第33話 フルコースを召し上がれ
ジアが氷漬けになっている時、ノアールもまた呪いの言葉ミジンコにより動けずにいた。
「な、何じゃ⁉︎ いったいどうなっておる? 何故余の身体は動かんのじゃ⁉︎」
(ノア……ミジンコになるのがそんなに恐怖だったのか。まあ分からんでもないが……)
「ノア! 何故動けないのか教えてやろうか?」
「なんじゃと⁉︎」
「俺とお前が以前に戦った事があるというのはさっき話したな? その時俺は最後の切り札として、リジェネレーションという魔法を発動した」
「リジェネレーションじゃと?」
「お前にとってはミジンコ魔法と言った方が分かりやすいか」
「グゥッ! か、身体が更に重く……」
「リジェネレーションとは、かけた相手を弱体化させる魔法だ。その効果により俺はフクロウの姿に、お前は少女の姿になった。もっとも、どうやらお前は固有能力によって魔王ノアールの姿になっていたものが、元の少女の姿に戻っただけみたいだがな」
「フクロウ……何じゃ? 何故か肩のあたりがムズムズするぞ?」
(もしや、頭では忘れていても、身体が覚えているのか? ならば、一か八か試してみる価値はあるか……)
チラッとユーキを見るウル。
「ん? 何だろ?」
再びノアールの方に向き直り、意を決したように剣を構え、ゆっくり鞘から抜いて行くウル。
「ほう、ようやくやる気になったようじゃの?」
「ああ、覚悟は決まった。これが最後だ……行くぞノア‼︎」
「来るがよい! 勇者ウルよ!」
剣を構えながらノアールに向かって走り出すウル。
少しずつだが動けるようになったノアールが迎撃態勢をとる。
ウルがノアールの間合いに入った時、なんと持っていた剣を投げ捨てたウル。
「何じゃと⁉︎」
ウルのまさかの行動に一瞬動きが止まったノアール。
そしてウルが叫ぶ。
『リジェネレーション‼︎』
ウルを中心に眩い光が広がって行く。
「カオス!」
「ああ!」
ウルの目配せにより察知していたユーキとカオスが、アイバーンとジアに効果が及ばないように防御魔法を張る。
「こ、この魔法は、ま、まさかあああ〜‼︎」
「ノアちゃん‼︎」
光が収まった後、そこには少女の姿に戻ったノアと、再びフクロウの姿となったウルが居た。
「クッ、英雄召喚が強制解除されたじゃと⁉︎」
だがフクロウの姿となったウルを見て勝ち誇るノア。
「フッ、フハハハハ! 何じゃその姿は? それが例のフクロウとやらか? 確かに恐るべき魔法ではあるが、余は単に固有能力が解けただけ。再び英雄召喚を使えば何の問題も無いが、貴様はそんなナリでどうしようというんじゃ?」
「ク、クワアア〜」
(クッ。再びリジェネレーションをかければ、あるいは記憶が戻るのではと思ったが、ダメか……)
「フッ。わざわざ固有能力を使わずとも、今の貴様ならこのままの姿でも簡単に勝てるであろうが……」
絶体絶命のウルだったが、何故か急に考え込むノア。
(待てよ……リジェネレーションなる魔法が実際に存在し、それにより余の英雄召喚が解かれ、奴がフクロウの姿へと変わった……全て奴が言ったとおりに……という事はつまり、奴が言っていた事が全て事実という事……?)
明らかに動揺しているノア。
「クワッ?」
(多少なりとも効果があったのか? ならば!)
ノアの動きが止まった隙に、飛翔して一気にノアに近付くウル。
「く、来るなっ! 英雄しょ……」
「くわああー‼︎」
(させるかああー‼︎)
ノアが再び英雄召喚を発動させようとした時、一気にノアの頭の上に着地したウル。
「こ、こやつ! 人の頭の上になんぞ乗りおって!」
頭上のウルを掴みに行こうとした瞬間、大きく翼を広げて雄叫びをあげるウル。
「クワアアアアー‼︎」
そしてウルズクローから始まりウルズストライク、ウルズバイト等、今までノアに食らわせて来たウルの必殺技オンパレードを次々に炸裂させて行く。
全て頭部に集中させて。
「痛ああああー‼︎ な、何をするか貴様⁉︎ 痛っ! 痛っ! 痛ああー‼︎ や、やめんかああー‼︎」
そして最後にウルズデスロールでフィニッシュとなる。
「や、や、やめんかこのバカフクロウがああー‼︎」
ようやくウルを引き剥がしたノアが、頭を押さえながらその場にペタンと座り込む。
「ああー‼︎ 見よ! 毛がごっそり抜けたではないかー! 余は何もしとらんじゃろうが⁉︎ 何故貴様の必殺フルコースを喰らわねばならんのじゃ⁉︎」
「クワッ⁉︎」
目を見開き驚いた様子のウルを見て、不思議がるノア。
「何じゃ? 普段からすっとぼけた顔が更にマヌケな面になっておるではないか?」
急ぎノアの肩に飛び乗るウル。
「クワッ! クワアアアア! クワアー!」
(ノア! お前、記憶が戻ったのか⁉︎)
「あん? 何をたわけた事を言っておる? 余はどこもおかしくは……」
周りを見渡すノア。
「ここはどこじゃ⁉︎ 余はいつの間にこんな所に来たんじゃ⁉︎」
「クワアア!」
(何も覚えとらんじゃないかっ!)