第3話 ノアとウル ⭐️挿し絵有り⭐️
魔法の進行を食い止める為、ウルに正のオーラを分けてもらい、何とか動けるようになった少女ノアール。
その後2人は、森の中に居てはまた魔獣に襲われる危険があったので、とりあえず近くの街に行く事にした。
「そんな芸当ができるなら、貴様が毎日オーラを分けてくれればいいではないか」
『俺のオーラはリジェネレーションを発動させる為に殆ど使い果たしてしまった。俺とて人々を助け感謝のオーラを受けなければすぐには回復しないが、この姿ではそれも容易ではないだろう』
そう言いながらウルが視界の右端を見つめると、そこには何かのゲージの様な物があり、その横に15という数字が表示されていた。
「チッ! 使えんゆるキャラじゃな!」
「ホオー!」
ウルの足の爪が、万力のように少女ノアールの左肩に食い込んだ。
「いだっ‼︎ いだだだだだっ‼︎ 肩がもげるううう‼︎」
ウルの新技、《ウルズクロー》である。
ウルの新たな拷問技を食らいながら歩いていると、ようやく街の入り口に到着する少女ノアール。
街の名はダンジェル。
魔王城に最も近い場所にある街という事もあって、街を囲う壁は高くて分厚い、非常に強固なものとなっている。
危険な場所に位置する街だがそれ故に地価が安く、それなりの人口を有した街である。
「この街か……」
『ホゥ。お前達魔王軍が、結局最後まで滅ぼせなかった街だ』
ウルの言葉に反論する少女ノアール。
「ハッ! 愚か者めがっ! 滅ぼせなかったのではない。敢えて残しておいてやったのだ」
『どういう事だ?』
「余にとって貴様等人間との戦いなど遊びのようなもの。すぐ皆殺しにしてしまっては、遊び相手が居なくなってつまらないではないか」
『何だと?』
「この街は、我が魔王城に最も近い場所にあったのでな。必然的に貴様達冒険者も大勢集まるじゃろう。だから街に攻め込んだ時も適当に戦った後に軍を引いて、再び冒険者共の態勢が整うのを待っては、また攻撃を仕掛けていたという訳じゃ」
『ホォ。つまりその余裕の所為で、今はそんな可愛いらしい姿になってしまった訳だ』
「やかましいっ‼︎」
街に入る前に、ウルから少女ノアールに色々と注意事項が伝えられる。
『さて、これから街に入る訳だが……最もしてはならない事は当然、人間を傷付ける事だ』
「分かっておるわ。傷付けたくともこの身体では無理だという事は、先程嫌という程思い知らされたわい」
『次に、お前が魔王ノアールだとバレないようにする事、なのだが……まあ、その姿では心配無いか』
「フンッ!」
『だが一応用心の為に、名は変えた方がいいだろう』
「何ぃ⁉︎ 別に構わんじゃろう⁉︎ 自分で言うのもなんじゃが、このナリではバレる筈無かろう⁉︎」
『だがやはり、ノアールという名は魔王のイメージが強過ぎる。そこから正体に気付かれる可能性も無いとは言えないからな』
「そ、そうか? 余の名はそんなに有名かの?」
妙に嬉しそうな少女ノアールに、名前の案を挙げるウル。
『どんな名がいいか……魔王だから、マオちゃん?』
「それは色々問題があるからやめておけ」
『では、負け犬のマーちゃん』
「誰が負け犬じゃ‼︎」
『ミジンコのミっちゃん?』
「やめぃ‼︎」
『ホー。魔王……ノアール……ノアー……ノア! ノアでどうだ?』
「む? ま、まあノアールの名の一部も入っている事だし、ミジンコよりはマシじゃろう」
『よし! では、今からお前の名前はノアちゃんだ』
「ちゃんはやめぃ‼︎」
魔王ノアールの名前がノアに決まった所で、いよいよ街に入るノアとウル。
『分かっているとは思うが、人間を殺したら即ミジンコだからな』
「分かっとるわい!」
『あー、それともうひとつ』
「まだ何かあるのか?」
『その言葉使い、もうちょっとどうにかならんのか?』
「何がじゃ?」
『いくら元魔王とはいえ、今は可愛い少女なんだから、その老人のような口調はどうかと思うぞ?』
「な、長年この喋り方なんじゃ。急には変えられぬ」
『魔王ノアールがこの世界に現れたのはたかだか10年ちょっと前だろう? お前の実年齢って、実は今の見た目年齢と大して変わらんのじゃないのか?』
「そそそそ! そんな訳なかろうっ!」
「クスクスクス」
そんなノアとウルのやりとりを近くで見ていた女の子が、クスクスと笑っていた。
「お姉ちゃん面白〜い。フクロウさんとお話ししてる〜」
「こやつがおかしな事を言うからじゃ」
「フクロウさん何て言ってるの〜?」
「何って、聞けば分かるじゃろう?」
「ええ〜、だってチカにはフクロウさんの声、聞こえないも〜ん」
その女の子の言葉にハッとなるノアとウル。
女の子から少し離れて、小声でウルと話すノア。
「オイ。貴様の言葉はあのガキには聞こえとらんようじゃぞ?」
『ホゥ。お前とは魔法の効果で繋がっているみたいだからな。無意識に念波のようなもので会話していたのかもしれん。そもそもフクロウの話す言葉が人間に理解出来るはずも無いしな』
「それもそうじゃの」
『変に目立つのもあれだからな。俺と話す時は、お前も念波で会話した方がいいだろう』
「う、うむ」
ノア達に興味を持った女の子が、更にノアに質問をする。
「ねえ、お姉ちゃん。名前は何て言うの?」
「余の名か? 余は大魔王ノアッ! あ痛ああああ‼︎」
その瞬間、ウルの爪がノアの左肩に食い込んだ。
(な、何をするのじゃこの猛禽類!)
