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彼らは集う《参》

 王宮の入り口までやってくると、リネアは謁見のための手続きを行なった。といっても門番に何か書類をみせ、一言二言の説明をしただけだ。

 それだけで門番は顔を真っ青にして、宮中に駆け込んでいった。

 ……書類に何が書かれていたのか物凄く気になったが、まあ賢者様の圧力に違いないと予想をつけ、深くは追求しないことにした。


「では皆様、こちらへ」


 全速力で戻ってきたらしい案内役の兵士に連れられ、一行は王宮の奥へと向かった。

 王宮は決して華美ではないが、所々にさり気なくも美しい彫刻が施され、調度品も互いの存在を邪魔しない、そんな最高級の品ばかり。何とも言えない、典雅な雰囲気が漂っていた。


(これが国王様のお住まいかぁ……)


 村の学校で勉強した、歴史に名を残す宮を歩く、この喜び。旅に出て良かったと改めて思う。


「この先に陛下がお待ちでございます」

「あ、はい……っていきなり!?」

「では、私はこれで」


 正にそそくさ、といった感じで兵士は足早に立ち去っていった。……護衛とか、しなくていいのだろうか。


「う~、流石に緊張するなぁ、やっぱり」

「あまり心配するな。気さくな方だ。ただ、アル……。まぁ、頑張れ」

「え、何を? ちょっ、リネア?!」


 唐突な『頑張れ』の意味は不明なままに、玉座への扉は開かれた。

 アルフォンスはリネアの言葉に戸惑いつつも、とにかく室内に歩を進めた。


「久方ぶりだな、リネア」

「お久しぶりでございます、陛下」


 王の間には只一人、唯一の人がいた。アスケイル国王、フレデリックだ。

 年の頃は三十半ば、賢者とそう変わるまい。ただ、王には備わっていた。国民から敬われ、親しまれ、尊ばれるものが。

 それはシャルーランにはない、為政者の素質とも言うべきもの。


「今回は随分と急だな。しかもお前に連れがいるとは」

「……。それは、少し異なります」

「うん? どういう事だ」


「師匠は参りませんが、彼らは私の『連れ』ではありません。『仲間』です」

「ははっ、そうか、それは悪かった。まさかお前が誰かを対等に扱う時がくるとは……。杖を送った甲斐があった」

「……。その点は感謝しております」

「なに、気にするな。さて、そんなことより――」


 ――初めて会った王はどこか賢者様に似ているが、確実に何かが違う。

 アルフォンスは会話を半分聞き流しながら、そんなことを考えていた。


「君、名前は?」

「え」


 すると、いつの間にか王は玉座を立ち、アルフォンスのところへやって来ていた。


「ア、アルフォンス・ロッテカルドと言います」

「そう、アルフォンス君ね。可愛い名だ」

「はあ。有り難うございます……?」


 自分の名前は古代アスケイルの英雄の名だ。間違っても『可愛い』名前ではない。

 褒められたので一応の礼は述べたが、まさか王がこの名前の由来を知らないわけはないだろう。

 と思った、その時。


「君は可愛いね。どうだい、後宮に勤めないか?」


 会心の一撃。

 流石にネジが一本足りないと言われる頭でも、この言葉の意味は理解出来た。なにせ顎なんか持たれているのだ。


「~~っ!?」


 無礼も何もあったものではない。

 アルフォンスは王の手を振り払い、セルグの後ろに全速力で逃げ込んだ。


「お、おい、アル?」

「リネア、リネアぁーっ!!」


(頑張れってこういう意味かー!)


