第26話 良い子は見ちゃダメよん
セラが目を見開いていた頃、パティのドス黒いオーラに怯え、どんどん後ずさりして行くトラウ。
「ま、待て‼︎ 僕が悪かった! 悪夢は無しだ! ふ、普通に良い夢だけを見せるから、それで勘弁してくれないか?」
「良い夢? 当然相手はユーキなんでしょうね〜?」
「も、勿論! あんたの望むままの夢を見せるから……ね?」
「ふ〜ん……なら、それであたしが満足したら見逃してあげるわ」
「よ、良かった。じゃあ行くよ…… 嘘揄謀!」
トラウの口車に乗り、再びユーキの夢を見るパティ。
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
ユーキが差し出したおかずを、口を開けて待ち構えるパティ。
「どう? 僕の作ったご飯、美味しい?」
「ええ、とても美味しいわ。じゃあ今度はあたしがお返しするわね」
そう言って、口に咥えたおかずを口移しでユーキに食べさせようとするパティ。
「は、恥ずかしいよパティ」
「はふはひはあはふへひいは。はんはあほおははあはひほおはえへふえへひいほお(恥ずかしがら無くて良いわ。なんならこのままあたしごと食べてくれても良いのよ)」
「ん、ん……」
パティが咥えたおかずを食べながら、そのまま口と口を合わせるパティとユーキ。
「ヒッ!」
また何かを感じ取ったユーキが、身震いしていた。
(な、何だろ? 急に背筋に寒気が走ったんだけど?)
幸せそうな表情のパティを見ながら、異変に気付くトラウ。
「え? この人の魔力、さっきより低下してる? まさか? いやそうか……この人には悪夢を見せるより、普通に楽しい夢を見せる方がダメージを与えられるんだ? なら、もっと良い夢を見せてあげるよ!」
嘘揄謀を更に深くかけるトラウ。
「ねえパティ、一緒にお風呂に入ろ。僕が背中流してあげるよ」
「ええ! 喜んで!」
「パ、パティ? 何でタオル使わないのさ?」
「こ、この方が感触が直に伝わって、あ、洗いやすいのよ!」
とても映像ではお見せできないような洗い方をしているパティ。
「く、くすぐったいよパティ! あ、あはははは! アンっ! ま、前は自分で洗うから良いってば〜!」
「いいえ! 全身まんべんなく洗ってあげるから、あたしに身を委ねなさい!」
「あはっ! あははは! や、やめて! くすぐった……あっ! ん……ん……んん……パ、パティ……僕も洗ってあげる……」
「ユーキ……」
「ヒイイイイ〜‼︎」
また何かを感じ取ったユーキが悲鳴を上げる。
(な、何なんだよさっきから? ゾンターの能力? いやでも、あの人の効果範囲には入って無い筈だし……風邪ひいたのかなぁ?)
更にニヤけた顔で眠っているパティ。
「や、やっぱり……明らかにさっきより魔力も生命力も低下してる。し、勝機が見えて来たぞ! このまま押し切ってやる!」
再び夢の中のパティ。
「さあ、布団の用意が出来たわ! いらっしゃいユーキ!」
「布団の用意って、お布団ひとつしか無いよ? パティ」
「勿論あたしと一緒に寝るのよ」
「んん〜。は、恥ずかしいよパティ」
「ちゃんと電気は消すから大丈夫よ。さあっ」
「ん〜。そ、それじゃあお邪魔します」
パティが入っている布団に潜り込むユーキ。
「うん、しょっ」
下からひょこっと顔を出し見つめて来るユーキを見て、激しく悶えるパティ。
(んんん〜! この日をどれだけ待ち望んだ事か!)
「パティ?」
「さ、さあ。離れてたら寒いでしょ? もっとくっついて」
「う、うん……」
ユーキを背中からギュッと抱きしめるパティ。
「んん〜。お風呂上がりの良い匂い……」
「パ、パティ! 鼻息がくすぐったいよ〜!」
しばらくユーキを抱きしめていたパティだったが、その手は徐々にいけない場所に伸びて行った。
「ヒャンッ! ち、ちょっとパティ! どこ触ってんだよ〜!」
「ちょっとは成長したかしら?」
そしてパティの手はどんどん下へと下がって行く。
「え⁉︎ パティ! そ、そこはダメだって! まだ早……あっ!」
「んんんん〜!」
言葉にならない悲鳴を上げる現実のユーキ。
「そ、そうか! 分かったぞ〜‼︎ これ、パティだな〜⁉︎ こらああ〜‼︎」
ついに悪寒の原因に気付いたユーキが、怒りながら凄まじい魔力を放出する。
「ヒイイイ〜‼︎ ゴ、ゴメンナサイ〜‼︎」
ユーキの魔力に反応したパティが飛び起きる。
「うわあっ! な、何だぁ⁉︎ いきなり目覚めた⁉︎」
パティが寝ている間に仕留めようと近付いていたトラウが驚く。
「そ、そうか……夢……良か……」
安心しかけたパティだったが、ユーキの怒りの魔力を感じ取り、現実だと理解したパティの顔がどんどん青ざめて行く。
そしてその矛先はトラウへ向けられた。
「あ、あ、あんたが変な夢なんか見せるから……ユーキに怒られちゃったじゃないのよ〜‼︎」
パティの怒りの雷がトラウに直撃する。
「うぎゃああああ〜‼︎ そ、そんなの、か、完全な八つ当たり……ガクッ」
パティVSトラウ
殆ど戦わずにパティの勝利