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【高等遊民的エピトード・ナクレイの日々】

エピトード・ナクレイ37歳独身。肩より長いストレートの白髪を後ろで一つに纏め、瑠璃色の瞳を持つ魔法大好きオジサンである。


 父はナイザリア皇国先代皇王弟グレナデン・オーソクレーズ・ナイザリア、母は父と同じ歳の平民のマルティーヌ。

 両親の出会いは母マルティーヌが特待生として入学したナイザリア学園で、魔法研究は楽しいが王族が窮屈で仕方が無いグレナデンと、3年間主席をとり魔術の応用研究の論文が評価を受けたマルティーヌが、魔法という共通の趣味?で意気投合し、結婚。

 平民との結婚だったのでグレナデンは皇王籍を抜けてナクレイ伯爵という叙勲を受け、それまでの王弟として所持していた財産を大きな商会に信託、その利益で好きな研究を続ける生活にシフトした。


 更に、平民でナイザリア学園に入学したマルティーヌの牽引と、魔法に通じる人員が増える事によるで国力の底上げされるという利点を挙げてグレナデンが先代王を説得、ナクレイ家の財産から平民でも魔力が高い、魔力は低くても魔術体系に理解度が高い、新しい魔法を生み出す等の実力のある者が入学出来る魔法学園を設立する。


 そんな両親の一人息子、エピトードは見事に魔法研究に嵌り、親子で王宮魔術師顧問となり、好きな時に魔法の研究をし、好きな時に本を読み、必要に応じて嬉々として、時には渋々と皇王家からの依頼をこなす日々を送っていた。


○月○日

 いつもの王都散策中に輝く程魔力の強い子を発見。髪も目も他に見た事無い桃色。お金を払うから魔力を測らせて欲しいと言ったら、あっさりついて来た。


○月△日

 桃色の子供、リアン・ルトールには宮廷魔術師も敵わない程の魔力があったので、魔法学園見習い生徒として勧誘。母も一緒が良いというので学園の仕事を紹介。親子で寮に入る。

 親子が働いていた店の店主夫婦が文句を言うので、リアン親子の栄養状態が悪い事を指摘したら黙った。


○月⬜︎日

 母さんがリアンを気に入って個人授業や一緒に休憩している。合間に学園図書室の本を端から読んだり、破損した本を修理している。


⬜︎月○日

 リアン親子が働いていた店の店主が家に来た。少額で働いていた親子がいなくなって困っているとか。街の警備隊に引き渡す。店主不在で従業員が困窮してはいけないので、父さんが職業紹介所の職員を呼んで新しい職場を紹介したらしい。


⬜︎月△日

 リアンと同じ位の娘が、両親が店の税金問題で留置所から帰って来なくて困っている、リアンと同じ場所に住みたいと押しかけて来た。魔力が無いので速やかに役所の児童一時保護係に回収して貰う。


⬜︎月◎日

 リアン親子がライアット男爵家に引き取られた。母さんの機嫌が頗る悪い。男爵は新年度になったらリアンをナイザリア学園に入れるからと魔法学園を退学させた。父さんにナイザリア学園の特別講師になれと言われた。リアンが入学して来るなら面白くなりそうなので講師の契約をした。


◇月○日

 ナイザリア学園入学式。瞳を輝かせ、ほっかむりをしたリアンを発見。相変わらず面白い。入学前の魔力テスト一位の公爵令嬢は、体から魔力が溢れ出してはいたけれど、それ以外で目立った所は魔力高い男子生徒に囲まれていた位。


▷月◎日

 初テスト終了。リアンが一年生の首席になった。私の講師室に来訪。母親の仕事の紹介と、図書室の書物の補修の仕事をしたいと頼んで来たので了解した。リアンが私を師匠と仰ぐので同僚の講師からも羨ましがられている。仕事は面倒だけど、講師になって良かった。

 彼女の溢れている魔力を魔導石に移す実験は成功。彼女に渡してポケットに入れるだけでも可能。図書室に取られたと文句を言っていた魔力研究室が大喜びしている。研究費から謝礼が出るのでリアンも喜んでいるが、その謝礼は古書修復の研究に使っているらしい。


▷月△日

 同じ一年のトリカ皇子について陛下に聞かれた。

 武術や攻撃魔法の成績は良い。座学に興味が無い様子。私は人の印象に対して判断するのが苦手なのでクラス担任に聞き取り。明るく表情豊か同級生に慕われている。短気で最速で結果を出したがる。積み重ねが必要な科目は点数が頭打ち。


▷月⬜︎日

 リアンを監視しているらしいミアラス君と話す。学ぶという事に大変興味があるというので空き時間に個人的に指導する事にする。無意識に魔力で身体強化精神強化をしている。面白い。やる気のある子は大好きだ。

