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4日目 〜チュウニと遊ぶ



 今日は朝からズボンスタイルでお出掛け。ジェイドの視察について行く。ジェイドの領地は殆どが神域とも言える森で、唯一の例外である村が、今日の目的地。


 ポラリスに相乗りで行く。今日は乗馬服というより普通のズボンとシャツに、調査する兵団さんが着るみたいな緑のポンチョを上から羽織る。本当は長さによって、ローブやらマントやらと言うらしいが、ポンチョと呼ぶ。色と短かさが気に入った。この国に四季はなく、ずっと春と秋くらいの気候とのこと。リゾートか。


 暑いけどポンチョの帽子を外してはいけないそうだ。クロールもそうだけど、私の黒髪は魔法の属性的に微妙らしい。この国に闇魔法とかはないけど、イメージは共通とのこと。偏見よくない。ぶち壊すほどの新たなイメージ戦略が必要だ。とりあえず今は前髪を上げて、後ろは編み込んで三つ編みを垂らし、フードから髪が見えないようにする。


 今日の護衛は、ジェイドにはクロールが、私にはブランシュがつく。家令の勉強中らしいクロは、黒髪でもジェイドの関係者だからどこに行っても問題はない。私はまだ関係者認知されていないので、村長との面通しは次回となった。しかしお忍び探検するにはブランが邪魔だな。まいちゃうかな。



 手前で私だけ馬を降りて、会合のためにジェイドと村長が神殿に向かうのを、遠目でこっそり見る。神殿は街道側の村の入り口、村の奥の森の端に孤児院があり、そのさらに森の奥に領主館がある。


 散歩がてら、側にある孤児院の様子を伺う……見つかった。ガキ大将だ。いや、大人の体格だからやや童顔なゴロツキか。どこかで見たような、赤と青の髪のゴロツキたちに両腕を引っ張られる。面白いから付いて行きたいので、馬を引いたブランにウインクで合図を送る。上手くウインクできなくて、目以外のところも変に動いたが、ブランは顔を背けて影に隠れたので伝わったのだろう。



「お前見ない顔だな。よそ者か。」



 あらゆる意味で肯定したいけど、今は我慢。ていうか何歳なんだろう。成人は孤児院にはいないはずだ。すでにブランくらいデカい。


 学生時代に取った杵柄、見上げる角度で大体の身長がわかる。ホムルは190オーバー。ジェイドとカイトは180真ん中くらい。ブランシュとクロールは170後半かな。


 どうもこの国の人達は男女ともに骨太?身長は日本とそれ程変わらないけど、断然ガッチリしてる。特に子供がデカいというか、育つのが早いらしい。16で成人だけど、14、5には大人の体格だ。つまり150後半な私はまだ育ってる途中と思われているようだ。一方彼らは、やや小柄な双子たちと同じくらいということは、14歳くらい?中二だな。よしよし、遊んであげよう。楽しくなってきた。



「ここに何の用だよ。お前みたいな小綺麗な坊ちゃんが来るところじゃねえんだ。」



 あら、警戒されてる?ゴロツキじゃなくて用心棒か、感心感心。……坊ちゃんね、了解!んん、ちょっと低めの声が出せるかな。



「君たちはここの人なんだろう?丁度よかった、僕を案内してくれよ。」


「ん?もしかしてお前新入りか?さっきの白い髪の人に捨てられたのか?」


「あれは領主様のところの人だよ。ここまで連れて来てくれたんだ。」


「親はどうしたんだよ。いないのか?」


「国にいるはずだけど……分からない。」


「お前、売られたのか?」


「この国では子供を売り買いするの?僕は気が付いたら夜の森にいて、領主様に連れて帰ってもらったんだ。」


「領主様って確か……結婚しないし、いつも綺麗な顔の護衛を取っ替え引っかえしてるから、男色って噂されてる人じゃ……」



 嘘?!マジで??ジェイドさん?そんな噂になっちゃってたの?いくら私が無表情の修行中でも、これは無理だわ。耐えられん。超ウケるんですけどっ!フードで顔隠れないかな。ぐふふふ……



「お前泣いて……辛かったな。ここに来たからにはもう大丈夫だぞ。俺たちが守ってやるっ!」


「マズっ、違う違う!泣いてない!君たちが勘違いしてるのがおかしかったんだ。領主様は本当にいい人だよ。ほら、泣いてない。」



 フードを払って顔を見せる。「!?……」――ああ、しまった。髪は見せちゃだめなんだった。貴族社会だけじゃなくて、村の子供にまで浸透しちゃってるのか。根深いな。



「ゴメン。この髪見るの嫌だよね。すぐ隠すよ。」


「っ!いや、違う!その髪のせいで捨てられたのかと思ったら気の毒でさ。この村ではそんなことくらい誰も気にしないよ。町に行かなきゃ平気だ。行かなくて済むように俺たちが手を貸してやるからさ。気にすんな!」