 やっとリネアの真意が理解出来たが、頑張ってどうにかなるものではない。駄目なものは駄目だ。


「おや残念。嫌われたかな」

「あ、あの~……。失礼ですが、陛下は王妃様も御子様もいらっしゃいますよね……?」

「ああ、勿論だよ、可愛い僧侶殿。だが、私は『博愛主義』なのだ」

「はくっ……」


 王の思いもよらない返答に、ニーナが絶句した。というより、室内が沈黙した。

 沈黙を破ったのは、それはそれは深いリネアの溜め息だった。


「……奥の皆様にまたバレますよ」

「『バラします』の間違いだろう。くそ、シャルーランのやろ……いやいや、賢者様も意地の悪いことをなさったものだ」


 ……ああ、なんだかなー。


(確実に素が出てるんですけど……)


 理想と現実は違うってよく言うけどさ。これは違うだろ、これは。何かもう涙が出そうだ。

 アルフォンスが脱力感を覚えたところで、王が再びこちらに向き直った。


「そうそう、私が『博愛主義』だということは、別に秘密でも何でもない。よって言いふらすも秘すも自由だ」


 カツン、と靴音を立て、王はアルフォンスたちに一歩、近づいた。

 その表情、気配には、先程までの軽さは消え失せている。


「ただ、侮辱罪が適応されぬよう気をつけたまえ」


 ニコリと笑うその顔に、暖かな優しさは微塵も感じられなかった。

 ――これが、王。


(……。予想外、ではあったけど……)


 敬い、尊ぶ気持ちに変わりはない。貴方はやはり、僕たちアスケイルの民の王。


「さて、書類に署名をせねばな。まあ賢者様の推薦だ、全員問題無し。悔しいが」

「……。師匠に勝つのは諦めたほうがよろしいかと」

「ふん、私は簡単に諦めんぞ。――ん?」


 一枚一枚、王は署名をしつつ、簡易的な紹介文を元にアルフォンスたちの名前と顔を一致させていたらしい。しかし、七枚目で何故か手を止めてしまった。


(まさか)


 その人物について賢者が書いた一文。ペンを持つ手が震えた。


「……陛下」


 王はリネアの声にハッとした。

 全く、本当に賢者には敵わない。まさかこんな隠し玉を用意しているとは!


(こんな立場でお会いするとは、夢にも思わなかった)


「いや、すまないね。流石の私も驚いてしまったよ。まさか天王の血族がいらしていたとは……。クレア様、知らぬ事とは言え、ご挨拶もせず申し訳ありませんでした」


 以前シャルーランがアルフォンスに跪いたように、王はクレアの前に迷わず屈した。


「どうぞお気になさらず。今はただの『クレア』ですから、リネアたちと同じように接して下さい」

「では、そのように。ジーパにも伝えておきましょう」

「ええ、お願いします」

「では……。リネア、いつもの部屋で待機していろ。ジーパへは王宮の特殊方陣で行け。そちらも手配しておいてやる」

「わかりました。では、御前を失礼します」

「ああ。……では、な」


 リネアはここにきて、初めて王に頭を垂れた。その瞳には、確かな深い感謝の念。

 退室時の礼など知らないアルフォンスたちは、とりあえず王にむかって頭を下げ、一人一人退室していった。

 最後になったセルグが退出しようとしたとき、ちょうど王が書類を数枚、床に落としてしまった。


「どうぞ、陛下」

「すまないな、つい」

「いえ、お気になさらず……」


 拾った書類を渡そうとして、セルグはふと王が持つ一枚目の書類を見た。


(あれは、クレアの……?)


 自分の手にある書類には、アルフォンスとリネアの名前がある。


(あれ……? 何かおかしくないか?)