 ミアラス君によると、研究にお金をつぎ込んでいるリアンは「栄養があって食べられれば良い」と言って、食事の出ない休日に寮の庭の雑草を煮て食べていたらしい。両親に話したら私が叱られた。二人も研究に夢中になると食事を忘れるのにと反論したら、成長期のお嬢さんに何かあったらどうするのかと更に叱られた。確かにそうだ。ミアラス君に代金を渡して休日に差し入れをしてくれる様に頼んだ。


▷月◇日

 リアンが嫌がらせを受けていると同僚から聞く。本人に聞いたが「そうみたいですね」という返事。困ったら相談する様にと伝えたが、古代文字の解読の話に変わってしまった。解読の話で盛り上がり、今はぐらかされた事に気がついた。本人が気にしていない様子だと同僚に話すと「首席特待生に事故があっては困るから学生指導課に通達する」という返事。私はこういう状況でどうして良いかわからない。

 取り敢えず図書室の特別室にリアンが入室出来る様に手続きした。きっと喜んでくれる筈。


△月◎日

 午前中にリアンの王立図書館の全てのフロア出入り可能の手続きが完了。陛下と妃殿下に報告。大喜びされる。解読されていないナイザリアの歴史古書を彼女が紐解いてくれるのではと期待している様子。私も楽しみだ。出来れば魔導古書から解読して欲しい。

 午後になってリアンが寮の庭で小麦粉から作る糊を煮て冷やしていたら、鳥に食べられたと悲しそうな顔で講師室に入って来た。小麦粉と水が材料と言うが、それは食べ物では無いのか?食べられて当然では無いのか?

 午前にとれた許可証を渡すと、笑顔でくるくると回転し「図書館!」と叫んで部屋を出て行った。挨拶も無くドアも閉めてくれなかった。その気持ちはわかるので私が閉めた。


△月⬜︎日

 第三回リアンをナクレイ家の養女にすべきか否か会議を家族で行う。毎回「王家と繋がるとリアンを囲い込まれる可能性がある」と言う理由で立ち消え。リアンには大切な母君がいらっしゃるのも大きな否定理由。母君は大神殿の下働きをしているが、良い人を寄越してくれたと感謝されている。大神殿なら貴族も手が出せないから安心だ。


△月○日

 王立図書館職員達に良い非常勤職員を紹介してくれたと感謝の言葉を貰う。みんな可愛らしいというが、私は人の外見の是非がわからない。

 講師室にレイテッド令嬢の訪問。王立図書館の全てのフロアの入室許可の推薦が欲しいとの事。令嬢の実績では無理だと断ると、リューカ殿下の推薦状を渡される。それでも無理だと思われるので推薦状を預かり、後日返事という事にした。ミアラス君がレイテッド公爵の手伝いで出入り自由だと伝えたが、自分が出入り出来ないと意味が無いという。魔道具の研究というが、彼女の開発した魔道具を私は一つも知らない。


△月▽日

 父さんから陛下にリューカ殿下の推薦状を渡して貰う。私は講師という仕事があるので、面倒は父さんに片付けて貰おう。

 母さんに男爵庶子という弱い立場のリアンが妬みや嫉みや利用してやろうというトラブルに巻き込まれた時の為の対策を考えろと言われたので、商会の仕事に興味があるというミアラス君に相談。商売は専門外なので、陛下や妃殿下への対応をすると約束する。ミアラス君はリアンを気に入っているらしい。二人は私の大切な生徒だから、お互い仲良く成長していくのはとても嬉しい。

 レイテッド令嬢の魔道具を確認。製菓用具だった。興味無し。


◎月◇日

 古書の解読は順調。陛下も両親も私も大満足。崩れかけていた古書の修復もどんどん進んでいる。

 先日、リアンが寮の裏手で異臭騒ぎを起こした。墨という煤と膠を使ったインクを作っていたという。実際に貰った墨はとても良い物だったが、魔法研究室の講師達の制服に落ちない汚れがついた。みんな服がブチ柄になったが気にしないで着ていたら、陛下にみっともないと注意された。


◎月△日

 リアンが武術大会で準決勝まで進んでリタイア。身体強化魔法の重ねがけに惚れ惚れした。基礎魔法の講師が研究室で再現して欲しいと依頼していたので、私も見に行く事にする。


◎月▽日

 ミアラス君がサザンアルト国に作った商会が軌道に乗って、叙爵されたとの報告。変わった魔導書、奇書、稀覯本があったら確保して欲しいとお願いした。楽しみだ。


◎月⬜︎日

 妃殿下から母さんにリアンを皇子達の側妃としてどうかという話があった。個人指導をしていた母さんは、リアンは研究家だから妃には向かないと伝えたらしいが、今まで明確になっていなかった皇国の歴史書の解読をしているリアンを囲み込みたいらしい。実際に皇子側妃として何かする必要は無く好きな研究だけしてくれれば良いという待遇らしい。

 母さんは皇子達のリアンに対する態度を私よりよく知っているので、止めるべきとはっきり言ったとの事。側妃になったら皇子の気持ち一つで研究から手を引かされると言ったら、妃殿下も考え直したらしい。皇子達は製菓魔道具令嬢を気に入って、二人とも正妃にしたいと言っているのだそうで、妃殿下も大変だと母さんが父さんに話していた。


