第35話 それってもうプロポーズじゃん!
アイバーンを叱っていたユーキの怒りの矛先は、ジアにも向けられた。
「ジアちゃんもジアちゃんだよ!」
「ハ、ハイ!」
「アイ君がノアちゃんに召喚されてこの世界に来た後、どれ程思い悩んでたか知ってる⁉︎ もうずっとジアジア言ってて全然仕事も手に付かなくて困ったんだからね!」
「そ、そうなの?」
「だからこのままじゃダメだと思ってアイ君から事情を聞き出して、ジアちゃんを連れ戻しにみんなで来たんだから!」
「アイ君……」
「うぐっ。その節は大変迷惑をかけて済まなかった……」
「それではるばるやって来たってのに何さ⁉︎ 魔族だからとか、魔王だからとか、挙げ句の果てには一緒に死のうとか? いい加減にしなさい‼︎」
「ごめんなさい‼︎」
正座してユーキの説教を受けているアイバーンとジア。
「魔族だから何? 魔族なんてほら! ここにだって居るし!」
カオスの首根っこを掴んで見せるユーキ。
「オイ。俺は猫じゃねぇ」
「他にもフィーだって魔族だし、パティなんかは魔族と人間の混血だし、僕だって神様と融合してるし!」
「え⁉︎ そうなの? じゃあアイ君が言った女神って言うのは言葉通りの意味?」
「そうだ。全くお前は人の話を聞かないから……」
「だって〜」
「んと、つまりだ! 僕達の国にはそんな訳アリの人達がいっぱい居て、でも誰もそんな事全然気にして無くて……一度は戦った事もあるけど、今はみんな仲良くやってて……つまり、その〜」
言葉に詰まるユーキ。
「アイ君! 最後はちゃんと自分の言葉で言いなさい!」
「ユーキ君……分かった。ジア……」
ジアの真正面に座るアイバーン。
「ハ、ハイ!」
「私は不器用で小心者だから、中々言葉にして伝える事が苦手なんだが……幼い頃より、常に隣にはお前が居て……それが当たり前のように過ごしていたが、あの日いきなりお前が私の前から居なくなった時、まるで半身をもがれたような感覚に襲われた」
「アイ君……」
「それからあらゆる手を尽くしてお前を探したが見つからなかった。フッ、別の世界に居たんだ、そりゃあ見つからない筈だ。だからこの世界に召喚されてお前を見た時震えたよ。ようやく手掛かりを掴んだんだからな」
「あの時はあたしもビックリした」
「お前がどうしても戻れないと言うのなら、せめて共に永久氷壁の中でと思ったが、どうやら私が馬鹿だったようだ……もう一度言うぞ、ジア! 戻って来い! 私にはお前が必要だ! お前が魔族であろうと魔王であろうと関係無い! 例え誰になんと言われようと、私が一生守ってやる!」
「アイ君……」
「だから私達……いや、私の元へ戻って来い、ジア! ずっと私の側に居ろ!」
アイバーンの言葉を聞いたジアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「うん。うん。ありがとうアイ君。あたし、その言葉をずっと……ずっと聞きたかった……」
「ジア……」
ギュッと抱き合うふたり。
それってもうプロポーズじゃん! とツッコミたいのをみんな必死に堪えていた。
「どうやら向こうも丸く収まったようじゃの」
「クワッ!」
『お前はどうなんだノア? 俺達の元に戻ってくれるのか?』
「余は元々こんな辛気臭い魔界はあまり好きでは無かったからのぅ。貴様達と人間界に居る方が何倍も楽しいわい! それにジアも行くと言うのであれば、こんな所には何の未練も無くなるしの」
「クワァ」
『そうか……』
「じゃが……」
「クワッ?」
『どうした? 何か気掛かりでもあるのか?』
「いやぁ、どうもこのまますんなりとは行かん気がしてのぅ」
「クワッ!」
『オイ! 変なフラグを立てるんじゃない!』
負傷したアイバーンの傷を治療するユーキ。
「さあ! 他のみんなの事も心配だから、みんなを回収しながら帰ろ!」
「うむ、そうだな。さあ、ジア」
「うん」
とても優しい表情になったジアが、素直にアイバーンの手を取る。
「あ〜そだ! ウルちゃんがまたフクロウさんになっちゃったから戻してあげないと」
「クワッ!」
再びマジックイレーズをかけて、ウルを人間に戻すユーキ。
その光景を見たノアが、やはり凹んでいた。
「よ、余達があんなに苦労したミジンコ魔法をこんな簡単に……」
「うん。その気持ちはよく分かるぞ」
うなだれたノアの肩をポンポンと叩くウル。
「さあ! ふたりを取り戻した今、こんな所に長居は無用だ。早く城を出よう!」
だが、ノアに続いてジアも不穏な事を呟く。
「あたしはもうみんなのとこに帰るって決めたけど、父上が許してくれるかなぁ?」
「オイ、ジアまでフラグを立てるんじゃない!」
城を出ようとしたノア達だったが、急に激しい地震が起きると同時に、凄まじい魔力が辺りを包み込む。
「な、何だこの強烈な魔力は⁉︎」
「やはり来おったか!」
「ゆーるーさーんー‼︎」
奥の部屋より、怒りの表情の大魔王ルイが現れた。
「父上……」
「ノアよ……ディアよ……お前達、まさかこの城を出て行くつもりか?」
「そうじゃ! そもそも余は無理矢理誘拐して連れて来られたんじゃ! じゃから帰らせてもらう!」
「ごめんなさい父上……あたしも、やっぱりみんなの所に帰ります」
「ノア……ディア……」
凄まじい魔力を発していた大魔王ルイが、いきなり仰向けに倒れ込み手足をバタつかせる。
「ヤダヤダー‼︎ パパをひとりにしちゃヤダー‼︎」
「いや駄々っ子かっ!」