第20話 大魔王現る
ネム達が七星魔天第二位のチームを撃退した頃、魔界のとある場所にある巨大な城の中の一室。
その部屋のベッドに、ジア達に連れ去られたノアが眠っている。
そのベッドの横にある椅子に座り、ノアの寝顔をジッと見つめているジア。
「ようやく、帰って来れたね? ノアちゃん……」
ノアの頭を優しく撫でていたジアだったが、突如目を覚ましたノアに手を噛みつかれる。
「あいだあああー‼︎ 痛っ! 痛たたたた! や、やめてノアちゃん! 噛まないでー‼︎」
「ひはまら、はんのほふへひははっへほをふうはいひはほはー!(貴様ら、何の目的があって余を誘拐したのじゃー!)」
「い、いつの間に目を覚ましたのさー⁉︎ 待って! ちゃんと話すから噛むのをやめてー‼︎ 痛いいー‼︎」
噛むのをやめ、ベッドから飛び降りて身構えるノア。
「さあ! 訳を話してみぃ! 理由によっては貴様とて許さんぞ! ジア!」
涙目で噛まれた右手を押さえながら、ゆっくりと椅子に座り直すジア。
「そだね、何から話そうか? ノアちゃんにしてみたら何が何だか分からないよね? だって父上に記憶を操作されてるんだから」
「何じゃと⁉︎ 記憶を操作じゃと? そんなふざけた事をする父上とは、いったい誰の事じゃ?」
「あたしとノアちゃんの実の父親。この魔界を統べる大魔王……ルイ・ボス・ティーニだよ」
「ルイ・ボス・ティーニじゃと? 何だかお茶みたいな名前じゃの?」
「うん。よく言われる」
ノアが目覚めた頃、ノア達の居る魔王城にかなり近い森の中で七星魔天の最後、第一位のチームとの戦いが始まろうとしていた。
ひとり森の中を歩いているセラ。
「ユウちゃ〜ん! アイちゃ〜ん! ネムちゃ〜ん! この際パティちゃんでも良いですからぁ! 私は治癒専門なんですから、誰か護衛してくれないと心細いですよぉ!」
「じゃあ、おいらが一緒に行ってやろうか?」
「うわぁ。嫌な予感しかしませんねぇ」
セラの前におデブ体型の男が現れる。
「ハア……」
その男を見た瞬間に大きなため息をつくセラ。
「あ、会っていきなりため息とは失礼じゃねぇか?」
「だってねぇ。敵とはいえ、可愛い女の子ならまだやり甲斐もあるのに、よりにもよってねぇ」
「ムキー‼︎ 大人しく帰れば見逃してやろうかと思ったが、もう怒ったぞ! 喰らえ! 対死防!」
男が叫んだ瞬間、全く身動きがとれなくなるセラ。
(なっ⁉︎ 魔法? いや、これが話に聞いたこちらの世界の固有能力というやつですかぁ? 喋る事は出来そうですが、身体は指一本動きません。これは中々マズイですねぇ)
「フッフッフッ。遅くなったが自己紹介をしておこうか。おいらの名はグロス。おいらの固有能力、対死防を食らった気分はどうだ?」
「私はセラちゃんですぅ。あなた達の能力はおふざけが多いって聞きましたがぁ、これは中々厄介な能力ですねぇ。全く動けませんよぉ」
「フッフッフッ。そうだろうそうだろう。なにしろおいらは七星魔天最高位、第一位のゾンター様の配下だからなー」
(確かにこれは困りましたねぇ。そりゃあ叫ぶだけでも魔法を使えなくはないですがぁ、ちょおっと距離が遠過ぎますねぇ。もう少し近付いて来た所をドカンと行きましょうかぁ)
魔法の射程内に誘い込む為に、グロスを挑発するセラ。
「第一位ですかぁ? そんな最高位の人達が治癒魔法専門の私なんかを相手にするのに、動きを止めないと出来ないなんてぇ、情けないですねぇ」
「なにおー!」
怒るグロス。
尚も挑発を続けるセラ。
「あなたがこの程度なら、大魔王も大したこと無さそうですねぇ」
「お前ー! 言わせておけばー!」
怒りを露わにするグロスだが、その場から全く動こうとしなかった。
そんなグロスの様子を見て、まさかの質問をするセラ。
「あのぉ〜。まさかとは思いますがぁ。この能力、かけたあなたも動けないんですかぁ?」
黙ったまま目をそらすグロス。
「いや、意味無いじゃないですか〜‼︎」
思わずツッコミを入れるセラ。
「もぉ! 私はボケ専門なんですから、ツッコませないでくださいよぉ!」
「いや、なにで怒られてんだよ⁉︎」
セラがレアなツッコミをしていた頃、ユーキを必死に探しているパティ。
「ユーキ〜! ユーキどこ〜? 他の連中はどうでも良いからユーキだけ出て来て〜!」
酷い事を言いながら歩いているパティの前に、森の中から人影が現れる。
「敵っ⁉︎」
パッと真剣な表情に変わったパティの顔がすぐに緩む。
「パティ! 良かった!」
その人影はユーキであった。
「ユーキ〜!」
即ユーキに抱きつくパティ。
「心配したよパティ。大丈夫だった? ケガは無い?」
妙に優しいユーキにデレデレのパティ。
「ど、どうしたのユーキ? いつも優しいけど、今日は特に優しいじゃない?」
「だってここは魔界だからね。いくらパティが強くても何があるか分からないじゃない?」
「だ、大丈夫よ。さっきまでは不安だったけど、ユーキに会えたから今は完全無敵よ!」
「……ふ〜ん、そうなんだ? なら、僕が居なくても平気だね?」
急に妙な事を言い出すユーキ。
「えっ⁉︎ ど、どうしたのユーキ? 勿論あなたが居ないと、あたしダメよ!」
「だってパティは魔族なんだから、魔界に居た方が良いでしょ? 僕達はノアちゃんとジアちゃんを連れて帰るから、パティはここに残りなよ」
「ま、待ってよユーキ! ノアちゃんやジアちゃんも魔族なのよ? 何であたしだけ置いて行くの? あたし、ユーキ無しじゃ生きていけないわ!」
「じゃあ、死ねば?」
「イヤアアアアー‼︎」
パティが項垂れていると、ひとりの男が森の中から出て来る。
「フフッ。僕はゾンター様の配下、トラウ。僕の能力はどうだい? 良い夢を見れたかい?」
「え⁉︎」
顔を上げると、そこにユーキの姿は無かった。
「ユーキ! ユーキ! どこ行ったの、ユーキ⁉︎」
「いやだから、分かんない人だなぁ。さっきのは僕の固有能力、嘘揄謀が見せた幻覚だよ。まあもっとも、悪夢を見せて相手の精神を破壊するから、ただの幻って訳じゃ無いけどね。どうだい? もう立ち上がる気力すら残って無いだろう? ハハハッ!」
笑うトラウの前に、ドス黒いオーラを放ちながらゆっくりと立ち上がるパティ。
「バ、バカな⁉︎ 立ち上がれる筈が……」
「あんたが……あんなふざけた夢を見せたのかぁぁ〜」
その凄まじいオーラと魔力に腰を抜かしてしまうトラウ。
「ヒイイイー‼︎ ま、まさかあなたが大魔王様で?」




