7日目 〜モノホンとはこういうこと
まだ早朝、薄明かりの中で目が覚めた。充電時間が足りなくて、朝まで明かりが保たなかったみたい。避妊を思い出して、ふと考える。昨日リムーブした花の色は、なくならないでちょんしたところに移動した。Cut and Paste みたいな?ということは、今まで子種はリムーブしてたけど、寝ぼけて手を下ろしたところにちょん……いや考えまい。でもごめんマーサ。子種を汚れとかばい菌みたいに考えるのが嫌で、クリーンではないなと思ってたんだけど、再検討が必要だ。しかし除去された色や子種は、ちょんするまでの間どこに格納されてるんだろう……まあいい。
懲りずに子種をリムーブしようと動いたら、ぎゅぎゅっと抱き絞められた。ギブギブっ!心配しなくてもいいよって背中を撫でる。私はちゃんとここにいるって言おうと思ってふと気付いた。突然この世界に来たんだから突然戻るかもしれないということに。急に怖くなってブルッと震える。
「寒い?」
「ううん。……大丈夫。」
確定じゃない、自分すら今まで気付いていなかったことを、今話していたずらに不安にさせることもない。ちょんしないイメージで、リムーブだけする。幸せに迎えてあげられるまではまだお預けだ。
今日も忙しい。考えることもいっぱいだ。メリー達とどんな顔して会おう。……もう無表情のままでいいか。その方がボロが出にくそうだ。無価値に見せる為に、引き続き魔法は見せない、異世界チートはしない。……歌は?絵は?もう散々見せたし今更だな。芸術は政治には役に立たないからまあいいか。
昨日は焦ってて気付かなかったけど、太陽ソーラーと自動onoffをバラさない為には、何か言い訳を考えなきゃいけない。それに!先に柱を立てたら高くてランタン付けられないじゃん。う~……やっぱちょっと落ち着かないとだめだな。思い付きに飛びついてはいけない。
今日はみんなで神殿に絵を奉納する予定。この国の神様は太陽と月の夫婦神で信仰は緩やか。この森は神域の森。……あ~!わかった!凄くいいこと考えついた!私とジェイドがチートに見えないように、他の人達をもっと祭り上げよう。絵だけじゃ足りない。彼らがこの領地に末永く必要だってなるように、もっと印象的に巻き込もう。
「いいことを思い付いたのか?」
え?私独りごと言ったかな?……っていつの間にか朝食の席にいるし!?席というか膝の上だけど。昔から没頭すると周りが見えなるタイプだったけど、さすがにここまでは初めてだ。口が甘い。もう何か食べてる?!
「考えに耽ってるようだったから、世話を焼いておいた。確か孤児院の子供を働かせる代わりに俺を甘やかしてくれるんだったよな?」
むしろ私が甘やかされていますが?メリー夫婦の前だけど俺様のまま?何か考えがあるのかもしれないし、軽くうなずくと、最後まであーんで食べさせられてしまった。私寝間着だし、もうおおっぴらにラブラブ両思いですよアピールか。王妃のちょっかいが怖いって言ってたし、その対策かな。了解です。口の端に付いたジャムを舐めとるのはやり過ぎだと思うけど。私は無表情装備です。動揺なんてしていません。
優男+俺様で、何が完成したんだろう。私も「妖精なのでどん引きの空気も読めません」的なモノホンの何かを早く完成するべきだろうかと、耳元でコソコソ聞くと、そうしてくれと普通の声で言われた。私は今消える恐怖を抱えているから、密着している方が安心ではある。王妃不適格な人外級のどん引き変人アピールで、こっちは王様対策か。了解です!
今日は神殿で神様に絵設置のお願いをするので、白っぽいロングのワンピースを着る。目と髪を隠すためと言われるまま、髪はアップで透けない白いレースのベールをする。これ花嫁っぽくない?この国では違うのかな。元の世界の礼拝ベールの長さだから見にくいけど前は見える。
抱っこで外に出ると館メンバーが勢揃い。私達を見て固まってる。えー……どういう状況だろう。花嫁ごっこにどん引き?いや、考えまい。無口な無表情万歳!でも段取り確認しなきゃ。
ランタンは私が頑張って抱えられるくらいの大きさで5つ。オープン馬車に積んである。それぞれをその髪色の騎士が持って神殿に入る。黄色はジェイド。ぎりぎりまで石に光を当て続けることに注力し、頃合いにさりげなく石を手で覆い隠すと、なんと神様より光を得られる。護衛騎士の神秘度アップ作戦だ!と、抱っこのまま五人に説明してやる。何か唖然とされてる。ベールしてるから誰かわからないのかな?取る?っとジェイドに耳元で聞くと、このままでいいとポラリスに載せられる。このまま四人ともジェイドの味方として側にいてくれるといいな。
神殿に着くと入口に黄色い花が咲いている。黄色であることに意味がある!摘んでいいか聞いて、ジェイドのジャケットの胸に挿す。すると私にも何本か髪に挿して飾ってくれた。何だか本当に結婚式みたいで、うれしくてジェイドを見たら、元々下がり気味の緑の目が優しく笑ってくれたから、幸せで胸が苦しくて涙が止まらなくなった。ずっと側に一緒にいられるように、神様達にお願いしよう。
野次馬みたいに、遠巻きに村の人達が集まってる。赤青もいるみたい。手を振りたいけどエスコートされてるし我慢。神官様が出てきて、今日は絵の奉納と聞いていますがこちらは?と私を見る。ヤバいヤバい!打ち合わせしてないよ。
「本日は領地の為に太陽神様のお力を拝借する嘆願と、その感謝の気持ちとして絵を奉納すること、そして私がこちらの女性を妻に迎える許可を神々に頂きたく思います。」
「?!」
聞いてないよ聞いてない。そうであればいいと思ってたけど本当なの??神々相手に振りはないよね??話したいけどこっちを見れくれない。あ、でもまだ許可をもらうだけだし、異世界人だし、まずオッケーだけ先にもらうってことね。了解です!
