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第5話 ふりだしに戻る

 ノアとウルの可愛いさがウケて、肉まんは飛ぶように売れた。

 その間も少しずつではあるが、2人のJPも上がっていった。


 そして早々に肉まんは品切れとなり、ようやくノアは解放されるのだった。


「つ、疲れたわい……」


 完売となった事を知った店の主人が、大喜びでノアの元へやって来る。


「いや〜、売れたな〜! こんなに早く売り切れたのは初めてだぜ。ありがとな、お嬢ちゃん。おかげで中の方も大繁盛だったぜ!」


「そりゃ良かったのおぅですねえええー‼︎」


 お馴染みのウルズクローが、ノアの肩に食い込んでいた。


「どうだいお嬢ちゃん。もし良かったら、明日からもずっとこの店で働いてみねぇか?」


「フンッ! 冗談ではにゃあああー‼︎ かか考えさせて頂きますうー‼︎」


「そうかい。じゃあその気になったらいつでも来てくれよ!」


「おうぅああハイいい‼︎」


「こいつは少ねぇけど、今日の報酬だ。受け取ってくれ」


 主人より、600ゴールドを受け取るノア。


「チッ! あんなに苦労してこれっぽっちぃやああぁりがとうござりまするううー‼︎」


「ハハッ! お前さん達、ホントに仲良いなー」


「ケッ! どこがじゃあぁそおぅですねえええー‼︎」



 仕事中も散々ウルの拷問技を喰らい続けていたノアが、フラフラになりながら店を後にする。


(まったく、この凶悪猛禽類め! 仕事の疲れより、貴様にやられたダメージの方が余程デカイわい)


 ノアに向かってクワっとクチバシを開くウル。

 反射的に身構えるノアだったが、何もする事なくクチバシを閉じるウル。


(ど、どうした? 仕掛けて来んのか?)


『口の利き方に問題があったとはいえ、元魔王のお前が慣れない人間界で良くやったと思うよ』


 何気に、ノアの頑張りを褒めるウル。


(な、何じゃ? 気持ち悪い事を言いおって。落ちとるゴミでも食ったのか?)


「クアッ!」


 大きく口を開くウル。

 ビクッと身構えるノア。


「ホウ」


 しかし、グッと怒りを抑えるウル。

 そしてウルは、静かに回復魔法をノアに放った。


『ヒール』


 ノアの全身が優しい光に包まれ、ノアのダメージを回復して行く。


(き、貴様。どういうつもりじゃ?)


『これで仕事の疲れも、肩のダメージも解消されるだろう』


(余は、どういうつもりかと聞いておる!)


『教育の為とはいえ、お前には随分キツく当たってしまった。済まない』


(んなっ⁉︎)


 まさかのウルからの詫びに絶句するノア。


(わ、分かれば良いのじゃ。これに懲りたなら、これからは畜生らしく身分をわきまえ、余の下僕としてぇあ痛あああー‼︎)


 言い終わる前に、ウルの翼を使った豪快なビンタが、ノアの左頬に炸裂していた。

 ウルの新たな技、《ウルズフラップ》である。


 ノアのダメージがふりだしに戻った所で、今夜泊まる予定の宿屋に到着したノア達であった。


(ここか?)


『ああ』


(大丈夫なのか?)


『宿代なら、さっき貰った報酬があるだろう? 1人ならば俺が居たとしても、500ゴールドもあれば足りる筈だ。それとも、金を使うのは嫌か?』


(そういう意味ではなくじゃな……)


『何だ?』


(貴様のような猛獣と一緒で、泊まれるのかああああー‼︎)


 肩に更なるダメージを受けるノア。


『冒険者の中には動物や、稀に魔獣を使役している者も居る。こんな愛らしいフクロウなら、何の問題も無い』


(自分でゆ〜な!)


