第12話 男の娘? 女の子? 痛い娘?
痛い娘ではあったが、ロリコンよりはマシという結論になり、試しにルナールとクエストに行く事にしたノア。
街を出たノアが、クエストの内容をルナールに聞く。
「そういえば、今回はどういうクエストなんじゃ?」
「簡単なクエストですよ。只の転移石の採掘です。まあもっとも、採掘場は魔王城のあった場所の近くですので、それなりに危険ではありますが」
「魔王城じゃと⁉︎」
魔王城という言葉に、つい驚きの声を上げてしまうノア。
「どうしました? 魔王城の側は怖いですか?」
「い、いや……何も怖くないニャン」
「フフッ、大丈夫ですよ。魔王ノアール」
「ヒッ‼︎」
ビクッとなるノア。
「……は、勇者ウルによって倒されましたから」
「そ、そそ、そうですニャン! 魔王ノアールはもう居ないニャン!」
「しかし、ウルの奥の手であったリジェネレーション。あの魔法は、生物をより弱い生物へと変化させる効果があります。もしかしたら、術のかかりが浅くてその辺の小動物にでもなって、まだ生きているかもしれませんねえ?」
(ギクギクッ‼︎)
しかしルナールの言葉に、更に不信感を強めるウル。
『待て! この少女、何故リジェネレーションの事まで知っている? あの魔法は俺達パーティーのメンバーにしか教えていない切り札の筈』
途端に警戒するノア。
「貴様……一体何者じゃ?」
「フフッ。まだ分かりませんか? 自分ですよ」
ルナールの全身が光に包まれその後に現れたのは、先程クラフトと一緒にギルドを出た筈のナオであった。
『ホーーーーッ‼︎ ナ、ナオ⁉︎』
「何じゃとおお⁉︎」
(ど、どういう事じゃ? 幻術か? こやつがあの小娘に化けておったのか?)
『そうか! 完全擬態か!』
(完全擬態? 何じゃそれは?)
『ナオの固有能力だ! ナオは、自分が触れた事のある生物であれば、どんな物にでも変身する事が出来るんだ!』
(何じゃと⁉︎ どんな物にでもじゃと⁉︎)
『どんな物にでもだ!』
(ミジンコでもか?)
『ミジンコでもだ!』
(な、何て恐ろしい能力じゃ……)
『いや、ミジンコになった所で何の役にも立たないが……』
(つまりこやつは、どこかで触ったあの少女の姿に変身していたということか?)
『そういう事だろうな』
(一歩間違えば捕まるぞ?)
『捕まるな』
「あなたが今まで散々見下し蹂躙して来た、か弱い人間になった気分はいかがですか? 魔王ノアール!」
青ざめて、大量の汗をかくノア。
「わ、私はノアールなんて名前じゃ無いニャン。みんなのアイドル、ラブリー天使ノアちゃんニャン」
可愛いポーズを取るノアに、一瞬デレっとしたナオだったが、すぐに真剣な表情に戻る。
「と、とぼけても無駄ですよ、魔王ノアール。ウルがリジェネレーションを発動したあの時、一瞬逃げ遅れた自分はあなたがその少女の姿になる所をこの目で見ましたからね」
「ウニャッ⁉︎」
これ以上誤魔化すのは無理と悟ったノアが、開き直る。
「フッ。フハハハハハッ‼︎ バレたのなら仕方ないのう! それでどうするのじゃ? こんなか弱く可愛らしい乙女になった余を殺すのか?」
『可愛い事は認めてるんだな?』
「た、確かにあなたの姿はとても魅力的です。しかし! いつか力を取り戻したあなたが、また人間を襲わないという保証はありません!」
「まあ確かに保証は無いのう」
「したがって、誠に残念ではありますが……こ、こんなにも可愛らしいあなたを手にかけるなど、非常に心苦しいのですが! もう本当に、奇跡と言ってもいいくらいどストライクな容姿なのですが!」
「いや、本当に残念な奴らじゃのう」
「今ここで、倒します‼︎」
「クワー‼︎ クワッ! クワッ! クワアアアアー‼︎」
ウルが必死に身振り手振りで、ナオを止めようとする。
(どうやらやるしか無いようじゃぞ?)