双子を先頭に、私達二人、ジェイドの代わりにランタンを持ったメリーが後ろに付く。(来てたのか!?)その後ろに大人の赤青がランタンを持って一緒に歩く。石が影になると光っちゃうから気を付けて!って言いたいよ。あくまで、魔法じゃなくて神の力の永久onoffランタンだから!嘆願前に光っちゃマズい。
祭壇の前にみんなで跪く。メリーは戻る。マーサとマーガレットが席でそれぞれ絵を持ってる。(来てたのか!?)
<太陽神様、勝手に太陽ソーラーを作ってごめんなさい。でもエコで良いと思うのです。草木に陽の恵みをくださるように、迷える、文字通り道に迷える領民達を導くお力をお貸し下さい。>
目を開けると後ろが明るい。後光か?振り返ると、まだ石に手もかざしてないのに、まるで太陽が入ってるみたいにガンガン光ってる。ありがとう、太陽神様!えせソーラーじゃなくてマジモンのやつですね!小細工いらなかった。感謝します!さあ、みなさん!護衛騎士の髪色に光ってますよ。ジェイドは花の色だけど。うちの子達は凄いんです。私なんて目じゃないんです!って大声で布教したいけど、ここは我慢。妖精の中の人はちゃんと空気読めるんです。
ジェイド達五人がマントを外してランタンにかけて、待機してた大工のオッチャン達に渡す。すごい。あの雑な打ち合わせで手配が行き届いてる。もうお任せしよう。マーサ達が絵を祭壇前に運んで来る。今度はジェイドと二人で跪く。
<太陽と月の夫婦の神様!黒髪の領民が虐げられています。彼等を救う為に私の故郷の神獣を、森の守護獣とすることをお許し下さい。迷える領民、虐げられる領民の為に二枚の絵を神殿に飾ることをお許しください。>
『良いけど、守護獣の絵は孤児院に置いた方が良いんじゃないか?』
「???」
目を開けたら私にだけ光が当たってる。仕込み??ジェイドを見たら驚いた顔で抱きしめられた。必死な様子で離れるのは無理そうだったから寄り添ったまま目を閉じて祈り続ける。
『連れ去ったりしないから落ち着いて。声はあなたにしか聞こえてないわよ、舞美。』
<誰ですか?男女ですか?夫婦神様ですか?返事するには祈る、でいいのかな?>
『良いよ、それで通じる。夫婦神として二人の結婚も認めるよ。だってその為に来たんでしょ?この世界に。』
<マジか。正解だった。ちなみに誰が私をここに来させたんですか?元の世界に戻るとか連絡するとかできますか?>
『私達じゃない誰かが、私達の家であるこの世界にあなたを放り投げたのよ。出会ったあなた達が、初めから結ばれる運命だったのはすぐ分かったから様子を見ていたの。……残念ながら戻す方法も連絡する方法も分からないわ。でも戻さないようにすることはできます。』
<じゃあ戻さないで!お願いします!>
『もちろん。夫婦は共にあるべきだ。じゃあ僕達は君の身元保証人というか、気に入ったから養い親になってやる。元の親にはもう育ててもらえないしな。』
<何か軽いノリの神様だな。奥様神様も良いんですか?話し合ってから決めた方がいいのでは?ていうかもう私大人だけど。でも嬉しいです。>
『もちろん私もまた子育てできて嬉しいわ。じゃあそろそろ終幕ね。ビシッと決めたら適当に合わせてあげるから、上手く終わらせてちょうだい。また会いたくなった時は祈ってね。』
<おお~無茶ぶり。じゃああっち流で!手を繋いで誓いのキスをしますので、ぱーっと光って終わりにしましょう。>
『じゃあ僕、舞美の歌が聞きたい!僕達も求婚の時は歌うものさ。あっちでも結婚する時は歌うんだろ?何の曲でもいいからさ。じゃあね~』
求婚で歌?求愛行動?……さて困った。賛美歌ってことだよね。何でもいいって言っても……あ~。太陽が入ってる歌があったな。確かgraceって女神って意味もあるんじゃない?<歌詞チート付けて下さい!うろ覚えです。>
目を開けて、お祈りを終える。ジェイドに口パクで大丈夫と言い、一緒に立ち上がる。向かい合い、両手を繋ぎ、見つめ合う。上手く合わせてくれるかな……
「汝、ジェイド。いかなる喜びの時も、いかなる悲しみの時も、私を愛し、敬い、慰め、助け、互いの命ある限り、かわらず共にあると誓いますか? 」
「……誓います。汝、マイミィ。いかなる喜びの時も、いかなる悲しみの時も、私を愛し、敬い、慰め、助け、互いの命ある限り、かわらず共にあると誓いますか?」
「誓います。……では誓いのキスを。」
できる子ジェイド。アドリブの誓いは完璧。ただキスが長い!長いよ!やっと唇が離れて目を開けたら、金と銀の光のスクリューが私達をぐるぐる回って、ぱーんと光の粒になって消えた……派手すぎる。護衛騎士が霞んじゃってる。更にこの後歌わなくちゃいけない。みんなポカ~ンだろうな。祭壇を向いて、背中にジェイドに立ってもらって賛美歌を歌う。<歌唱力&歌詞チートをありがとうございます!>またぐるぐるぱーんと光って消えた。木造神殿で四神に結婚式に賛美歌で、ごちゃまぜのようなそうでもないような。ビバ、ジャパン教!
