第4話 感謝の心を集めよう.JP
JP〔ジャスティスポイント〕を集めなければならないノア達だったが、まずは拠点となる宿、そして何より食料をどうにかする必要があった。
(寝る場所は別にどこでも構わんが、この空腹感だけはどうにもならん。魔王の身体であれば、魔力でどうとでもなったんじゃがのう)
『少女の肉体なんだ。人一倍腹も減るのだろう』
(人間とは不便じゃのう)
うなだれながら街を歩いていると、何やら良い香りがノアの鼻を刺激する。
「な、何じゃこの美味そうな匂いは⁉︎」
誘われるように、その匂いのする方へ歩いて行くノア。
その先には一軒の飲食店があり、匂いはその店先に構えている屋台から漂って来ていた。
「いらっしゃい! 美味しい肉まん、ひとつどうだい? お嬢ちゃん!」
「よ、良いのかああ痛あああ‼︎」
ノアがその肉まんに手を出そうとした瞬間、ウルズクローがノアの左肩に炸裂した。
(な、何をするのじゃ⁉︎ このケダモノめ!)
『お前。人間界のお金は持っているのか?』
(金じゃと? そんな物、ある訳なかろう)
『ならば食べようとするんじゃない!』
(貴様は持っとらんのか? 冒険者なら、それなりの稼ぎはあるのじゃろう?)
『確かに蓄えはあるが、この姿では銀行から下ろす事もできん』
(フンッ! ならば店の主人をぶちのめして奪えばああああ!)
更に食い込む爪。
『バカか? そんな事をすれば、ミジンコ魔法の進行を早めるだけだぞ』
(ミジンコ魔法ゆ〜な!)
肩を押さえてうずくまったままのノアを心配して覗き込む、店の主人。
「ど、どうしたお嬢ちゃん。具合でも悪いのか?」
それを手で遮るようにしてゆっくりと立ち上がるノア。
「ぐううー。な、何でも無いわい」
その目は、悔し涙で溢れていた。
「だ、大丈夫かいお嬢ちゃん? えと……肉まんはどうするね?」
「か、金が無いので……い、いらぬ……」
口惜しそうに店を後にするノアを見て、やれやれと言った表情の主人がノアを呼び止める。
「待ちな! お嬢ちゃん!」
「何じゃ?」
振り返ったノアに肉まんを差し出す主人。
「これ、食いな」
「だから、金が無いと言うとろうが」
「金は要らねえから食いな」
「よ、良いのか⁉︎」
「ああ」
パアッと表情が明るくなったノアだったが、ハッとなり恐る恐るウルを見つめる。
『ホー。まあ、主人がくれると言うのならいいだろう』
再び表情が明るくなり、主人からもらった肉まんを美味そうに食べるノア。
「そのフクロウは肉まん、食べられるかい?」
「知らん。こやつには生ゴミでも食わせてやればいい痛いいい‼︎」
怒ったウルがノアの左耳に噛み付いた。
後に、《ウルズバイト》と名付けられた。
「ほら、腹減ってるって言ってるじゃねぇか。ほれ、お前さんも食いな」
そう言ってウルにも肉まんを差し出す主人。
その肉まんにかぶりつくウル。
「おお。食ってる食ってる」
2人の食べっぷりを見て、嬉しそうな顔をする主人。
「ヘヘッ。そんなに美味そうに食ってくれたら、作った甲斐があったってもんだ」
その瞬間、ウルの視界にあるノアとウルのJPが1ポイントずつ上がった。
『ホオ⁉︎』
(ん? どうしたのじゃ?)
『今、俺達のJPが1上がった』
(何じゃと⁉︎ 誰からも礼など言われておらんぞ⁉︎)
『ホゥ。おそらく、その主人が俺達の食べる姿を見て、喜びのような物を感じたのだろう。だからゲージが反応した……』
(何⁉︎ ならばこの店の肉まんを全て食らってやれば、大量にJPとやらをおおおお!)
肩に食い込む爪。
『調子に乗るな』
うずくまっているノアに、主人が提案をする。
「ところで、どうだいお嬢ちゃん? 金が無いなら、ちょっとウチで働いてみる気はないか?」
「働く、じゃと?」
「お嬢ちゃんみたいな可愛らしい娘が働いてくれりゃあ、良い看板娘になりそうだし、それにその肩のフクロウも良い客寄せになってくれそうだしなー」
「ホオッ⁉︎」
「勿論、働いてくれた分の給料はちゃんと払う。どうだい?」
「ど、どどどどど、どうだと言われてものぅ」
主人の思わぬ提案に困惑するノア。
『いいんじゃないか?』
主人の提案に乗って来たウル。
(何じゃと⁉︎)
『どの道金は必要なんだし、上手く立ち回れば感謝のオーラを受ける事もあるかもしれん』
(いやしかし、余は人間界の仕事なんぞやった事無いんじゃぞ?)
『大丈夫。誰だって初めてはある。俺がフォローしてやるから心配するな』
(ぐぬぬぬー)
ノアに確認を取る主人。
「どうする? お嬢ちゃん」
「よ、良かろう。その提案、受けてやろおあああー!」
『受けさせて頂きます、だ』
「う、受けさせて、い、頂きますぅ!」
肩の痛みに耐えながら、主人の提案に乗る事にしたノアとウル。
早速店のユニフォームに着替えたノアが、肉まんの屋台で売り子をする事になった。
「店内と違ってこの屋台で売ってんのはこの肉まんだけだから簡単だろ? ヒマな時はたま〜に道を歩いてる人に声をかけて売り込んでくれりゃあいい。じゃあ、頼んだぜ」
「う、うむ」
(し、素人にいきなり任せるとは、何と大胆な主人じゃ)
『くれぐれも、言葉使いには気を付けろよ?』
(分かっとるわい!)
するとひとりの女性が買いにやって来る。
「すみません。肉まんみっつください」
「貴様。金は持っとるのかああああ‼︎」
早速ウルズクローが炸裂した。
『馬鹿者! 客に対して何を聞いているのだ!』
(しかしあやつ、初めに謝ったではないか⁉︎ じゃから金が無いのかと思って)
『只のあいさつだ! 金も無いのに買いに来る客は居ない!』
呆気にとられた女性が声をかける。
「あ、あの〜。大丈夫ですか?」
「し、心配無い。肉まんみっつじゃったな? 少々待っておれええ!」
『お待ち下さい、だ』
「お、お、お待ち下さいい〜」
ノアが失礼な事を言う度に、ウルズクローやウルズバイトが炸裂するのだった。
「ほれ。みっつで60ゴールドじゃあああ〜ですううう!」
果たして、ノアはきちんと仕事をこなせるのか?
そして、ノアの身体は最後まで保つのか?
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