第30話 胸熱展開! にはならない
クラフトがかろうじてスチームを撃破した頃、シャンプーのボトルを手に構えているラルムと対峙しているニーナ。
手に持ったシャンプーを己の目に入れようとするラルムを、必死になだめようとするニーナ。
「ね〜、良い子だからそんな馬鹿なマネはやめて、普通に戦いましょ? そんな事やってもお互いの目が痛くなるだけで、戦いは全然進まないでしょ?」
「あたしはいつもやってるから慣れてるもん。だからお姉ちゃんが参ったするまでやり続けるもん」
「そんな事に慣れるんじゃないわよっ‼︎」
(でも、ああ……そういう事? こうやって自分自身を犠牲にしながら、相手に激痛を与えて降参させるって訳? はぁ……何とも非効率的だけど、いやらしい戦法ね。まあ要は、この激痛に耐えながら接近して倒せって事ね。ノアちゃんの事は気になるけど、倒した後であの娘から聞き出せばいいわ)
剣を構えて、ラルムに向かって走り出すニーナ。
「ヒッ! 来ないでー‼︎」
ニーナの接近に恐怖したラルムが、遂に手にしたシャンプーの液を目に垂らす。
「イギャアアアー‼︎」
ラルムが激痛にのたうち回ると同時に、走っていたニーナも思わず剣を落とし、地面を転がり回っていた。
「痛ああああー‼︎」
『ああーとぉ‼︎ ラルム選手、遂にシャンプーを目に入れるという奇行に出ましたー‼︎ ラルム選手は当然、ニーナ選手も能力により同じように苦しんでおります‼︎』
地面をのたうち回りながら、次なる作戦を考えるニーナ。
(無理! この激痛に耐えながら攻撃するなんて、とても無理! し、仕方ないわね。出来ればこの方法は使いたくなかったけど……)
渋々固有能力を発動させるニーナ。
同じく激痛にのたうち回っているラルムが、ふと騒いでいるのが自分だけだと気付く。
(あれ? お姉ちゃんの声が聞こえない? こんなに痛いのに、平気な筈は……)
ニーナの様子が気になり、何とか片目を開くラルム。
すると何と、いつの間に接近したのかすぐ目の前にニーナが立っていた。
「キャー‼︎」
ビックリして叫ぶラルムの頭を、刀の峰で殴るニーナ。
「痛ああーいっ‼︎」
『ニーナ選手の一撃が遂にラルム選手に炸裂したー‼︎ しかし、どうやら峰打ちのようですが、これはニーナ選手の優しさかー⁉︎』
目の痛みに頭の痛みも加わり、更に大泣きするラルム。
「もうあちこち痛くて、どこが痛いか分かんないー‼︎」
しかし泣きながらも、ニーナが平然と立っている事を不思議に思うラルム。
「ヒックヒック。な、何でお姉ちゃん泣いてないの〜⁉︎ あたしの能力効いてないの〜⁉︎」
「ええ、その通りよ。もうあんたの能力は私には効かないわ」
「うえ⁉︎ 何でよ〜?」
「この涙や痛みはあんたの固有能力によるものだから、治癒魔法で治す事は出来ない」
「そうだよ〜」
「それなら、こっちも固有能力で対抗すれば良いだけの話よ」
「でもでも、お姉ちゃんの能力は肉体操作でしょ〜? 幾ら肉体を若返らせても、あたしの能力は有効な筈だよ〜?」
「逆よ」
「逆?」
「若返らせるんじゃなくて、老化させたのよ。目の周りだけね」
「え⁉︎ どういう事?」
「つまり、目に関連する神経だけを老化させて死滅させたのよ。そうすれば、涙を流す事も痛みを感じる事も無くなるって訳よ」
『なな、何と⁉︎ ニーナ選手、敵を倒す為に己の目を犠牲にしたと言うのかー⁉︎ 血も涙も無い冷血な女性かと思っていましたが、こんな熱い心を持っていたとは、わたくし感動いたしましたー‼︎』
勝手な事を言う実況者に反論するニーナ。
「この私がそんなリスク背負う訳無いでしょ‼︎ 自分の能力で老化させたんだから、能力を解除すればちゃんと元通り見えるようになるわよ‼︎ それとあんた、後でぶっ飛ばすからね」
『ヒイッ!』
ニーナが実況者と揉めている中、焦りながら対策を考えているラルム。
(どうしよどうしよどうしよー⁉︎ あたしの能力が通じないんじゃ、もうあたしに勝ち目無いよねー⁉︎ 潔く降参したら、命だけは助けてくれるかなー? さっきだって峰打ちだったし……)
痛む頭を押さえながらニーナを見つめるラルム。
(いや待って? 目の神経を殺したって事は、今お姉ちゃんは完全に目が見えて無いって事よね? なら、状況は大して変わらないんじゃないの? いやむしろ、あたしも能力を使わないで済む分、普通に攻撃出来るんじゃ?)
勝機を見つけたラルムが、物音を立てないように静かにニーナに接近して行く。
ある程度近付き、隠し持っていたナイフを振りかぶった時、突如ニーナが刀の切っ先をラルムに向ける。
「ヒッ‼︎」
思わず漏れた声を押さえるように口元を手で覆いながら、再びニーナの左側に回り込むラルム。
(物音立てちゃった?)
しかし、ニーナの刀の切っ先はラルムを追跡するように動き、その後もラルムがどこへ行こうと、ニーナの刀は常にラルムを捉えていた。
(な、何であたしの居る場所分かるの〜⁉︎)
「どんなに静かに動いたって無駄よ。私は僧侶剣士。例え見えて無くても、あんたの命の波動は手に取るように分かるわ」
「そ、そうなの〜⁉︎」
「さあどうする? あんたの能力が私を泣かせる事だけって言うなら、もうあんたに勝ち目は無いわよ?」
だが、納得の行かない様子のラルム。
「むうう〜。そ、そんな事が出来るなら、何で最初からやらなかったのよ〜⁉︎」
「確かに、この方法は早い段階で思い付いてたわ。でもね……目の周りを老化させたら、目尻にシワが増えてかっこ悪いでしょ‼︎」
「そ、それだけの理由〜⁉︎」
(攻略法があったのに、たったそれだけの理由で使わなかったの? お姉ちゃんにとって、初めからあたしなんて敵じゃ無かったんだ……)
その事実を知り、泣きながら降参するラルム。
「グス……うえ〜ん‼︎ あたしの負けです〜‼︎」
『ラルム選手、負けを認めました‼︎ これでクラフト選手に続き、ニーナ選手も勝利しましたー‼︎』
「それだけって何よ⁉︎ 女性にとっては重要な事なのよ。まあ、お子様にはまだ分からないでしょうけどね」
ニーナVSラルム
結果的にニーナの圧勝




