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6日目 〜サボりの許可

 朝早く目が覚めた。色々やりたいことがあってじっとしていられない。ジェイドはまだ寝てるので、そっとベッドから抜け出す。ちょっと実験。グラスの水を、花瓶に活けられた赤い花の色にしたい。魔法でパッと好きな色に変えられるのかもしれないけど、何となく怖いので無から有を生む、は試しもしない予定。


 染めるって英語で何ていう?分からない、ググりたい。色を移す方向で行こう。花の色をリムーブして水をちょんと触る。赤い色水ができた!今度はグラスを染めてみたい。青い花でやってみる。できた!すばらしい!でも花は白くなっちゃった。花に色を残すのはできないかと黄色い花で試すと、花は薄いクリーム色になり、グラスにはマーブリングみたいに薄い黄色の模様が入った。緑にはならない。研究が必要だ。


 振り向くとジェイドがいた。ビビった。落下から死守したグラスはジェイドによってサイドテーブルに戻され、黙ったまま私も抱き上げてベッドに戻される。うるさかったかな?音は立ててないはず。魔法の揺らぎ的なものを感じて目が覚めちゃったとか?申し訳ない。


 朝食時に打ち合わせをする。今日は村の木こりに敷地外の、塀沿いぎりぎりに生えた木をぐるっと切ってもらう。これで森と一体化した塀が少しは見やすくなる。午後はその木を使い、大工にライトをつけるための柱を、ババンと四本立ててもらう。公共事業で村にお金を落とし、迷子も解消。一石二鳥!まだまだ落とすよ~鳥さん逃げて!


 平民でも、髪の色が普通の茶色でも、魔法が使える人は結構いるらしい。そもそもこの国には複雑な魔法がないので、魔力があって学校で習えれば、乾かしたり燃やしたりの生活魔法?は大抵できるようになる。特別強い適性とか一種類特化とか、魔法量がめちゃ多いとかだとあのビビッドカラーになるらしい。カラフルさんは比較的貴族に多いけど、絶対でもないとのこと。孤児院の二人はもしかして貴族のご落胤とかなのかもね。


 今日の護衛はクロール。満を持して泳げるか聞いてみたら、泳ごうと思ったこともないそうだ。これで護衛も一周だ。じっくり観察すると、色が違うだけでブランシュと細部までそっくり。一卵性か二卵性か悩むところだ。髪色の魔法学とか研究してる人いないのかな。はっ?!……ここまで魔法の設定が緩いのは、もしや複雑な魔法とか原理を研究するのが禁忌だからかも。……やばい~もうやっちゃってるしジェイドにも見せちゃった。考え無しは危険だ。


 観察したまま考え込んじゃったので、クロがモジモジしだした。無表情の、ベタ塗りみたいな黒目にガン見されたら、元の現実世界でも恐怖かも。失敬失敬。ちなみにジェイド以外はみんな茶色の目。濃淡はあれど、髪も目も茶色がスタンダードらしい。村には凄く色が薄くて、麦藁帽子みたいな髪色の人もいたけど。



 庭で赤と青と白と黄色の花を摘む。新鮮な方がいいでしょう。できるだけ平らで黒っぽい石も拾って洗う。いつもの青い鳥さんが遊びに来た。リクエスト通りしつじの歌を歌う。待て待て、ここに井戸があり、鳥と歌うならばあの出会いを乞う歌だよね。これぞ童話の世界。気分よく歌ってみると、やっぱりちょっと歌上手くなってる。異世界チートにしてはしょっぱいけど、豪快な歌ウマって憧れだったから案外いいかも!


 実際問題王子様疑惑の人が側にいるから、それが判明するのが早いか、私が捨てられるのが早いか……平民でいいからいつかと言わず早めに私だけの王子様を見つけたい。そんな気持ちを込めてもう一曲歌ってるうちに泣きたくなってきた。早くジェイドの許婚の有無を確認しなきゃ。鳥さんも一緒に歌ってくれて、気持ちよかった~


 振り向くとジェイドがいた。ビビった(二回目)。クロが変な顔してる。英語は翻訳されないはずだけど、出だしの簡単なとこだけだし、さほど呪文っぽくはなかったでしょ?放置して一人で歌ってたから引かれたか。


 きこり作業は、ブランシュが馬で周りながらウインドカッター的な魔法でスパスパ切って、後処理だけ本業に任せてきたらしい。白だから治癒魔法というわけではないようだ。孤児院の赤と青が手伝いに来てた。驚いたことにまんま赤くんと青くんって名前らしい。私の格好を見て、本当に女だったと驚かれた。誤解しあって驚きあって、私たちいい友達だね!と言ったら変な顔された。弟子入門祝いになんかマシな名前を付けるよう頼まれた。考えておこう。



