第10話 魔道士ナオよ、永遠に……
手元に戻って来た槍をクルリと回し、構え直すゲイ。
『何と! ゲイ選手の能力は、槍の刃先に触れた者を惚れさせるという能力らしいぞー⁉︎ 何て羨ましいんだああー!』
実況の声に、男性客が騒ぎ出す。
「何だとー⁉︎ あの野郎! 能力でナオちゃんを自分に惚れさせようってのかー⁉︎」
「汚ねえぞー‼︎ 男なら正々堂々とアタックして砕け散れー‼︎」
「うるせー‼︎ 何で砕け散るの確定なんだよっ⁉︎」
思わず客にツッコミを入れるゲイ。
「勿論砕け散りますよ?」
「何いっ⁉︎」
冷酷にゲイに告げるナオ。
「クソォ! ならばやはり、能力で無理矢理惚れさせるしか無いようだなぁ‼︎」
再び槍を空に向かって投げるゲイ。
「そんな恥ずかしいセリフを、よく堂々と言えますね?」
《アイスドーム‼︎》
ナオが自身を囲むようにドーム状に貼った氷に、ゲイの槍が突き刺さる。
『ああーっとお‼︎ ゲイ選手の槍がナオ選手の張った氷に刺さって止まったー‼︎』
「ひとつお聞きします。あなたの能力、自分が惚れた相手にしか効かないのですか?」
「ああそうだ。俺が何とも思わない相手に当たっても効果は無い。しかし俺の想いが強ければ強い程、どこまでも追いかけて行く。こんな風にな!」
ゲイの槍がナオの氷を突き破り、再びナオに向かって落下して来る。
「では、こんな自分でも愛してくれますか?」
《完全擬態‼︎》
ナオの姿が少女から、男の姿に変わって行く。
「何いっ⁉︎」
ゲイの槍が目標を失い、フラつきながら地面に突き刺さり止まる。
『なな、何とっ⁉︎ ナオ選手の姿が男性に代わりましたああ! し、しかもこの姿は、魔道士ナオだああー‼︎ これは一体どういう事だああー⁉︎』
ゲイもナオの姿に驚きを隠せないでいた。
「お、お前! そ、その姿は、どういう事だ⁉︎」
「これが自分の固有能力、完全擬態ですよ。一度でも見た事のある生物なら、どんなモノにでも変身する事ができる能力です」
「完全擬態⁉︎ 噂に聞いた事がある! これが魔道士ナオの固有能力、完全擬態か⁉︎」
『ああーっとお‼︎ 皆様お喜びください‼︎ 何と! 行方不明と思われていた魔道士ナオが生きていましたああー‼︎』
大歓声に包まれる闘技場。
「おおー‼︎」
「ナオ様ああー‼︎」
「生きてて良かったー‼︎」
しかし、勘違いをしている実況者がおかしな事を言い始める。
『そして更にお喜びください‼︎ 何と、みんなが知っていたこの姿は固有能力により変身していたものでした! 男だと思われていた魔道士ナオの正体は、可愛い少女だったああー‼︎』
より大歓声に包まれる闘技場。
「おおおおー‼︎」
「ナオちゃん可愛いー‼︎」
「結婚してー‼︎」
まさかの実況に動揺するナオ。
「へっ⁉︎ いや確かに今のこの姿は能力により変身したものですが、こうなったのには訳が……」
「ナオ‼︎」
ナオが事情を説明しようとするが、ニーナが黙って首を横に振る。
真実を話せば、ウルやノアの事も全てバレてしまうと悟ったナオは、グッと言葉を飲み込むしかなかった。
「訳? 訳って何だ?」
気になったゲイがナオに質問するが、答えられないナオであった。
「い、いえ……何でもありません」
こうして世間には、魔道士ナオは元々女の子だったという間違った情報が、真実として広まるのであった。
(くっ! 自分が男だということをバラせば能力が発動しないと思ったのですが……)
そんな思惑のナオに、ゲイがカミングアウトする。
「あー、一応言っとくが、俺は女でも男でもどっちでもいけるから、男の姿になったところで俺の能力は消えないぜ?」
「なん……ですって⁉︎」
「隙ありだ!」
一瞬動揺したナオに向かって、再びゲイの槍が飛んで来る。
「しまったっ‼︎」
咄嗟に身をかわすナオだったが、脇腹を槍がかすめて行く。
「くっ!」
「ナオ‼︎」
『ああーっとお‼︎ ナオ選手、遂にゲイ選手の槍をその身に受けてしまったああ‼︎ 今は男の姿だが、ナオ選手はゲイ選手に惚れてしまうのかー⁉︎』
虚ろな目になり、棒立ち状態となるナオ。
「フフッ。効いたようだな? さあナオ! こっちへ来な!」
虚ろな表情で、無防備状態のままゲイに近付いて行くナオ。
そんなナオを心配するHEN隊のメンバー。
「オイ! ナオの奴、相手の能力にかかってるみたいだぞ⁉︎」
「かかったフリ……をしてるだけだと思いたいけど……」
「おっと! そこで止まれ!」
2メートルまで近付いた所で、ナオを制止させるゲイ。
「俺は別にこのままでもいいんだが、周りの目もあるからな。元の女の子の姿に戻ってもらおうか!」
ゲイに言われるがまま、少女の姿に戻るナオ。
「完全にあいつの言いなりじゃないのさ⁉︎」
「いきなり敗退かのう?」
『どうやらナオ選手! 完全にゲイ選手の能力にかかっているようだー! これはもう勝負あったかああ⁉︎』
「さあ! では改めて、俺の胸に飛び込んで来るんだ!」
そう言って、両手を広げて待ち構えるゲイ。
そんなゲイの行動に、観客から大ブーイングが起こる。
「テメェ‼︎ ナオちゃんに何しやがる‼︎ 俺だってハグしてえ‼︎」
「能力で無理矢理従わせるなんて羨ま、いや恥ずかしく無いのかー⁉︎」
『客席から大ブーイングが起こっております! 気持ちは分かります! しかしこの勝負、ナオ選手がゲイ選手の腕に抱かれた時点で決着と見ていいでしょう‼︎』
ゲイの目の前まで近付いたナオが、ゲイの背中に手を回す。
「あいにく、自分にはそんな趣味はありませんので」
「何っ⁉︎」
《エレクトリックショック‼︎》
ナオの手がゲイの背中に触れた瞬間、ゲイの全身に強烈な電撃が走る。
「ぐぎゃあああー‼︎」
全身から煙を上げながらも、辛うじて立っているゲイ。
「な、何故だ⁉︎ た、確かに……お、俺の槍はお前に当たった筈……?」
「さっきあなたの槍がアイスドームに刺さった時に、槍の刃先に薄い氷の膜を貼っておいたんですよ」
「なっ⁉︎ そ、そうか……だから槍が当たったのに、氷に阻まれて……の、能力が発動しなかったのか……」
「能力にかかったフリをしてあなたに近付く為に、一芝居打ったという訳ですよ」
遂に力尽き、倒れるゲイ。
「せ、せめて……ハグ、したかった……ガクッ」




