第30話 何だかガチバトルっぽい
おふざけに走るジアに、シリアスな表情で訴えるアイバーン。
「ジア！ 以前にも言ったが、私達の元に帰って来るんだ！」
「何故？」
「何故って……お前は子供の頃より私達と共にあったではないか！ それを何も言わずにいきなり姿を消して、いったいどれだけ心配したと……」
「だから、あたしは魔族でここがあたしの故郷で家なの。自分の家に帰って来て何が悪いの？」
「そ、それはそうなのだが……何も黙っていなくなる事は無いだろう⁉︎ それに、あれから全く顔も見せなかったではないか！ ジア……ここに帰って来る事は、本当にお前の本意なのか？」
アイバーンの言葉を聞いたジアが少し声を荒げる。
「そうよ！ あたしが向こうの世界に行ったのだって修行の為だし、もうアイ君にも負けないぐらい十分強くなったから帰って来たのよ！」
「戦ってもいないのに何を……？」
「なら、今ここで本気の戦いをしようじゃないのさ！」
ヒートアップしているふたりに申し訳無さそうに口を挟むウル。
「あの〜、白熱している所大変申し訳無いのだが……」
「なんだねっ⁉︎」
「何さっ⁉︎」
「ノアはどこに……」
ウルの質問に苛立ったまま応えるジア。
「ノアちゃん⁉︎ ノアちゃんだって魔族なんだし、あたしの妹なんだから、当然ここであたしと一緒に暮らすのよ！」
「妹……やはりノアは元々女性だったのか……」
「そうよ！ 何？ ノアちゃんが可愛い女の子だから連れ戻したいの？ じゃあ化け物みたいな姿の魔王ノアールだったらまた倒すの？」
「お、俺は……」
「面白い事を言う人間じゃな？」
奥の部屋から、虚ろな表情のノアが現れる。
「ノア‼︎」
「この余を倒すと申すか人間よ？ フッ。やれるものならやってみるがよい」
ウルの事が分からない様子のノアに必死に訴えるウル。
「ノア‼︎ 俺だ！ ウルだ！」
「ウルじゃと……？ そうか、貴様が勇者ウルか？ 面白い！ この魔王ノアールを倒せるものなら倒してみよ！」
「な、何を言ってるんだノア⁉︎ 俺が分からないのか⁉︎ た、確かに人間の姿には戻ったが、この姿を知らない訳では無いだろう⁉︎」
「なんじゃと？ 貴様、何を言っている？ 余と貴様は今日初めて会った筈……グウッ！」
急に頭を抱えてうずくまるノア。
「ノアっ⁉︎」
(何だ？ ノアのやつ、さっきから妙な事ばかり……まさか記憶を操作されているのか？)
「ノアちゃん、大丈夫⁉︎」
「何じゃ？ あやつを見ていると頭がモヤモヤする……」
(こっちでの記憶がまだ残ってる？)
そんなノアの様子を見て、戦闘態勢に入るジア。
「ノアちゃんをイジメるやつは、あたしが許さない！ 魔装‼︎」
ジアがペンダントを引いて叫ぶと同時に魔装衣が装着され、一対の短剣が両手に握られる。
「痛い目にあいたく無かったら、さっさと帰りなさい！」
ウルに一直線に向かって行くジア。
「させんよ！ 魔装！」
黄金の鎧と巨大な剣を装備したアイバーンがジアの前に立ち塞がる。
「アイ君どいてよ！」
「そうは行かん！」
ジアの短剣とアイバーンの大剣がぶつかり合い、激しい金属音が響き渡る。
『風刃一閃‼︎』
短剣に風魔法をまとわせて突きを繰り出すジア。
『アイスウォール‼︎』
それを氷の壁で防御するアイバーン。
「甘い！」
氷の壁に突き刺さった短剣に巻き付いた風魔法がドリルのように高速回転して氷に穴を開けて行く。
「何だと⁉︎ クッ！」
危険を感じたアイバーンが後ろに飛んで距離を取る。
「それで避けたつもり？」
『龍鳴風烈‼︎』
「ガアアアー‼︎」
龍のような凄まじい咆哮をあげるジア。
『アイスプリズン‼︎』
本来は敵を氷に閉じ込める技だが、それを咄嗟に自分にかけてジアの咆哮を防ぐアイバーン。
「まだ終わりじゃ無いわよ！」
アイバーンの態勢が崩れた隙に一気に間合いを詰めるジア。
「しまっ……！」
『龍双…….連舞ううー‼︎』
その場で高速回転して、両手の短剣で氷の壁ごとアイバーンを斬り刻むジア。
「グアアアアー‼︎」
防御が間に合わず、ジアの攻撃をモロに喰らってしまうアイバーン。
ジアの回転が止まった時、致命傷にはならなかったものの、アイバーンの鎧はボロボロに斬り裂かれていた。
「どう？ あたしも結構強くな……ウプッ！ おええええ〜！」
ジアは吐いた。
「そこは、相変わらずなんだな……」
アイバーンとジアが戦っている隙に、ノアの元へ駆け寄るウル。
「ノア、大丈夫か⁉︎」
心配そうに出したウルの手を払いのけるノア。
「人間ふぜいが、余に触れるでないわぁぁー‼︎」
「ノア……」
「ああそうか……余がこんなナリじゃから舐められておるのか？」
「何を言って？」
「ならば、余の力を見せてくれるわ！」
『英雄召喚‼︎』
固有能力を使ったノアの姿がなんと、魔王ノアールの姿へと変貌して行く。
ウルの何倍もの大きさとなった魔王ノアール。
「何……だと⁉︎ 魔王、ノアール……」
「フハハハハハ‼︎ さあ、勇者ウルよ！ かかって来るがよい！」
そんな戦いが始まった中、広間の端っこで戦況を見つめているユーキとカオス。
「オイ、ユーキ。俺達完全に置いてけぼりだが、参戦しなくていいのか？」
「う〜ん。あの4人、何だか因縁があるみたいだから、僕達が変に出しゃばるのもね〜。いよいよ危なくなるまでは様子を見てよ」
「俺、もしかしてこのまま最後まで出番無ぇんじゃねぇのか……？」
嫌な予感が頭をよぎるカオスであった。