疲れた……振り返ると領主館の人々、村人、孤児院の子達がぎゅうぎゅうにいた。もうしんどい、限界だ。ジェイドに「抱っこして」と言ってみる。してくれました。耳元で打ち合わせ。夫婦神様のお話を伝える。周りがわーわーうるさくて聞こえない。ジェイドが器用に顔の周りだけ防音してくれた。魔法は隠すのでは??魔法の発動って他人には分からないのかな。まあいい。
方位記号図は神殿に、五色の守護獣の絵は孤児院に飾ってもらうことにする。神官様には「夫婦神様の思し召しです」で通す。信じた。ていうか本当だし。ランタンは大工さんが今日中に付けてくれる。付けてから立てるため、柱はまだ寝かせてあるそうだ。デスヨネ。
孤児院まで移動して、初めてちゃんと中に入る。お世話役の先生にご挨拶する。子供達だけにお話する予定が、神殿にいた人達がそのままみんなついて来ちゃった。
神殿に置いてきた絵には、領主館の塀の四隅、東西南北に青白赤黒の星マークを書いた。森の真ん中辺りに領主館があって、柱も高いし昼でも色は見えるはずなので、目印にすれば迷わないでしょう。真ん中は黄色。玄関にでも置いてもらおうか。
それで孤児院に持ってきた絵には、私には馴染みの四神、中央に麒麟。さすがに別の神様を輸入するのはマズいと思って、神獣とか聖なるケモノっていう説明にした。みんなにそれぞれの方位と色を覚えて、神殿の絵と見比べるように言う。絵を見る為に神殿や孤児院に入る時は、挨拶と入室許可、そして一回一善を推奨しておく。
「人間関係の基本は挨拶から。住んでる人に迷惑をかけちゃだめ!ゴミでも拾ってから帰るように。」
ポカ~ンだ。無表情ベールで言うには所帯じみすぎたセリフだったかもしれない。あぁ、この国にツッコミの文化を輸入したい。カイトとかどうだろう。
ちなみに護衛騎士達にはアシスタントを勤めてもらっている。「聖なる」とか「守護する」とか言う時に、目を向けたり手を伸ばしたりしてスリコミ作戦。そして黒の玄武が一番格上であること、真ん中の麒麟が仁なる獣であることをアピール。うちのクロール君は闇属性じゃないし、領主様は仁義に厚いですよ~と念を込める。ジェイドは灰色の髪と緑の目だからちょっとはまりが悪いので、黄色い花を胸に挿してみました。私も色被りなので今後も髪を隠す方針で、孤児院の赤青にも口止めしなきゃ。
そういえば、クロが黒髪なのにチヤホヤされていないのは、魔法量は多いけど、火とか水とか風とか何も出せないから。だから魔法のランタンに燃料入れるのとかは得意。多分使い方を教えたら、私達と同じくらい使えるようになる気もするし、魔力をどばーっと流すだけでも量があれば、探索とか考えようで何でもできると思うんだよね。でもその使い方、考え方、発想力が異世界チートで禁忌なのかもしれない。気を付けよう。
ともあれ、スリコミ布教活動は一日にしてならず!ということで本日は終了。やっと帰れる~。安定の抱っこで帰宅です。今日も長かった……
この世界に来て一週間で、恋をして落ち込んで両思いになり、男に捨てられるトラウマを克服して結婚し、仕事は相変わらず空回りだけど頼れる上司を手に入れて、世界の永住権を得て神様の養い子になっちゃった。詰め込み過ぎでもう疲れた。もう寝よう。休もう。当然初夜なので眠れませんが……そろそろ満月だ。灰色狼さんが出現しないことを祈る。
<神様達!落ち込むこともあるけれど、私、この童話みたいな世界が大好きです。ジェイドに会えて、今とても幸せです!見守っててね。>