「ホアッ!」
更に食い込む爪。
「痛っ‼︎ 痛たたたた‼︎ や、やめーいっ‼︎」
ようやくウルズクローから解放されたノア。
『ノアールの名は伏せろと言っただろう! 今のお前の名はノアだ!』
(ち、ちょっと忘れてただけじゃろうが)
左肩を押さえてうずくまっているノアを、心配して覗き込む女の子。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「ど、どうという事はない。この鳥めが少々凶暴なのでな」
「クワッ!」
今度は噛みつかんと言わんばかりに、クチバシを大きく開くウル。
(やめぃ!)
「そ、それよりも、余の名じゃったな? 余の名はノアじゃ」
「ノアちゃん? 可愛い名前ね。私はチカって言うの。じゃあそのフクロウさんの名前は何て言うの?」
「こやつか? こやつは……」
ウルの名を言おうとして、一応ウルに確認をとるノア。
(オイ! 貴様の名はどうするのじゃ?)
『ホー。俺はそのままでいい』
(良いのか?)
『俺はお前と違って悪名ではないからな。勇者に憧れて付けたとでも言えば問題無いだろう』
(フンッ! 言っておれ)
「こやつの名は、そのままじゃ。ああ痛あああ‼︎」
再びウルズクローが炸裂した。
『つまらんボケをするな』
「ウ、ウルじゃ! こやつの名はウルじゃああ!」
「ウル⁉︎ うわぁ! 勇者様と同じ名前だね? お姉ちゃんも勇者ウル様が好きなの?」
「ケッ! 誰がこんな凶悪猛禽類いいいいい‼︎」
またまたウルズクローの餌食となるノア。
「ねえお姉ちゃん! チカにもウルちゃん触らせて!」
「何じゃと⁉︎ やめておけやめておけ! こやつは性格が悪いからの。うかつに触ると傷だらけにいいいいー‼︎」
「大丈夫だよ。チカ、動物さん好きだもん」
そう言って激痛にうずくまっているノアに近付き、肩に乗っているウルに手を出す女の子。
抵抗する事無く頭を撫でられるウル。
「ウルちゃん可愛い〜」
(こ、こやつ⁉︎ ロリコンかああ痛ああ‼︎)
ウルを散々撫で回した後、礼を言う女の子。
「お姉ちゃん、ウルちゃん。ありがとう!」
その瞬間、ノアの全身を温かな光が包み込む。
「な⁉︎ これは⁉︎」
ウルの視界の右端にあったゲージが上がり、数字が25になったと同時に、更に左端に新たなゲージが現れ、その横に10の数字が浮かび上がった。
『ホゥ⁉︎ これは』
(ん? どうしたのじゃ?)
今起こった事、そしてゲージの事をノアに説明するウル。
(オーラを数値化した物、じゃと?)
『ジャスティスポイント。略してJPと呼ばれている』
決して頭にドットを付けてはならない。
『このタイミングで現れたということは、この左に現れたゲージが、おそらくお前のオーラ量を示しているのだろう』
(何と⁉︎ そんな分かり易い物があるのか? しかも、たかがゆるキャラを触らせてやっただけで? 何じゃ、意外と簡単ではないか。しかし、何故余にはそのゲージとやらは見えんのじゃ?)
『この力は誰にでも簡単に扱えるものではない。お前は俺と繋がっているから、何らかの補正効果が働いているのだろう』
「チカちゃ〜ん!」
「ママ!」
母親らしき女性に呼ばれ、駆け寄った女の子が何やらその女性に耳打ちをする。
「そう。良かったわね〜。娘と遊んで頂き、どうもありがとうございました」
ノアに礼を言いながら頭を下げる母親。
「ノアちゃんウルちゃん、またね〜!」
手を振りながら去って行く女の子と母親。
(オイ、また礼を言われたぞ? JPとやらはどれぐらい上がったのじゃ?)
『いや、全く上がっていない』
(何い! 何故じゃ⁉︎ 今、あの女にも礼を言われたではないか⁉︎)
『ホウ。残念ながら、心のこもっていない言葉だけの礼では反応しないのだ』
(なん、じゃと⁉︎)
「人に感謝する時は、ちゃんと真心を込めんかー!」
『とても元魔王の言葉とは思えんな……』
イメージそのまんまのめちゃくちゃ可愛いノア&ウルのイラストは、苺野さんが描いてくださいました〜‼︎(≧∇≦)