第19話 仕方のない事ってあるよね?
上下左右にひねりも加えて振り回されるノアと、涙目のウル。
「ホ、ホ、ホオォォ〜、ウプッ」
そして、ウルの昇天も近付いていた。
そんなウルを鷲掴みするノア。
「やめぃと……」
うまくタイミングを見計らって、ジュディ目がけてウルを投げるノア。
「ゆーとろうがああー‼︎」
「ホオオオオー‼︎」
涙の他にも色々な液体を飛ばしながら、猛スピードでジュディに向かって行くウル。
『ノア選手、相棒のフクロウを投げたああー‼︎ これは酷い!』
「ヤダ汚いっ!」
一直線に向かって来る悲惨な状態のウルを見たジュディが、食べるのをやめて思わず逃げてしまう。
「我ながら、中々の制球力じゃわい!」
そして、ジュディにかわされたウルは頭から身体半分地面に埋まり、ピクリとも動かなかった。
そんなウルを、パーティーの仲間達も心配……。
「ノアちゃん酷え」
「でも今のは仕方ないわよ。肩の上で吐かれでもしたら、たまったもんじゃないわ!」
「そうですね。自分も仕方ないと思います」
「うん。あたしも絶対ヤダ」
……などしていなかった。
「ホ、ホ〜……」
だがジュディが怯んだ事により、ノアにかかっていた重力は消滅していた。
「チャンスじゃ!」
ジュディの重力操作が止まっている隙に、反撃に転じるノア。
《フリーズ‼︎》
強烈な冷気を送り、ジュディが持っていた食料を氷漬けにしてしまうノア。
「燃やしてしまうのは可哀想じゃからな。氷漬けで勘弁してやるわい」
『ジュディ選手の食料を凍らせたノア選手! これでは解凍しないと食べられないぞー!』
「ああー‼︎ 何てことするの、ノアちゃん⁉︎ 食べ物無いとアタシ、とんでもない事になるって知ってるでしょ?」
「暴れ出すのか⁉︎ 何にせよ、これで終いじゃわい!」
ジュディに向かって急降下して行くノア。
『ジュディ選手の重力が止まっている隙に攻撃するノア選手! 早くも決着なるかー⁉︎』
急降下しつつ、魔法で攻撃するノア。
《ライトニングストライク‼︎》
ノアより放たれた電撃が落雷となり、ジュディに襲いかかる。
しかし、電撃は何かに阻まれたように、ジュディの目前で四散するのだった。
「何じゃと⁉︎」
次の瞬間、ジュディの身体から凄まじい魔力が溢れ出した。
「な、何じゃ⁉︎」
ジュディの思わぬ強力な魔力に咄嗟に飛び込むのをやめ、距離を取って着地するノア。
「どうなっておる⁉︎ この魔力量は、人間が出せるようなものじゃないぞい⁉︎」
(ま、まさかこ奴、本当に魔族とか言うんじゃなかろうな?)
まるで何かに抗うように、苦しそうな表情を浮かべるジュディ。
「ぐ……ノア、ちゃん……逃げ、て……」
「逃げろじゃと? 何を言うておる⁉︎」
「も、もしくは……何か、食べ物ちょう、だい……」
「いや、何も持っとらんわい! どうしても何かを食べたいと言うのなら、そこに埋まっておるフクロウでも食べ、いや待つんじゃ! 本当に食われでもしたら、魔法の影響で余がミジンコになりかねん!」
「ううう〜、食べ……もの……」
食料の入っていた袋を必死に開けようとするジュディだったが、袋も完全に凍りつき開ける事は出来なかった。
「あか……ない……むうーっ! ガアッ‼︎」
何と痺れを切らし、袋に直接かじりつくジュディ。
『な、何とジュディ選手! 食料が入っている袋にかじりついたー⁉︎ それではお腹を壊してしまうぞー⁉︎』
ノーテンキな実況者とは裏腹に、ジュディを警戒するニーナ達。
「分かってるわねあんた達⁉︎ ノアちゃんが危ないと感じたら、すぐに飛び出すわよ!」
「ああ! いつでも行けるぜ!」
「彼女のあの魔力は尋常ではないですからね。とても並の人間の物とは思えません」
そんな中、心配そうな表情でノアとジュディを見つめているジア。
(ノアちゃん……ジュディ……)
「冷たい……」
袋にかじりついたジュディだったが、やはり歯が立たなかった。
「な、何だか可哀想に思えて来たわい。心配せずとも、試合が終わればちゃんと元に戻してやるから、もう少し我慢せい!」
「今すぐじゃないとダメなのー!」
「なら、早う負けを認めるんじゃ! そうすればすぐに解凍してやるわい」
「あ……も、もう……間に合わ……」
ジュディが意識を失ったかに見えた次の瞬間、ジュディの周りどころか、闘技場の中全てに強烈な重力がかかるのだった。
「グワアアー‼︎ な、何だ⁉︎ 急に身体が重く……」
「た、立ち上がれない‼︎」
『こ、これは一体……ど、どうした事でしょうか⁉︎ 辺りを見渡した限り……この闘技場に居る全ての人に……き、強烈な重力がかかっているようです‼︎ 重力という事は……ジュディ選手の仕業なのでしょうか? だとしても……か、観客席には……安全の為に魔法障壁が張られているというのに……こ、これはとんでもないぞー‼︎』
ジュディのより近くに居るノア達勇者パーティーは、殆ど動く事すら出来なかった。
「グウウウウー‼︎ ぐうの音しか出んぞおお〜!」
非常事態を悟り、試合に乱入する事を決めたニーナ。
「こ、これは最早試合どころじゃないわ。何とかしてあの娘を黙らせないと、無関係な人にまで被害が出かねない。とは言え、この重力じゃ……ウル‼︎ あんたが一番ノアちゃんに近いんだから、いつまでも寝てないで何とかしなさい‼︎」
「ホ、ホ〜?」
既に身体全体が地面に埋まりつつあったウルがどうにか穴から這い上がって来て、ノアに武器を渡すべく固有能力である武具精製を使おうとするが、余りにも強烈な重力に再び地面に這いつくばるしかなかった。
「ダメだわ。かつてのウルならともかく、今のウルじゃあ力が足りない」
「だ、だったら俺様の武器をノアちゃんに貸してやるぜー‼︎」
そう言って自身がつけていた小手を外し、投げるクラフト。
「あ、バカ‼︎」
だが当然ノアまで届く筈もなく、ノアのかなり手前で落下する小手。
「ムギュッ‼︎」
小手が落ちたその場所から、何かが潰されたような音がした。
「え⁉︎ 今の声ってまさか⁉︎」
憐れ、クラフトの投げた小手に潰され、再び地面にめり込んだウルであった。
「わ、悪いウル。さすがに今のは俺様が悪かった……」




