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5日目 〜私、結構使えますゼ



 おねだりの代償で朝からすっごくダルい。でもちょっとでも子供の役に立てた満足感で幸せに溢れてる気がする。やっぱ子供っていい。イカツかったけどピュアだった。私は昔、元の世界で先生になりたくて、塾でバイトしたり教育実習に行ったりしたけど……結局先生にはならなかった。なってたら何か変わってたのかな。


過ぎたことを考えたくなるのはゆとりが生まれたからかもしれない。元の現実社会では、就職してから日々に必死で、明日より先のことは中々考えられなかった。気が張ってて、男っぽくなったと当時の彼氏には嫌がられた。上手く行かない毎日で、張り付いた営業スマイルは、今の無表情と変わらなかったのかもしれない。マーサの淑女の微笑とは違う、引きつったの取り繕いの笑み。今あそこに戻れるのなら、もっと上手くやれるのかもしれない。



 でもまだ考えちゃ駄目だ。今はジェイドの役に立ちたいと思う。あの人の優男振りはちょっと嘘臭い。私の営業スマイルと似た匂いがする。変わらない笑顔の裏で、私みたいに毒づいたりツッコミ入れたりしてるのかな。それならまだいいけど。本当はもっと俺様ジェイド様なんじゃないかな。だって厳ついし。でもちょい垂れ目がミスマッチで、実はかわいい。


 楽園リゾートなのに人の温度がない、側に人がいてもよそよそしく、監視されて制限されているこんな館で、ジェイドは一体いつから過ごしてるんだろう。胸が締め付けられてなんだか涙が出そう。……っていうか胸が締め付けられるって、人体のどういう仕組みで成り立ってるんだろう。……まあいい。今度もうちょっと踏み込んで、彼の生い立ちを聞いてみようか。



 でもそういえば!結婚はしてないらしいけど、高貴なお方には許婚とかがいるものではないか??危なかった~これ以上のめり込んだら三角関係の泥沼になるとこだった。ざまあは嫌だ。泥沼以前に、はなから一時的なごチョウアイ予定だったのかも。捨てられてはここでの生活に困ってしまう。ちょっと気まぐれにお手が付いただけでは飽きられてしまう。働いて役に立たなくては。




 朝食の席で、昨日持ち帰った案件は、森で領民が迷子になることだと聞く。神域だからなのかちょっと普通じゃなく迷うらしい。しかも以前からではなく最近の話。磁石が回っちゃうなんて時空の歪みでもあるんだろうか。……って私のせい??いや私も被害者だと主張したい。けど気に掛かるし、いい機会だからこれをお手伝いしよう。


 迷うならば森に目印とかを付けるのはどうか。昔の目印といえば星?ちなみに星空は地球から見るのと同じっぽい。不思議だ。でも星は昼には見えないから、そうだな……海じゃないけど灯台とか?領主館敷地にでも立てる?



 そんなことを考えてたら、朝食の手が止まってたみたい。大丈夫、気にしないで。考えていたことをジェイドに話す。領主館の西が村だから、そこに灯台を造ればいいかな。……あ、いいこと思いついた!一挙両得!浸透すればクロールの髪の忌避のことまで解決できるかも。




 すぐに画家の手配をしてもらう。幸い村に絵の上手な人がいるらしい。午前のうちに来てくれた。なんとか説明して書いてもらう。その合間に、私は方位記号の丸の中に、領主館の真上からの略図を合わせて書いてみる。ん?これは……。この館を作った人、私の世界の人なのでは??


 領主館以外にも目印を簡単に入れようと、お茶を入れてくれたマーサに聞いてみたら、北が岡、南はあの泉、東に小川。西が村でその先に王都へ向かう道。領主館の塀は、馬で回って大体を計ってもらったところほぼ正方形。館は南面だけど、塀の角が東西南北。塀と館の壁が平行じゃないなんて変わってるよね。でも私の企みの先を行ったような作りだ。素人でも書ける、単純幾何学的な図ができた。


 絵を書けることを驚かれたけど、音楽でも計算でも、なんでも浅く広く教えてもらえた元の現実世界に感謝だ。無くしてから気づくありがたみ。いや、享受済みだから無くしてはないか。



 昼食も忘れて画家と二人で没頭する。もう夕食だとジェイドに窘められる頃にはほぼ完成した。これを村に置いて、お伽話とセットで広められれば万事解決じゃないかな。森の目印については、手配したものを待って試行錯誤だ。久しぶりに心が動いて意欲的に働いた気がする。働かざるもの食うべからずを忘れていた。寄り掛かって依存してるのは楽だったな。ごチョウアイが終わる前に独り立ちの切っ掛けをつかもう。




 ちょっと根を詰め過ぎてフラフラした。運動不足かもしれない。それにしても思いつきをざっと聞いただけで好きにやらせてくれるなんて、懐の深い領主様だ。心配そうなジェイドに抱きしめられて眠る。あったかい。夜伽は免除だ。





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