 ヤキモチジェイドに抱っこされて部屋に戻る。二人きりの部屋で、届いていた船用の魔法ランタンのガラスに色を付ける。赤、青、白、黄色は花で、黒は私の髪を切って試してみた。色味と透け感のバランスを見ながらどんどん切っていたら、ジェイドに止められた。部屋の外に出て戻って来たら、クロールの襟足のしっぽ髪を持っていた。なんでだ~?!ブランとそっくり色違いじゃなくなっちゃったよ。


 彩色完了したランタンの上部に黒い石を貼付ける。船では、漠然とした魔力を込めて光らせて、消えたらまた魔力追加するらしいけど、高いところにくくるのにそんなの面倒臭いから、太陽の力を借りる。この国に魔石は存在しないらしいから秘密の作業。「太陽ソーラーじゃけん」と魔法をかけ、暗い時にランタンを光らせるように条件づけする。プログラミングみたいだな。あとは、状態保存の魔法とかやってみようかな。呪文は「キープ」。できたかどうかは、壊れて初めてわかるでしょう。


 ランタンを窓辺に置いて、今日は部屋でお昼ご飯。今日のジェイドはちょっと変だ。あまりしゃべらない。許婚の件は夜に聞くことにする。鳥さんのリクエストにより、食後にしつじの歌を歌う。メリーもご機嫌斜めだ。仕方ない、白黒決着配送事故やぎの歌にしよう。あとは、青が強奪赤は号泣だんご踊鬼の歌とかあったかな?ググりたい。



 食後にまた二人。点くかどうかの確認をするために、窓のカーテンとベッドの帳を閉めて、ランタンを一つ持って入る。オッケー!眩しいくら光るわ。色も分かるし夜中保てばいいな。これ、部屋を暗くしなくても石を手で覆えばいけるかも?帳を開けようと振り向くとジェイドがいた。ビビった(三回目)。ランタンを取られて、サイドテーブルに置かれて黙って抱きしめられる。


 やっぱりジェイドの様子がおかしい。ピリピリしてる感じ。理由も聞けない雰囲気だ。どうしよう。ちょっと前なら気にせず聞いちゃってたけど、いい歳して、ヤルことヤっておいて、恋する乙女かって自分でツッコミ入れちゃうくらいドギマギしてる。嫌われたくない。捨てられたくない。泣きたい。


 午後の作業はみんなにお任せして、このまま二人でいようか。でも仕事を途中で投げ出したくない。身じろぎして上を向くと見つめられた。しばらくそうしてた後、頬を合わせて耳元で小さく小さくささやかれた。


「そんなに頑張らなくていいよ。」


頭が真っ白になった。ひゅっと息を呑む。


 ここで頑張り始めてたったの二日目だし、労いじゃない。お払い箱にするのに下手に手柄を立てられると面倒だから止めさせたいの?って、いつもの私なら聞いてた。でも、それが正解だったとしても、私にはこのセリフがすっごく胸に響いた。雷に打たれたって言ってもいいかもしれない。ここに来てからの私じゃなくて、世知辛い現実世界で、人に頼れず、素直になれず、彼氏にも逃げられ、一人で頑張って張り詰めていた元の世界の私の心の糸が、ふっと緩んだ気がした。


 辛くても、ずっとずっと泣けなかった涙が、次々こぼれて来る。どうしてジェイドは欲しい言葉がわかったんだろう。まだ出会って一週間もたってないのに。月並みだけど、ジェイドに会うために、ジェイドのところに落ちてきたんだなって思える。役に立たなくても側に置いてくれるかな。私、側にいたいって言ってもいいんだろうか。


 ふと気付くと外が明るい。日が落ちて、窓際のランタンが灯ってるみたい。ジェイドの服が私の涙で冷たい。結局仕事サボっちゃったよ。まあいいか。凄くスッキリ澄み切った気分。私にとってジェイドは……いい例えはないか……ジェイドは私の、アク取りシートみたい!……駄目だ、ロマンの欠片もない。顔を上げると緑の目が、じっとこっちを見ている。女は度胸だ!言ってしまえ!でもなんて??



「……すき。」


「やっと言ってくれた。俺もお前が好きだよ。」



俺?やっぱり俺様ジェイド様だったか。でもこっちのがいい。嘘臭くない。頬の涙を拭ってくれる。


「初めて会った時、息が止まるかと思った。俺だけが愛して俺だけを愛する女の子が、やっと天から与えられたと思ったんだ。嬉しくて愛おしくて、大事に大事に抱いただろ。見た目は幼いけど、目がさ、とても子供には見えなかった。動揺はしてても達観して諦めて、あらがうことに疲れて逃避してる。そんな目をしてた。まるで昔の自分を見ているようだったよ。」


「そんな最初から……全部わかってたんだ。」


「実際には館中どころか領地中、皆手なずけて、全く俺だけのマイミィじゃなかったが。孤児院から帰ってから、急に追い立てられるようにやる気を出して、悲壮な顔して次々に手掛け始めただろ。俺はどんどん好きになっていってるのに、お前は全部終わったらいなくなるつもりじゃないかと焦ったぞ。誰かに何か言われたのか?」


