第36話 知ってる人なら誰だか分かる筈
いとも簡単にやられたニーナを激しく詰るクラフト。
「いや、散々盛り上げてさも勝てそうな雰囲気を醸し出しといて、何瞬殺されてんだよテメェ‼︎ お前がダメなら俺が行く! お前のもらった力全部俺様によこせ!」
「うる、さいわね〜」
クラフトの大声で目を覚ますニーナ。
「みんなにもらった力なんて、今の一撃に全部注ぎ込んだわよ」
「はあっ⁉︎ いや、何やってんだよ⁉︎ じゃあどうすんだよ⁉︎ このままノアちゃんが連れ去られるのを、黙って見てるしかねぇのかよ⁉︎」
クラフトの言葉に反応するジア。
「それが賢明だよ。さっきも言ったけど、君達が仕掛けてさえ来なければ、あたし達は大人しく魔界に帰るんだからさ」
「だ、だとしても……させない!」
勢いよく立ち上がろうとしたニーナだったが、足に力が入らず倒れ込んでしまう。
「ぐう……身体が……」
「死なないように加減はしたけどさ……まだ向かって来るなら、命の保証はしないよ?」
「く……」
万策尽きたかに思われたニーナの視界に、再び大量の袋を両腕にぶら下げたジュディの姿が映る。
(ジュディちゃん⁉︎ そうだ! あの娘の超重力なら、一時的にでもジアちゃん達の動きを止められるかも⁉︎)
何とか身体を起こし、ジュディに向かって声を張り上げるニーナ。
「ジュディちゃん‼︎ 後で好きなだけ美味しい物食べさせてあげるから、あなたの能力でノアちゃんだけでも助けて‼︎ お願い‼︎」
ニーナの声を聞き、少し考え込むジュディ。
「う〜ん、ゴメン。食べ物、魅力的だけど……アタシも七星魔天のひとり、第四位のジュディなの」
「なん……ですって⁉︎」
「じ、じゃあノアちゃんと昔から知り合い、みたいな事言ってたのって全部マジだったのかよ……」
「てっきり中二病をこじらせたものだとばかり思ってましたね……」
合流するジュディに声をかけるジア。
「ジュディ、食べ物は確保出来たの?」
「ん、大満足。無くなったら、また来る。その時は、ジアちゃんも……あ、もうディア様って言った方がいい?」
「ノアちゃんの親友はあたしの親友みたいなもんなんだから、今まで通りジアでいいわよ」
「じゃあ、ジアちゃんもまたこっち来る?」
ジュディの問いかけに、少し哀しげな表情を見せるジア。
「今回あたしが直々に来たのは、魔王就任前の最後のワガママだからさ……もう簡単には来れないかもね」
「そっか……残念」
ジアの言葉に引っかかるニーナ。
(魔王就任前? どういう事? 今のジアちゃんはまだ魔王じゃないって事? 王位継承、みたいなものかしら?)
ジュディを加えた魔王軍がいよいよゲートをくぐろうとする時、必死にノアをつついて起こそうとしているウルに気付くジア。
「クアー‼︎ クアッ! クアッ! クアー‼︎」
「ああ、ダメだよウルちゃん。ウルちゃんみたいなか弱い動物が魔界に入ったら、魔界の瘴気にやられてすぐ死んじゃうからさ」
そう言って、ウルの小さな額にデコピンを放つジア。
「クアー‼︎」
ジアのデコピンにより、ニーナの元まで弾き飛ばされるウル。
「ウル⁉︎ 大丈夫?」
「ク、クアァ〜」
「じゃあね、みんな! ほんの少しの間だったけど、凄く楽しかったよ!」
そう言い残し、遂にゲートに入って行くジア達。
「ノアちゃん‼︎」
「クアアー‼︎」
嵐が過ぎ去ったように静まり返った闘技場に、ウルの哀しげな声が響いていた。
怒りのおさまらないクラフトが、ゲートが消滅した空間に向かって叫ぶ。
「オイ‼︎ 待てよテメェら‼︎ ノアちゃんとジアちゃんを返せー‼︎」
「いや、ノアさんは分かりますが、ジアさんは魔王ディアでしょ?」