『よせ、ノア! クラフトの時とは訳が違う! ナオはお前が魔王ノアールだと分かった上で仕掛けて来ている! そんなあいつを攻撃すればっ!』
「フッ……ミジンコ、か……」
何かを決意したような顔のノア。
『ノア‼︎』
「ミジンコはイヤじゃああああーっ‼︎」
一目散に逃げ出すノア。
「んなっ⁉︎」
呆気に取られているナオ。
「ま、待ちなさい‼︎ 逃げないで戦いなさい‼︎」
すぐにノアを追いかけるナオ。
『逃げるのか?』
「戦えばミジンコになると分かってて戦うバカはおらんわいっ!」
「待ちなさい! 魔王ノアールともあろう者が、戦いもせずに逃げるのですか⁉︎」
「何とでも言うがよい‼︎ 余はプライドよりも生きる事を選ぶタイプなんじゃ‼︎」
「クッ! 戦意を喪失している相手を攻撃するのは心苦しいのですが、仕方ありません! 死になさい、魔王ノアール‼︎ ライトニングうう……」
ナオが魔法を放とうとした時、ノアの正面から何かが猛スピードで迫って来る。
「ナーーーーオーーーー‼︎」
その物体はクラフトであった。
そのままの勢いで、ナオにドロップキックを炸裂させるクラフト。
「グフウウウウー‼︎」
吹っ飛び、仰向けに倒れるナオ。
「街中探してもノアちゃんが見当たらないから外に出てみればテメェ‼︎ こんな森の中にノアちゃんを連れ込んで追いかけ回すとは、どういうつもりだ‼︎」
「ついこの前、貴様にも追い回された記憶があるんじゃがのう」
ボソッとツッコミを入れるノア。
「立てナオ‼︎ 俺様がその腐った根性、叩き直してやる‼︎」
しかし、立ち上がったその人物はナオではなくルナールだった。
焦るクラフト。
「あれええ⁉︎ す、すまねぇ‼︎ 確かにナオの奴を狙った筈なんだが、人違いだったみてぇだ! ケガはねぇか⁉︎」
腹を押さえながら訂正するルナール。
「人違いではありませんよ。自分がナオです」
「へ⁉︎ 何言ってんだ⁉︎ いくら俺様がバカでも、仲間の顔ぐらいは覚えてるっつーの! ナオは男だし、もっとこう……ゴツい感じだ!」
「いい加減かっ!」
さりげなくツッコミを入れるノアと、呆れ顔のルナール。
「ハアッ。仲間だと言うなら、何故自分の固有能力を忘れているのですか?」
「ああ⁉︎ 忘れてねぇよ! 俺様の固有能力は絶対防御だ!」
「あ、いや。今言った自分というのはあなたの事を指したのでは無く、自分の事……もういいです。口で説明するよりも、見せた方が早いでしょう。自分のJPはもう50を切ってしまいましたので、あなたのオーラを少し分けてもらいますよ。《オーラドレイン!》」
そう言ってクラフトに触れ、強制的にクラフトからオーラを吸収するルナール。
その後ルナールの全身が光に包まれ、その光がおさまると再びナオが現れる。
「ナオ⁉︎ じゃあやっぱりさっきの女の子は、ナオが変身した姿だったのか⁉︎」
「いえ、ですから……そうではなくてですね……」
少し経つと、ナオの姿がまたルナールの姿に変わってしまう。
(オイ、ウル! さっきの姿が変身した状態だったとしたら、奴はもしかして我らと同じ……)
『ああ。ナオはお前が少女の姿になる所を見たと言っていた。ならば、多少なりとも影響を受けたのかもしれない』
ノアとウルはナオの事情を既に理解していたが、クラフトだけはまだ分からないでいた。
「今のこの少女の姿が、元の姿ということですよ」
「なあにいいー⁉︎ つまりナオは……元々女の子だったのかー‼︎」
「……あなたは真のバカです」
ボンクレーとは関係ございません。