第32話 恐怖は潜在意識に刷り込まれる
ジアがうつ伏せで強がっている頃、再び戦闘を再開したウルとノアール。
「あの衝撃で無傷とは、やりおるのう勇者ウルよ!」
改めてノアールと対峙したウルが違和感を感じる。
(ん? 気のせいか……ノアールの身体が少し小さくなったような?)
「衝撃は耐えたようじゃが、魔法ならどうじゃ! ブラックホール!」
ノアールの前に巨大な黒い球体が現れ、ウルを吸い寄せる。
「永劫の闇へと落ちるがよい!」
「クッ!」
必死に堪えていたウルが逆に飛び上がり、初めて抜いた剣で球体を斬り裂く。
「ライトニングソード!」
光をまとった剣により真っ二つに斬り裂かれた球体が消滅していく。
「なんじゃと⁉︎」
着地して、再び剣を鞘に収めるウル。
「貴様! 何故剣を収める?」
「言っただろう? お前とはもう戦いたく無いと……」
「もう戦いたく無いじゃと? おかしな事を言うやつじゃのう? まるで余と貴様が以前にも戦った事があるような口ぶりではないか?」
「戦ったんだよ。お前は覚えて無いようだがな……」
「なんじゃと⁉︎ 戯けた事を言うな!」
「ならばここ最近、お前は何をやっていた?」
「ここ最近……な、何故じゃ⁉︎ 最近の記憶がまるで無いぞ? どういう事じゃ⁉︎」
「俺と戦った後、リジェネレーションの影響でお前は少女の姿に、俺はフクロウの姿になり、共に過ごしたんだ」
「余が貴様と共にじゃとー⁉︎」
「そうだ」
「戯けた事をぬかすなああー‼︎」
巨大な手でウルを薙ぎ払うノアール。
「グウッ!」
城の壁まで飛ばされるウル。
そしてノアールの姿を見たウルが確信する。
(やはり、明らかにノアールの身体が小さくなっている。もしや……)
更に追撃すべく、ウルに近付くノアール。
「これでトドメじゃ‼︎」
ノアールが大きく拳を振りかぶった時、ウルが叫ぶ。
「良いのかノア⁉︎ これ以上俺を攻撃したら、ミジンコになってしまうぞ⁉︎」
己の意に反して、何故かウルの眼前で動きが止まるノアール。
「な、何じゃ⁉︎ 何故余の身体が動かんのじゃ⁉︎」
「フフッ。記憶は無くとも、ミジンコと言う言葉に身体が反応したようだな?」
「何をおおー⁉︎ ミ、ミジンコが何だと言うんじゃ⁉︎ 動けノア! ノア、何故動かん⁉︎」
「ノアちゃん‼︎」
ノアのピンチに助けに行こうとするジア。
「どこへ行く! ジア!」
ジアの前に立ち塞がるアイバーン。
「どいてよアイ君! ノアちゃんが!」
「ノア君の相手はウルがやっている。手出し無用に願おうか」
「このぉ……なら、今すぐ君を倒す! 『風刃一閃!』」
再び風魔法を短剣にまとわせて突きを放つジア。
それを大剣でいなすアイバーン。
「アイスニードル!」
アイバーンの足下から数本の氷のつららが伸び、ジアに襲いかかる。
「こんなもの!」
両手に持った短剣でつららを次々に破壊して行くジア。
「ウインドカッター!」
短剣より風の刃が飛び、アイバーンを斬り裂く。
「やった⁉︎」
しかしアイバーンの姿は幻のように消えて行く。
「幻術⁉︎」
「アイスミラージュだ。そして……」
いつの間にかジアの背後に回っていたアイバーンが、ジアの肩にそっと触れる。
「インフェクションアイス」
アイバーンが触れた箇所から、徐々に凍りついていくジア。
「クッ! また⁉︎」
「心配するな。私もウルも、お前達を殺したりはしない。ただゆっくりと話し合いたいだけだ」
「話し……あい?」
「そうだ」
「あたし達を殺さない?」
「ああ」
「わ、分かったわ……ちゃんと全部話すから、この氷を解除して?」
「そうか、ようやく分かってくれたか……ならば」
そんなアイバーンとジアのやり取りを見ていたカオスが呟く。
「あれ、どう考えても嘘だろ」
「うん、でもアイ君お人好しだから、信じちゃうんだろうなぁ」
ジアの言葉を信じて、氷魔法を解除するアイバーン。
「嘘ピョーン!」
案の定逃げ出すジア。
だが慌てる事無く、再び氷魔法を放つアイバーン。
「ダイヤモンドダスト……」
大気中に無数の氷の結晶が現れる。
「この技は! ヤバっ!」
急ブレーキをかけたが間に合わず、氷の結晶に触れてしまうジア。
その箇所から再び凍り付き、また動けなくなるジア。
「はあ……またぁ?」
「私も多少は成長したのだよ。例え相手が誰であろうと、100%は信用しないようにしたのだ」
「ええ〜? そんなの何だか哀しいよ〜。例え何度騙されようとも信じ抜く! それがカッコいいんじゃないかな〜」
「お前が言うな」
考え込むジア。
少しの沈黙の後、ジアが動く。
「ねえアイ君! オシッコ行きた〜い! 漏れる〜!」
「いや、考えて出したのがそれかっ⁉︎」