「かんけーねぇ‼︎ 美少女ロリッ子はみんな正義だー‼︎ 俺様の嫁達、帰ってこーい‼︎」
「そんな事を言って、本当に帰って来たらどうするんですか? 力を使い果たした今の自分達では、瞬殺されるだけですよ?」
そんなナオの言葉を訂正するニーナ。
「いえ……例え私達の状態が万全だったとしても、アイツらに勝てる可能性は低いわ」
「そんな……ではどうすれば?」
「勇者ウルやノアちゃんクラスの戦士が、あと何人か居れば……」
「そりゃ確かにニーナは手も足も出なかったがよー」
「うるさいわねー」
「俺様ならぜってーぶっ倒す‼︎ だから戻って来やがれー‼︎」
クラフトがしつこく叫んでいると、再び空間にゲートが出現し、慌てるクラフト達。
「ほ、ほら‼︎ あなたがそんな事言うから、本当に戻って来たじゃないですかー⁉︎」
「あいや、確かに戻って来いとは申しましたが、別に今すぐと言う訳では無くてですねぇ……」
クラフトが必死に言い訳をしている中ゲートから現れたのはジア達では無く、以前にノアが固有能力で召喚した、ピンク髪の美少女だった。
「あ、あの娘……確かノアちゃんが召喚してジュディちゃんを瞬殺した女の子⁉︎」
「え⁉︎ じゃあ、ノアさんが自力で帰って来たのですか?」
「いや、そんな感じじゃ無いみたいだけど……」
完全にゲートから出て来て、辺りを見渡す少女。
「うん。どうやら上手く繋がったみたいだね。みんなー! 出て来ていいよー!」
「ふむ。さすがはユーキ君だ。これでいつでもこちらの世界と行き来出来るという訳だね」
ピンク髪の少女の次に現れたのは、これもまた以前にノアが召喚した、ジアの知り合いっぽかった金髪イケメンの青年だった。
「ジア、は居ないか……どうやらひと足遅かったようだね」
「そだね」
その青年の後ろから、更に青い髪の女性が現れ辺りを見渡す。
「む⁉︎ ジアは居ないではないか! アイバーン! 本当に居たのだろうな⁉︎」
その女性の後ろから、赤い髪の青年が叫ぶ。
「ジアー‼︎ どこだー⁉︎ 隠れてないで出て来ーい‼︎」
「ブレン、うるさい」
「時間軸は同じみたいだから、居たのは間違いないよ。アイ君に聞いた特徴の娘、確かに僕も見たし」
「姫様がそう仰るのでしたら、間違い無いでしょうけど……」
更にその後も、ゲートからどんどん出て来る人々をボー然と見ているニーナ達。
「へえー。ここが別次元の世界なんですねー?」
「あたしとキャラが被ってるっていう娘はどこよ⁉︎」
「何で怒ってるんですかぁ、パティちゃん? 世界広しと言えどもぉ、パティちゃん程悪魔っぽい娘は他に居ませんよぉ」
「セラ〜。あんたは異世界に来てまでそういう事言うのね〜」
セラのこめかみを、両手の拳でグリグリするパティ。
「痛いですぅ! こういうとこですぅ〜!」
「こんな所まで来て、やめないかセラ」
「私は被害者ですぅ〜!」
「パティ姉様もセラ姉様も相変わらず」
「どこへ行っても、安定の通常営業なのです」
「フンッ。ここがシリスの野郎が作った世界か」
「この世界では、大魔王ルイ・ボス・ティーニと呼ばれているそうですね」
「何だかお茶みたいな名前ニャ」
「早速ティータイムするの〜」
「遊びに来たんじゃ無いのよ!」
「そうだよ。遊ぶのは用が終わってからね」
ピンク髪の少女を筆頭に、総勢16名の男女がゲートから現れた。
(な、何なのこの人達⁉︎ それに何なの⁉︎ みんながみんなデタラメな魔力を持ってる⁉︎)
正体の分からないユーキ達に質問するニーナ。
「あ、あなた達、いったい何者なの⁉︎」
「え⁉︎ ああ、大丈夫。僕達は別に怪しい者じゃ無いよ?」
「いや、メチャクチャ怪しいわよっ‼︎」
その場に居た、ユーキ達以外の全員が頷いていた。




