライの命を繋いだ。
圧倒的で逃げられるはずが無かったピンチの前で、その能力が目の前の存在から思考を逸らす逃げ道になったのだ。
心音が2つ、なぜ?
そんな素朴な疑問がライの心を少し軽くした。
『の、能力はさっき話したもので全部です。』
モコモと同じくらいの2m位ある体はゴツゴツしていて、その大きな手にかかればライなんて簡単に捻り潰せるだろう。
その黒い短髪からは体に似合わない俊敏さを有していることが伺い知れ、この重圧の中では漢気溢れる目が凶悪に見えて仕方がなかった。
しかし頭を締め付ける痛みが増すにつれ、大きく狂気的に見えていたその男はいつの間にか元に戻っていた。
『そうか。よく答えたな。』
男が言葉を発したその瞬間、部屋を支配していた重圧が嘘のように消え去り、男は別人にも見える優しい笑みで確かにライに告げた。
『合格だ。』
『、、、え?』
バタンっ
重力が消えたかのように軽くなった身体とは裏腹にライは床に倒れ込んだ。
『な、なんで、、』
『無理もないさ。あの中で3つ目の質問に答えられるのは大したもんだ。よく頑張った。』
『そのままの姿勢でいいから少し話を聞け。まず、ちょっとやりすぎちまったな、すまん。』
や、やっぱりそうですよね。
ライは床を見つめて心の中で何度も頷いた。
『まずは合格おめでとう。俺の面接の合格者は実戦なしの1発合格だ。今のところはお前ともう1人。』
俺の他にこの重圧に耐えきったやつがいたのか、、
『それと、』
そこまで言うとガイダーは席を立ち上がり、うつ伏せになったライの前でかがむと耳元で囁いた。
『それと、よく本当の能力を話さなかった。やるじゃないか。俺のプレッシャーに耐えたとしても、本当のことを言ってしまったら意味が無いからな。』
やっぱりか。
「本当の能力は誰しもが隠し持っていて、それは誰にも話してはならない、たとえ身内であってもだ。」
以前のマキア先生に言われた言葉を守った結果だ。マキア先生にはしっかり感謝しないとな。
まぁ本当の能力とは言ってもあくまでその能力の延長線上、俺の場合能力の範囲が半径100mなことくらいだが。
『よくやった。もう動けるようになっただろう。この奥の部屋に進むといい。』
確かに体が楽になっている。
『じゃあ頑張れよ!ハンター!』
男に背中を押された少年は、ハンターへの希望と覚悟を持って新たなる1歩をおぼつかない足取りで踏み出したのであった。
実は重圧を耐えきった者だけが合格してるんですよね。
能力の秘密を守るより、ガイダーのプレッシャーの方が圧倒的にハードルが高いという。
ガイダーえげつないです笑
続きが気になる方よければブックマークお願いします!