 宿屋の中に入るノア達。


「いらっしゃいませ! お疲れ様でした! 何名様ですか?」


「余ひとりと、こやつじゃ」


「ハイ。1名様と1羽ですね? お子様ですと半額の200ゴールド。使役されている動物1体につき50ゴールド頂いていますので、合わせて250ゴールドになりますが、よろしいですか?」


「お、お子様じゃと⁉︎」


 子供扱いされた事に怒るノア。


「魔王である余を愚弄するかやあああーいそれで良いですうー‼︎」


 ウルの爪が肩に食い込んだ痛みで背中がのけ反り、ゆっくりと土下座をするように座り込むノア。


「お、お客様‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」


「も、もうダメじゃあぁ……このまま部屋まで運んでくれえぇ」


「わ、分かりました!」


 従業員達に運ばれて、どうにか部屋に着いたノアとウル。

 ノアはずっとバンザイのような形でうつ伏せに伸びたまま、動こうとしなかった。

 ノアの背中から降りたウルが、ノアに話しかける。


『オイ、ノア』


「何じゃ?」


 周りに誰も居ないので、普通に声に出してウルと会話をするうつ伏せ状態のノア。


『夕飯の前に、風呂にでも入って来たらどうだ?』


「今、湯になどつかったら、貴様にやられた傷の所為で発狂するわい」


「ホー」


 やれやれと言った感じのため息をつくウル。


『それぐらいの傷、お前なら魔法で簡単に治せるだろう?』


「何を言っておる。余が魔法を使えぬようになったのは、貴様も知っとるじゃろう?」


『それは今朝までの話だ。今のお前ならば、魔法を使える筈だ』


「何じゃとっ⁉︎」


 ウルの言葉にパッと飛び起きて正座をするノア。


「そ、それは本当か?」


『疑うのなら、試してみるがいい』


「よ、よし……」


 ウルの言葉に半信半疑ながら、試しに回復魔法を唱えてみるノア。


《ヒール》


 するとウルの言った通り治癒魔法が発動し、ノアの全身が光に包まれ傷がみるみる治っていった。


「な、何と? 本当に使えたわい。し、しかし何故じゃ⁉︎」


『正のオーラの力だ』


「あの小娘や主人から受けた奴か?」


『そうだ。お前達魔族は、元々持っている魔力によって魔法を使うだろう?』


「そうじゃ」


『だが俺達人間は、魔力を自身では発する事が出来ない為、正のオーラパワー、JPを魔力に変換して魔法を使っている』


「ふむふむ」


『お前が人間の少女として目覚めた時には、JPは完全にゼロの状態だった。人間になったのだから当然、自身で魔力を発する事も出来ない』


「確かに」


『しかし今日この街に来てから、様々な人から多くのオーラパワーを受けた。お前は人間になったのだから……』


「そのパワーを魔力に変換して魔法が使える、という訳じゃな?」


『そういう事だ。しかし本来この力は、相当修行を重ねた者にしか扱えないのだが、元魔王でもあり、俺と繋がっている今のお前にならば使えると思ったのだ』


「フフンッ。余は天才じゃからな」


『自分で言うな』


「し、しかしそのJPとやらが、魔法に対してどれ程消耗するのか、余には分からんのじゃが?」


『さっき使った最下級の治癒魔法ヒールで、JPは2ポイント消費される。俺がフェンリルを倒す時に使った《サンダー》で3ポイントの消費だ』


「ち、因みに……今の余のJPはどのぐらい溜まっとるんじゃ?」


『今現在のお前のJPは68だ。ヒールを使う前は70だったから、JPの消費率は俺達と変わらんようだな』


「ほ、ほぉ〜。いつの間にかそんなに溜まっておったのか〜。ほぉ〜」


 何やら怪しい表情になって行くノア。


「で、ではそのJPを多く使えば、更に強大な魔法も使える、という事かの?」


『そうなるな』


「そうか……フッ……フッフッフッ」


『ホ?』


 急に立ち上がるノア。


「ならば、獣となった今の貴様を殺すには十分! これで貴様の拷問ともおさらばじゃ! 死ねいっ‼︎」


 ノアが強大魔法を使おうとした瞬間、リジェネレーションが発動してノアの力を奪って行く。


「が、はあっ!」


 全身の力が抜け、膝から崩れ落ちたノアが、またうつ伏せに倒れてバンザイの格好になる。

 スッとノアの背中に降り立ったウルが、呆れたような表情でノアに語りかける。


『人間を傷付けようとしたら、リジェネレーションが発動すると、確か言ったよな?』


「言っておったのじゃああ〜」


『バカなのか?』


「バカなのじゃああ〜」


 うつ伏せのまま、激しく後悔するノア。


『ホウ。今のでせっかく溜まったJPが全て消えたぞ?』


「今日1日の苦労が水の泡じゃああ〜」



 力の無いノアの叫びが、部屋にこだまする。



 

すごろくとは関係ございません。

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