第27話 本心を悟られたら負け……みたいな？
ユーキのおしおきが確定したパティがトラウに八つ当たりしていた頃、敵をそっちのけで未だ醜い争いをしている猫師匠とフィー。
「フィー！ 上司を上司と思わないその態度！ 今日という今日は許さないニャ！」
「ああ、それなら大丈夫です」
「何がニャ？」
「私は今までシャル様の事を上司だと思った事は一度もありませんから」
「んニャアッ⁉︎ 今のは問題発言ニャアッ！」
「上司では無く、家族だと思ってますから」
恥ずかしそうに顔を伏せるフィー。
フィーのまさかの言葉に頬を赤くする猫師匠。
「んニャッ⁉︎ お、お前……あたしの事をそんな風に思ってたのかニャ？」
「はい、そうです」
「ボ、ボケニャい⁉︎ という事はマジニャ？」
「マジです……おばあちゃん」
「時間差で来たニャア⁉︎」
いつまで経っても真面目に戦おうとしないふたりに痺れを切らすクロノス。
「おふたりの仲が良いのはもう分かりましたから、いい加減に戦いを再開しませんか？」
「ニャッ⁉︎ それは悪かったニャ。じゃあもう一度あたしが行って、今度こそお前の能力の謎を解いてやるニャ！」
前に出ようとする猫師匠を制止するフィー。
「お待ちください。ここは私が行きます」
「フィー⁉︎ なんニャ？ 人に行かせておいて、結局お前が行くのかニャ？」
「はい。自分自身の体験と、シャル様がコテンパンにやられた所を見たおかげで、やつの能力の秘密が分かって来ましたので」
「いつあたしがコテンパンにやられたニャ⁉︎」
「いいえ。コッペパンが食べたいと言ったんです」
「給食ニャ⁉︎」
「なので、ロリババアは引っ込んでいてください」
「誰がロリババアニャッ⁉︎」
「いいえ。老害と言ったんです」
「もっと酷いニャアッ！」
ふざけっぱなしのふたりに少しイラッとしたクロノスが、逆に仕掛けて来る。
「真面目に戦う気が無いのなら、それでも構いません。どうぞそのまま死んでください」
フィーに向かって鞭を振り下ろすクロノス。
何とフィーは、その鞭を全くの無防備で棒立ちのまま受けるのだった。
「何っ⁉︎ 全く防御もしないなんて、何のつもりです？」
「フィー⁉︎ お、お前何やってるニャ⁉︎ いくら相手が雑魚だからってノーガードは舐め過ぎニャ！」
「決して舐めていませんよ。私が舐めているのはシャル様だけです」
「ウニャッ⁉︎ 誰を舐めてるって⁉︎」
「いいえ。やめるって言ったんです」
「やめる？ 何をニャ？」
「シャルに様を付ける事を……」
「すでに呼び捨てニャッ‼︎」
「ですが、今のでほぼ能力の正体が分かりました」
「なん……ですと？ 今、私の能力の正体が分かったとおっしゃいましたか？」
「いいえ。シャルの無能っぷりが分かったと言ったんです」
「誰が無能ニャア⁉︎ そしてまだ呼び捨てニャ⁉︎」
「面白い事をおっしゃいますねぇ。ならば答えてください。私の能力は何です？」
「初めは幻覚の類で距離感を狂わせているのかと思いましたが、しかしてその正体は……時間」
クロノスの額がピクリと反応する。
「あくまで仮説ですが、過去の状態を時間差で遅らせて見せているのでは無いですか？ 私達は既に移動している過去のあなたに攻撃をしていたから、当然当たる筈も無いですね。さっきあなたの攻撃を無防備で受けたのは、その時間差を確認する為。案の定、あなたの攻撃モーションより一瞬早く攻撃が当たりました。まあその辺の時間差は自由に操作出来るんでしょうが」
フィーの謎解きをじっと聞いていたクロノスが、いきなり笑い始める。
「フッ……フッフッフッ…….アッハッハッハ！ いやぁ、お見事です。ほぼ正解ですよ。私の固有能力、事沙惚は、相手に過去の私を時間差で見せて、距離感や技のタイミングを狂わせる能力です。ですが、それが分かった所で攻撃が当たらなければどうしようもないでしょう？」
「当たらないとは言っても、あなた自身はそこに居る訳です。ならば逃げられないようにすれば良いだけです。うん、簡単簡単」
『ダークネスフィールド！』
巨大な闇がクロノスを包み込む。
「な、何ですかこれは？ 何も見えません！」
「さあ、バイトの時間ですよ」
闇の球の中に、フィーが召喚した死体達が大量に現れる。
「よっしゃあ！ 久々の出番だぜ〜！」
「頑張って怖がらせるぞ〜」
「バカ！ 今回は怖がらせるだけじゃなくて、あいつの動きを止めるんだろ！」
「あ〜、そうだった。でもどうやって？」
「適当に掴めば良いんじゃね？」
「よし！ それで行こ〜！」
「お〜‼︎」
「お〜‼︎」
「は〜い！」
「いっけ〜！」
「うわああっ‼︎ な、何だ⁉︎ 何か居る？ く、来るなああー‼︎」
召喚された死体達が、クロノスの身体にまとわりつく。
「うああー‼︎ さ、触るな気持ち悪いー！」
「さあ、仕上げです」
フィーが右手をバッとかざしてゆっくり拳を握ると、クロノスを包んだ闇の球が徐々に小さくなって行く。
「こうすれば能力が使えたって関係無いですからね。あとは……シャル様！」
「ウニャッ⁉︎」
「トドメはお任せします」
「ほう？ 美味しいとこをあたしに譲るとは、中々分かってるじゃないかニャ。ならば任せるニャ！」
フィーが作った闇の中に入って行った猫師匠が、死体達に掴まれて身動きのとれないクロノスに渾身の一撃を食らわせる。
「ウニャッ‼︎」
「ガハアアー！ な、何故この闇の中で私の位置が分かって……ガクッ」
クロノスが気絶したのを確認したフィーが、闇の空間を解除する。
「猫は夜行性ニャ。こんな暗闇屁でも無いニャ。しかし、ネタさえ分かればやっぱり雑魚だったニャ。ところで……ニャ」
ニヤけた顔でフィーを見る猫師匠。
「何です？ 気持ち悪い」
「フィー。お前さっき、あたしをシャル様って呼んだニャ⁉︎」
ハッとなったフィーが顔を背ける。
「いいえ。シャル邪魔って言ったんです」
「ペット扱いニャ⁉︎」
猫師匠&フィーVSクロノス
完全に遊ばれて、猫師匠&フィーの勝利