▽月△日

 父さんが怒り心頭で下城して来た。陛下にリアンを退学にしたいと皇子達から提言があったとの事。

 陛下はリアンが古書の解読と修復が出来る事は知っていたが、皇子達はリアンが極大魔法が使える事や他国言語を習得している事は話さず、王族や上位貴族に対して態度が悪い、心根が良く無いという理由を上げてきたと父さんに事実確認をしてきた。

 父さんの話を聞いて、皇子達に疎まれている事実を考えたら通学は難しいから王立図書館の職員にする案を出されたが、父さんが卒業すれば魔法省の専門研究家でも、図書館でも、学園の講師にもなれるし、他国の古書の解読も出来る外交も出来ると説明すると少し考えると話を終わられた。

 見込みのある娘の方が、皇子達より上という父さんの考えは不敬だけど、私も母さんも同じだ。


▽月○日

 リアンが菓子魔道具令嬢を学園の階段から突き落としたと連絡あり。

 寮の職員が不在証明をしたが、聞き取りや確認の前にに皇子達に犯人だと決めつけられて乱暴されていた。ミアラス君と国外脱出の話をして、父さんと母さんに話す。

 父さんが陛下に謁見を申し込んだ。


▽月◇日

 リアンの留学を陛下と妃殿下が承認。外交担当大臣に対象国に打診して貰う。


▽月⬜︎日

 留学先として打診したオスワルド、シャグディラ、サザンアルトの三国全てから大歓迎の返事を貰う。どの国もリアンの言語力、古書解読力、書物の修復能力に大きく期待するとの事。サザンアルトを選んでくれますように、と話を聞いてからミアラス君がずっと祈っている。


◇月○日

 学園卒業式。リューカ皇子が独断でリアンに退学を言い渡したと図書館職員が知らせに来てくれた。朝から様子を見に行っていたミアラス君から連絡無し。報告を受けて直ぐ両親が登城。帰って来ない。

 夕方に学園に様子を見に行くと、講師達がリアンの加速魔法の様子を大興奮で話してくれた。すごく面白そうだったから、卒業式を面倒だと思わず見にいけば良かった。今度実際に見せて貰おう。


◇月▽日

 ライアット男爵家族が捕まった。ミアラス君に順次情報を送る。


◇月△日

 ナイザリア学園の講師退職。面白い生徒が他にいない。街でもリアン並みに面白い子が見つからない。つまらない。

 陛下と妃殿下が皇子達に罰を与えたと父さんから聞いた。リューカ皇子一人で退学を決めたのではなく、トリカ皇子や宰相令息や騎士団令息も関わっていたとかで、多くの生徒達が菓子令嬢に関わると皇子達に退学にされると怯えているとか。庶子の首席特待生を守れなかったという理由で学園長も交代。父さんに就任話があったらしいけど忙しいと断った。「ルトール君みたいな生徒がいるなら就任する」と言っている。いたら父さんを押し退けて私が就任したい。


◇月◎日

 リアンから頼まれてミアラス君がライアット令嬢を保護したいと連絡。リアンから義姉への手紙とミアラス君の商会からの小切手が同封されている。我が家で一番交友関係が広い母さんに任せる。

 令嬢はリアンに嫌がらせをしていたそうなので、どうなっても構わないが、気になってリアンの就学に支障が出るのだけは避けたい。


◁月○日

 ミアラス君からサザンアルトで落ち着いて過ごせていると連絡あり。リアンの母君の様子を聞かれたが、菓子令嬢や公爵や宰相が捜索しているという話もあるので、もう少し大神殿で保護して貰う旨を返信。


▷月◎日

 リアンとミアラス君の結婚式の招待状が届く。両親が私の嫁にしたかったと本気で残念がっていた。実現していたら研究一家の出来上がりだが、リアンは私の大切な生徒だからそれは無い。先の話だけれど、二人の弟子の子供が出来たらきっともっと楽しい。ナクレイ家からのお祝いの品を用意するのも楽しい。


◎月⬜︎日

 陛下に相談してリアンの母君を王立図書館職員として一緒に出国。陛下は母君をリアンが帰国する為の保証にしたがったが、妃殿下にそれをすると二度と帰国しないだろうと諫められ、反省していた。


◎月◇日

 弟子達の結婚式。

 私は人の心の機微がわからない。けれど、二人の笑顔を見てとても嬉しくて、楽しくて、安心して、そして何故か涙が出た。

短編で前後編という形の本編、連載での番外編という事で、主人公の視点、脇役達の視点、で纏めました。

出来れば本編のみで補足無しというのが一番良心的だと思うのですが、表現に対して色々考える事が出来ました。

お付き合いいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一人の目から物語を紡ぐと、伝え切れない事象、その裏の陰謀などが書けないですよね。 このように複数の視点から同じことを見ると、見た立場によって見方が変わると言うことがよくわかります。 とても…
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