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第二話 毒姫様は逃げ出したい

 私はカンタレラ。

 【歌う毒】の名をいただいた、王の娘。第十三王女。とはいっても、正妃様の娘ではない。王が気まぐれで手を出した侍女が孕んだ、いわゆる庶子だ。しかも正妃様の侍女に手を出したものだから、他の侍女の妬み嫉みの挙句に私の実母は森でひとりで私を産んで、そして死んだ。

 私を育てたのは毒狼(ヴェノムウルフ)だ。その中でも賢狼一族の長の娘イルマが私の育ての母の名前。私に乳を与え、育ててくれた優しく賢い狼だった。

 しかし、6歳になった頃、毒狼の群れの中に女の子が(まぎ)れているという噂が王都へと流れて、冒険者たちが毒狼狩りをした。その時に母は命を落とした。私は、毒狼の作法に乗っ取って毒の塊になってしまった母を全部(すす)った。啜って啜って、その毒をすべて、私のものにした。焼けるような痛みが全身を駆け巡り両目は光を失ったが、そんなものは問題ではなかった。

 誰にも渡すものかと思った。

 残念なことに、王が気まぐれで本当の母に渡していた指輪を私が持っていたことから、神殿にて精査され私が王の娘であることが証明されてしまった。

 それからは、大変面倒なことに毒狼の娘であった私は王女として生きることになってしまったのだ。

 ある時は、政敵を殺すために。ある時は、魔族の評判を落とすために。

 私の毒は使われた。

 別にそれはいい。私には毒しか有用なものがない。だから別にいい。

 だけど。


「そなたは魔王の花嫁となれ」


 これはない。

 何それ。

 私はただ、毒狼の母とその一族たちと平穏に暮らしていられればそれでよかった。

 なのに、そこから引き離され人間らしくしろと言われ、毒を利用されて道具として扱われ、そしてとどめがこれだ。

 何それ。


「……魔王の元へ、参れと?」


 私の毒で殺せ、ということかと父である王に問うてみた。

 だが、王は渋い顔の気配をさせただけだ。


「魔王は死なぬ。そういう呪いを受けているそうだ」


 死なないのか。私が触れても、その方は死ぬことはないのか。

 その瞬間、胸が強く高鳴った。初めてのことで、どうしてなのか分からなくて、着ているドレスの胸元をぎゅうっと握りしめることしか出来なかった。


「だが、お前が行けばこの国の民が助かる。魔族との休戦が成るのだ」


 戦が長引いていることは知っていた。この王宮は守られているから戦火のことはほとんど分からない。ただ、民が苦しんでいるのなら、それを救うのが王族の役目なのだと、教育係からは耳が痛くなるほど聞かされていた。


「……(つつし)んで拝命いたします」


 このつまらない場所から、少しでも離れられるのなら、それもいい。

 父王が死ねば、私の命など(かすみ)も同然。だったら、少しでも生きていられる道を探す方がいい。

 私がにっこりと微笑んでみせれば、眼前にいるはずの王は溜息だけを吐いた。

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