第2話 ライフ・オア・ミジンコ?
必死に逃げる少女ノアール。
追いかけるフェンリル達。
それを飛行しながら追跡するウル。
森の中に入り、必死にフェンリル達の攻撃をかわしながら逃げる少女ノアール。
「ハアッ! ハアッ! ハアッ! く、苦しっ! ハアッ! ハアッ!」
次第に少女ノアールの呼吸が乱れ、段々動きが鈍くなり、遂に足がもつれて派手に転ぶ少女ノアール。
「うにゃああああー‼︎」
木にもたれかかり、座り込んでいる少女ノアール。
だがフェンリル達は、何かに警戒しているかのようにすぐには飛びかかろうとはせず、ゆっくりと少女ノアールとの距離を詰めて行く。
「ハアッ! ハアッ! な、何じゃ⁉︎ こ、この情けない肉体は? ハアッ! ほ、ほんの少し、走っただけで、こ、こうも息が上がるとは」
完全に射程距離に入ったフェンリル達が、いよいよ飛びかかろうとして体勢を低くする。
(これまで、か……魔王ノアールともあろうものが、こんな情けない最期を迎えようとはな……無念じゃ……)
遂に諦めて目を閉じる少女ノアール。と同時に飛びかかるフェンリル達。
「グギャアアアアッ‼︎」
何者かの断末魔の声が響いた後、辺りに静寂が訪れる。
(ん? い、一体どうなったのじゃ?)
少女ノアールが恐る恐る目を開けると、目の前には何かに焼かれたように黒コゲになったフェンリル達の死体が横たわっていた。
「な、何じゃ⁉︎ これはどういう事じゃ⁉︎」
少女ノアールが驚いていると、空に居たウルがフワリと降りて来て、少女ノアールの左肩にとまる。
『俺だよ』
その可愛い見た目からは想像出来ないような魔力を放っているウルを見て、状況を理解する少女ノアール。
「き、貴様がやったのか?」
『ああ』
その姿を見て、先程ウルが言った言葉が偽りであった事を知り、怒りが込み上げて来る少女ノアール。
「貴様‼︎ その姿では戦えぬと言ったではないか‼︎ 余を謀ったのか‼︎」
『武器を持って戦う事は当然できない。しかしどうやら、魔法ならば使えるようなのだ』
「な、何故貴様だけっ⁉︎」
そう言いかけて、更なる疑問が少女ノアールの頭をよぎる。
「貴様……何故余を助けた? その姿ならば、貴様だけでも飛んで逃げる事は出来たであろう? いや、それ以前に貴様の方が先に目覚めていたのじゃ。魔法が使えたのなら、何故その時余にとどめを刺さなんだ?」
少女ノアールの肩にとまりながら、その問いに答えるウル。
『お前よりも先に目覚め、己の状況を理解した俺は、魔法だけは使える事を確認した。そして確かにその時、お前にとどめを刺そうと思った。しかし少女の姿となったお前を見て、同時にある考えに至った。お前がその見た目通り、只の人間の少女になったのなら、無理に殺さずともよいのではないか? とな……』
「ぐっ! き、貴様! 余に! 魔王であるこの余に情けをかけたというのかっ‼︎ こ、こんな! こんな屈辱があるものかっ‼︎」
激昂する少女ノアール。
『ホゥ。ならば今すぐにミジンコになるか?』
「い、いや! それは待てっ!」
屈辱に生きるよりも、死を選ぶかと思われた少女ノアールだったが、ウルの言葉を即否定するのだった。
『一体どっちなんだ?』
「こ、こんな小娘の姿で生き長らえるのはイヤじゃが、ミジンコになって死ぬのはもっとイヤじゃあっ!」
『ではどうする? 諦めてその少女の姿で大人しく、人間として生きて行くか? そう約束するならば、俺はもうお前を殺そうとはしない』
「う、うむぅ……考える。少し待て」
『分かった』
腕組みをして、考える格好をする少女ノアール。
(フンッ! どの道こんな姿のままではどうしようもないからのう。とりあえず、大人しくなったフリをして力を取り戻す方法を探すか。そして力が戻り次第、また人間共を蹂躙すればよいじゃろう。フッフッフッ)
少女ノアールがそんな良からぬ事を考えていると、ウルから繋がった光が少女ノアールの全身を包み込み、黄金の光を放ち始める。
その直後、全身の力が抜けたように膝から崩れ落ち、地面に座り込む少女ノアール。
「な、何じゃ……これ、は⁉︎」
『ああ、言い忘れていたが。実は、お前に仕掛けた原点回帰の魔法はまだ持続中なんだ』
「何いっ⁉︎」
『ノアールよ……お前今、何か悪い事を考えただろう?』
ビクッとなる少女ノアール。
「ななななっ! 何の事じゃあ?」
『誤魔化そうとしても無駄だ。この魔法は掛けられた者の負のオーラ。つまり悪しき心に反応して、その威力が増すようになっている。魔法が発動したと言う事は、つまりそういう事だ』
「よ、余はどうなるのじゃ?」
『このままではミジンコだな』
「まままま、待て待て! たった今、余を見逃すと言ったばかりではないか! それもまた虚言であったと言うつもりか⁉︎ ミ、ミジンコはイヤじゃ‼︎」
『魔法の進行を止める方法がひとつだけある』
「ど、どうすればいいんじゃ⁉︎」
『簡単な話だ。負のオーラに反応するのならば、反対の正のオーラを身体に満たせばいい』
「正のオーラ、じゃと?」
嫌な予感が少女ノアールの身体を駆け巡る。
『魔王であるお前がいきなり心を入れ替えて、正のオーラを満たすのは無理な話だろうからな。ならば代わりに、誰かを助けて感謝のオーラを受ければいい。それを毎日でも続ければ、お前は今のままの姿を保っていられるだろう』
少女ノアールの顔から、さあっと血の気が引く。
「ま、ま、ま、魔王である余が、人助けじゃと?」
『そうだ』
「それを毎日、じゃと?」
『毎日だ』
「できるかああああっ‼︎」
『できなければミジンコになってプチッ、だ』
「ミジンコはイヤじゃあああ‼︎」
ハンター×ハンターとは関係ございません。