 お~。マジでいい子たちじゃん!赤しかしゃべってないけど、青もめっちゃうなずいてる。うちの護衛と口数と色が逆だ。からかおうとして申し訳なかった。なんか荒んだ心が洗われた気分だ。本当に涙が出ちゃうよ。



「二人ともありがとう。すごくうれしいよ。歳は離れてるけど、私と友達になってくれる?」


「いいよ!でもここに住むんだからもう家族だろ?」



 はあぁ~。布教活動しなくてもわかってくれる人達がここにいたよ。同じ釜の飯システムを。なんだろう……ひねてないというか素直というか、中二の病になんてかからないんだろうな、きっと。すぐに茶化したりツッコミ入れたり裏読みしちゃう、自分の悪いところを目の当たりにした気分。もう少し誠実にならないとな。もう本当のことを言おう(言える範囲で)。



「私はここ……孤児院というか、この領地に住む新入りなんだ。勘違いさせてゴメン。私が住むのは領主館なんだ。今日は領主様の視察について来たんだよ。」


「そうか……まあ遊びに来いよ。迷わないようにまた誰かに連れて来てもらえ。俺達もうすぐ14だし、そろそろ仕事の見習いをしないといけなからさ、遊ぶなら今のうちだぜ。まあ、孤児院にはお前と同じくらいの歳のやつもまだいるけどな。」


「仕事はもう決まってるの?二人ともやりたいこととかある?」


「親がいるやつは大体それを継ぐけど……俺達は雇ってくれる人がいれば選べるんだ。この髪だろ。魔法が使えるようになって役に立ちたいとは思うんだけど……学校に通ってないからさ。一番無難なのは腕っ節を活かして兵士とかかなと思ってる。」


「そうか……だったら魔法教えてくれそうな人達に心当たりがあるよ。雑用とか力仕事とかもしてくれるなら弟子入りできるように頼んでみようか。成人まで試して駄目でも兵士の方に斡旋してもらうし。」


「できるのかっ?!そんなこと!」


「おねだりしてみるよ。多分大丈夫。騎士は余ってるけど、人手は不足してるらしいから。成人までは通いがいいんでしょ?用心棒さんたち?」


「ああ、頼む!よろしくお願いします!」


「……ということなんだけど、いいよねジェイド?随分来るのが早かったけど、ブランが告げ口したの?」


「そうだよ。私の大切な妖精さんが悪ガキに捕まったって連絡が来たからね。案件は持ち帰りだよ。さあ、おねだりするからには私を甘やかしてくれるんだろう?こちらにおいで。」


「!?お前、やっぱり領主様にそういう……お前を犠牲にしてまで叶えたいことなんてないっ!夜伽なんてしなくていいんだっ!」


「ぶぶっ……ジェイド様?あなた男色で、子供に夜伽をさせるような領主様だったの?」


「ふ~……いつから私の大事な妖精さんは男になったんだい?それに充分に大人だってこと、私はよく知っているよ。問題ないだろう?酷いな~なんだいその言い掛かりは?」


「えっ……?!男じゃない?」


「私は女で君より10は年上だよ、勘違いさん。人を見た目で判断しちゃ駄目だよ。それに親の話も、気が付いたらこの国にいたのも本当さ。夜伽はしてるけどね。ふふっ。」


「えぇ~っっ!!」




 王都にお使いに行ってる間に、ホムルとカイトに通いの弟子ができました。めでたしめでたし……。


 じゃなかった。おねだりの代償は大きかった。更に今日もブランたちのお下がりを着てたのも気に入らなかったみたい。……やっぱり夜は寝られませんでした。彼らの王都でのお使いには、私の新しいズボンとシャツの注文も含まれてたらしい。ジェイドのヤキモチ焼きがひどい。お気に入りのポンチョを死守するために、対価として日中のベタベタも追加されました。解せぬ。


 まだ4日目なのに、濃すぎる日々だ。失ったものにはまだ目が向けられないけど、元の世界、現実の、現代社会で蓄積された心の滓が、この童話みたいな世界で、凄い勢いで浄化されてる気がする。それに疲れ切った心が、ジェイドのドロドロの甘やかしで元気になってきたみたい。


 少しでもジェイドに恩返しできたらいいな。あの人も、笑顔の仮面をかぶって心を殺して、一人で生きようとしている気がする。十年単位で一緒にいる彼らと、どうも距離感が微妙なんだよね。貴族ってそんなものなのかな。ちょっと寂しいよね。文字通り、降って湧いた非現実的な妖精が、少しでもジェイドの心の支えになれますように。






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