「セルグ君」

「――は、はいっ!」

「もう行きなさい。リネアたちが待っている」

「はい。あ、あの、失礼します」

「ああ」


 セルグに閃きかけた何かは、王の声によって掻き消されてしまった。


「あ、セルグ来たよ」

「悪い、待たせたな」


 王座の間を退室すると、廊下でアルフォンスたちが待っていた。


「セルグ、何かあったんですかー?」

「いや、出ようとしたときに陛下が書類を落とされたからな。それを拾ってただけだ」

「そうか。では行くぞ。部屋はこっちだ」


 リネアの案内で――そう、王宮の中なのに案内役の一人も来ないままで、アルフォンスたちは目的の部屋に到着した。


「ここだ」

「「……」」


 どこの大広間だ。

 そうツッコミを入れたくなるくらい、案内された部屋は広くて立派だった。最早、賢者様とリネアは王族のような扱いを受けているらしい。


「あら、素敵なお部屋。調度品はシャルーラン殿の好みね」

「はい、姉上。王が師匠に僅かも文句を言わせまいと……」

「それにしたって凄いだろ。どれも超一級品ばっかじゃねぇか」


 部屋を見渡したセルグが溜め息混じりに言葉を漏らした。恐らく桁外れな額が脳内の算盤で弾き出されていることだろう。

 これで王宮に滞在するためだけの部屋なのだから、何かもう言葉もない。


「……所詮、お二人の意地の張り合いだ。気にするな」

「って言ってもねー。それにしても、何でアスケイル王はこんなに賢者様に対して意地を張るの?」

「それは私も不思議に思っておりました。そもそも、なぜ賢者様はアスケイルに留まっておいでなのでしょう」


 ローザンたちの質問に、リネアはどう説明したものか、といったように苦笑した。


「まあ……。そうだな、王は師匠と同じ時期に魔法使いを修められた。それが原因だろう」

「えっ、それってさ……。もしかして、単なる対抗心……?」

「そうだ。王は師匠に敵わないことが悔しくて仕方ないらしい。……賢者になる前も今も、それは変わらない。だから師匠はアスケイルに住まわれ、お二人は気安い関係なのだろう」

「……? それは、どのような意味でしょうか」

「『天才故の孤独と苦悩』って感じかしら?」

「そんなところだ。師匠は一度も口にされないが、王に友情を感じていらっしゃるのだろう」

「そうだったんですねぇ。アスケイル王も、賢者様をある意味『対等』とみていましたしねぇ」

「成る程……。けど、賢者様も人間だなぁって改めて思うよな、そんな話聞くとよ」

「ふ、師匠は私以上に人付き合いを嫌うからな」


 リネアのその言葉に、アルフォンスはあの『賢者の塔』を思い出した。

 あの辺鄙な山あいに建つ塔には、先代の賢者は住んだらしいが、他の賢者は違う。他国に住んだり色んな国を巡ったりと、様々な話が伝わっている。

 代々の賢者が、必ずしも人嫌いだったわけではない。


「そうだ。その杖ってさ、国王様から頂いたんだよね?」

「え、ああ、まあ……」


 アルフォンスが発した何気ない問いに、珍しくリネアが言葉を詰まらせた。


「どうなさったんですか? その、賢者様とアスケイル王がお親しいことはもう知っていますし……」


 だから、ちょっとやそっとじゃ驚かないですよ。

 そう言外にニーナは言ったのだったが、リネアはそれでも渋い顔をした。


「もらった時に何かあったのか?」

「まあ……な。その、王が師匠に意趣返しをするために、少し……」

「少し?」

「……。いや、なんでもない」

「えーっ!? そこまできたら気になっちゃうよリネア~」

「……。気にするな。別に大したことでは……」

「なら話しなさいよ、リネア。……ねぇ、リネア自身が関係してるんでしょう?」

「……。……まあ」


 言いたくない。

 そう全身から拒否のオーラがにじみ出ているリネアだったが、助け船を出してくれる人物はいなかった。


「失礼するぞ」

「なっ、国王様!?」


 そこに突然、アスケイル王がやってきた。どうやら陣などの準備が終わったらしい。


「呼んでいただければ、僕らが……!」

「なに、一日中座っているのも疲れるんだ。気にしなくていいよ、アルフォンス君。それより、どうしたんだリネアは?」

「……いえ」


 王はその目敏さからリネアの雰囲気の変化を察知したらしく、入ってすぐに声をかけた。


「杖を陛下からいただいた時のこと、話してって頼んでいたんです。けど、何かあるみたいで……」

「ほーう」


 アルフォンスの説明に、王は『心得たり』と言わんばかりの、意地の悪い笑みを浮かべた。


「リネア、お前にも可愛いところがあるものだな。幼い頃の話を嫌がるとは」

「……どちらかと言えば、年齢より内容が問題です。今でも後悔しています」

「ははは、それは結構。では旅立つ若者に、餞別がわりに昔話をしてやろう」

「王……」

「諦めろリネア。いいか、始まりは十年前だ……」


 事の顛末を、アスケイル王が語り始めた。リネアが傍で殺気めいたものを放っていたが――。

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