第41話 一人称が自分だと、誰の事を指してるのか分からなくなるね
ノアが質問攻めにあっている中、何とかドラゴンの動きを止めているジュディが叫ぶ。
「ねえ! あたし、いつまでもは保たないよ⁉︎ 早く〜!」
「ああ、ジュディちゃんゴメン! えと……とにかくあのドラゴンは父さんの真の姿で、私はそれを知ってたしこうなる事も知ってたから、先にジュディちゃんに抑えてもらうように頼んでたの! その間にジアお姉ちゃんのもうひとつの能力でみんなを強化してもらう為にね。ハイ! 分かったならもうひと頑張りよ!」
「ええ〜⁉︎ そんな事いきなり言われてもよ〜」
「了解した!」
クラフト達が混乱して動けない中、いち早く状況を理解したウルが行動を起こす。
「ジュディ!」
「ハイ!」
ウルの接近に合わせて重力を解除するジュディ。
『武具精製! ドラゴンキラー!』
対ドラゴンに特化した剣を創り出し、ドラゴンルイを斬りつけるウル。
「グオオオオ! おのれー!」
再びブレスを放つ為にパワーを溜めるドラゴンルイ。
だがウルとほぼ同時に動いていたノアが、真下からドラゴンルイの顎を斬り上げる。
「やあああー!」
「グフッ!」
発射寸前に顎をかち上げられた為、吹き出されたブレスは天井に大穴を開けた。
「いくら娘とはいえ許さんぞー!」
着地したノアを腕で薙ぎ払おうとするドラゴンルイ。
「させるか! 絶対防御!」
前に出て来たクラフトが、巨大な盾でドラゴンルイの腕を受け止める。
「ヘッ! 今度は間に合ったぜ!」
「クラフト、ありがと!」
「お、おう。何かお姉さんノアちゃんも新鮮で良いな」
「父さん! ノアちゃんをイジメたらダメって言ったよね!」
同じく前に出て来たジアがドラゴンルイの腹に一撃を喰らわせる。
『風刃一閃!』
「グハアア! グウウ……な、何だ貴様らのこの威力は? さっきまでとは桁違いな……」
「これがあたしの奥の手、獣身錬磨よ。父さんだってそんな姿を隠してたんだから、おあいこでしょ?」
「ぐぬうっ!」
素早く後ろに飛び、振り返り走り出すドラゴンルイ。
「逃げる⁉︎」
「またルイボスティーを飲む気だよ! 行かせちゃ……」
ノアが叫んだ時、巨大な影がノアの頭上を通過して行く。
部屋の奥に置いてあった巨大な樽を持ち上げるドラゴンルイ。
「ハッハー! 我はどんなダメージを受けようとも、これさえあれば全てリセットだ!」
ルイボスティーを飲もうとした時、先程の巨大な影がドラゴンルイの両腕を掴む。
「させません!」
「何ぃ⁉︎ 貴様はさっきの⁉︎」
それは先程の飛竜よりも更に巨大な、ドラゴンルイに匹敵する大きさのドラゴンに変身したナオであった。
「離せ! 離さんか!」
「もう最後まで離しませんよ!」
「最後だと⁉︎ 何の最後だ? 歯磨き粉の最後のひと絞りの事か?」
「いや、この戦いの最後までですよ!」
「フッ、面白い! ではどこまで耐えられるか試してやろう!」
そう言って、ドラゴンナオの肩口に噛み付くドラゴンルイ。
「グゥッ!」
肩だけで無く、口の届く範囲の至る所を噛み付くドラゴンルイ。
それと同時に足でも蹴りつけるドラゴンルイ。
「フ、フフフ。大魔王ともあろうお方がこの程度ですか? これなら自分ひとりだけで勝ってしまいますよ」
「ただ我の攻撃を喰らう事しか出来ん奴が、何を言うか?」
「フフ。自分はこうやってあなたを抑えてさえいれば、後はみなさんがやってくれますからね」
「仲間の事か? だが貴様の仲間とやらはあんなに離れた場所に居るではないか? 果たして奴らが来るまで、貴様が生きているかな?」
そう言って、三度ブレスを放つ体勢になるドラゴンルイ。
「さあどうする? その手を離して逃げねば、貴様は丸こげだぞ? もっとも逃げれば後ろに居る仲間が丸こげだがな! ハハハハ!」
「後ろには、あなたの娘さんも居るんですよ?」
「見くびるな。アレらも魔族……この魔界に居る限り、ダメージを受けこそすれ、死ぬ事は絶対に無い! 死ぬのは貴様ら人間だけだ!」
「フフ。あなたこそ見くびらないでください。自分の仲間達はそう簡単に死にはしませんよ!」
「そうか……ならば、まずは貴様から死ね!」
十分にパワーの溜まったブレスを、超至近距離からドラゴンナオに放つドラゴンルイ。
「ガアアアアー!」
『絶対防御!』
ドラゴンルイの放ったブレスは、いつの間にか来ていたクラフトの絶対防御により完全に防がれた。
「何だと⁉︎ 貴様いつの間に? 確か貴様らは遥か向こうにいた筈!」
「よく耐えたわ! ナオ! グレートヒール!」
ニーナの超回復魔法により、ナオの傷が全快した。
「ありがとうございます。ニーナさん」
「良いのよ。だって乙女の肌に傷が残ったら困るもんね」
「……え⁉︎ もしかして乙女って自分の事ですか⁉︎」