「悲壮って……私、無表情だったでしょ?」


「思い詰めた顔してたぜ。俺も幼少期から濁ったガラス玉のような目で、無害そうな男を装っては口や眉をひくつかせてたし、腹の底で罵りながら、後でポラリスに愚痴をこぼしたりしてたよ。同類には鼻が効くんだろ。」


「確かにジェイドの優男ぶりは胡散臭かった。……私さ、ジェイドのことが好きになったらさ、飽きられてポイされるのが怖くなったの。だから働いて役に立ちたくなったの。高貴なお方には許婚くらいいるんでしょ、王子様?」



「やっぱり知ってたか……」


「っ!」


「いや、許婚はいない。俺の子供なんて、継承権を考えたらあちらには恐怖だろう……側室だった俺の母親を、殺した王妃とその息子たちに、俺も疎まれここに追いやられてずっと命を狙われてきたんだ。」


「継母と義理の兄達だね。だからホムルとカイトが監視なんだ……まさかメリーたちも??」


「メリーたちは育ての親みたいなものだけど、忠誠を誓ったのは俺に、ではないな。……各目付が報告に手心を加えてくれていればいいが、お前のこともどこまであちらに漏れているか……王妃ではなくむしろ、王に黒髪のマイミィのことがバレたら厄介だ。懲りずにまた俺を王太子にしようとするかもしれない。」


「……王様がジェイドを王太子にしようとするから、王妃一派に消されそうってことね。揉めて一度諦めたのに、未だに後を継がせたいと思う理由は何なの?」


「俺の母親も黒髪だった。忌避なんてそっちのけで魔法力を求めたんだ。ほら、ここ。ジャミング?の結界を俺が張ってみた。今まで目立たない様に、魔法も無難なものしか使わなかったが、力を受け継いだ俺は、どういうものか説明してもらえれば、多分マイと同程度には魔法が使えるだろう。その発想力は真似できないけどな。俺達の子なら尚更、王は欲しがる。お前のことが王妃にバレたら、奪って息子の側室にするか、暗殺者を寄越すな。」


「……黒髪は忌避の対象でしかないと思ってた。・・・だから私がでしゃばって目立つのが駄目だったんだ。」


「それは違う。あの仕事は悲壮な顔でふらついてまでやることじゃなかったし、王妃でも村の男にでも、見つけられて奪われるのが怖かっただけだ。でも本当は、マイ自身が自分で俺から離れて行くのが一番怖かったんだ。俺にお前を守る力があって、マイが楽しくできるなら、いくらでも執務に携わってもらって構わない。」


「そっか~。ゴメン、私の思い付きが色々心配かけてちゃったんだね。……ホムル達は私達をどうするつもりだろう?」


「奴らはマイを気に入っているから、このままここに置きたいと思わせれば、ホムルとカイトは平気だろう。王都に一緒に連れて行きたいなどと言い出したら消してやる。」


「いや!消さない方向で考えよう!……じゃあランタン作戦は丁度よかったかも。で?大丈夫じゃないのはメリー?」


「そうだ。あいつと王は、国の為になると思えば何でもしかねない。俺を育てたのも王太子に相応しいか見極めるためだ。王妃の息子は二人とも茶色の髪で愚鈍なんだ。俺達の初夜の翌日に食事が豪華だったのは、やっと俺が女に興味を持った祝いだからだろう。子種を消してしまったから、ぬか喜びだけどな。」


「ん!?……お~。それも気付いてたんだね。ちなみに俺だけ()愛するっていうのは?」



「ん~……あぁ~。母は王以外からは忌避されていたから、離宮で母の世界は、俺とたまに来る王が全てだったんだ。ずっと誰とも寄り添わずにきた俺は、病んでるんだろうな……あの離宮での王と母のように、俺だけの愛を手にしたかった、どうしようもない人間なんだ。……諦めた目をした黒髪の少女なら、俺の腕から逃げずに側にいてくれると思ってしまったんだ。」


「そんなことないよ!!……悲しい思いをしてきたのなら、愛されたくて当然だよ。側にずっといていなくならないで欲しいって、私も思ってたよ。」


 昨日よりもっとずっと胸が締め付けられる。狭心症かもしれない。でも今は、死んでも小さいジェイドの愛されたかった気持ちを受け止めなくちゃいけないと思う。涙で顔がヤバいことになってるけど、お互い様だ。


「私は、あなたを愛して愛されるためだけに天蓋から落ちてきたんだから、大事に大事に抱いてください。」




 それから私達は、子供みたいに必死にぎゅうぎゅう抱きつきあって、ゆっくりゆっくり優しい時を過ごした後、すき間なくぴったりくっついて、夕飯も食べずに朝まで寝た。




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