第25話 ダルマさんが転んだ
大魔王ルイがクソ親父で確定した頃、依然として固まったままのセラとグロス。
「ねぇ! いったいいつまでこうしてるつもりですかぁ? 単なる時間稼ぎですかぁ? 私を足止めしても意味無いですよぉ?」
「そうだな……じゃあそろそろ仕掛けてみるかな」
そう言った後、急にセラに向かって走り出すグロス。
と同時にセラも動けるようになる。
(やはり動けますねぇ。じゃあ後は近付いて来た所をドカンですねぇ)
だが少し動いた所で立ち止まり、再び動けなくなるセラとグロス。
「んもぉ〜! またですかぁ⁉︎」
「フッフッフッ。迂闊にあんたに近付くのは危険だからな」
「あなたが私の何を知ってるんですかぁ? 私はただのヒーラーだって言ってるでしょぉ!」
「そうやって自分を過小評価する奴程怖いんだ」
「もぉ! いったい今までどれだけ痛い目に合ったんですかぁ? 慎重が過ぎますよぉ!」
「おいらは石橋を叩いて割って渡る男だ!」
「橋、壊れてるじゃないですかぁ!」
普段はボケ役のセラがツッコミまくっていた。
「今だ!」
セラがツッコんでいる最中に再びセラに近付くグロス。
(あと少し……)
グロスが魔法の範囲内に入るのを待っていると、その手前でまた停止するグロス。
「フッフッフッ。さすがにこれ以上近付くのは危険だからな! ここから攻撃させてもらうぜ!」
そう言うと、地面に散らばっていた石をセラ目がけて投げ始めるグロス。
「ち、ちょっとぉ! いつの時代の戦いですかぁ⁉︎ こんなのいくら当たった所で致命傷にはならないですよぉ? 痛いですけどぉ」
「致命傷にはならなくとも、ダメージは蓄積されて行くだろう!」
「ですからぁ! 私はヒーラーなんですから、この程度の怪我はすぐに治せるんですぅ!」
「なら、これならどうだ?」
「えっ⁉︎」
何と、グロスは未だ石を投げ続けているのに、セラだけが動けなくなっていた。
「動、けない? あなたは動いてるのにぃ?」
グロスの投げた無数の石は、セラの目前の空中で停止した。
即座に状況を把握するセラ。
「こんな光景、何かのアニメで見た事ありますねぇ。なるほどぉ。仕掛けたあなたも動けなくなると思わせておいてぇ、実はあなただけは動けた訳ですかぁ。とぼけているようで、あなた、中々の策士ですねぇ?」
「フッフッフッ。おいらの演技も中々だっただろ? さあ、ここで能力を解除すれば、停止した無数の石があんたに襲いかかるって訳だ。それだけの石を同時に食らったら、さすがにヤバいんじゃないか?」
「確かにぃ。ちょっと痛いだけでは済みそうにありませんねぇ」
「どうする? 泣いて謝って、お、おいらの嫁になるって言うなら助けてやっても良いぞ?」
「んふふ。謹んでお断りしますぅ。私はゆうちゃんの嫁になるって決めてますからねぇ」
「ぐううー。そうか……ならば、死んで魔族として生まれ変わったら可愛がってやるよ!」
グロスが能力を解除した瞬間、宙に浮いていた無数の石が一斉にセラに襲いかかる。
「せっかくおいらの好みだったのに……残念だけど仕方ない」
「んふふ。もう勝った気でいるんですかぁ?」
「何いっ⁉︎」
砂埃が晴れると、全く無傷のセラが現れる。
「バ、バカな⁉︎ あれだけの石を食らって無傷な訳が⁉︎ ま、まさかあの一瞬で傷を全て治したのか⁉︎」
「いいえぇ。あなたの投げた石は、ひとつも私に当たってませんよぉ。だって全て防御魔法で防ぎましたからぁ」
「そ、そんなバカな! 確かに最後は能力を解除したが、あの一瞬で防御魔法なんて張れる訳がねぇ!」
「んん〜? 曲者かと思いましたがぁ、中々鈍い人ですねぇ」
「何⁉︎」
「あなたが能力を解除してから防御魔法を張ったんではなくてぇ、もっと前から準備してたんですよぉ」
「そ、そうか! おいらが出て来た時から既に警戒して魔法を用意してたって事か!」
その言葉を聞いたセラが、残念そうな顔をしながらため息をつく。
「ハアッ。このボケ専門の私に散々ツッコミをさせるぐらいですからぁ、相当頭が良いのかと思いましたが、残念ですぅ」
「何おぅ! い、いくら準備してたとしても、もうさっきので使い切った筈! 次はかわせまい! 喰らえ! 対死防」
再び固有能力を使った後、セラに向かって大量の石を投げつけるグロス。
その瞬間、普段は糸目のセラが目を見開き胸のペンダントを引く。
ペンダントから現れた6本の羽を前方に投げるセラ。
すると空中に魔法陣が現れ、グロスの投げた石を全て飲み込んで行く。
「な、何故動ける⁉︎ そ、それにおいらの投げた石はどこに行った?」
グロスの質問に目を開いたセラが答える。
「もお! いっぺんに言わないでくださいよ! んと、動けるのはあなたが能力を使った時から、魔法無効化の結界を自分にかけてたからです。そしてあなたの投げた石は私の魔法、マジックホールが全て吸収しました」
「んなっ⁉︎ つ、つまり、あんたも初めから動けたのに、おいらと同じように動けないフリをしてたって事か?」
「正解です。そしてもうひとつの答え」
「え⁉︎ 聞いたのはそれだけ……」
「吸収した石はどうなったのか? さっきのも含めて全部返しますね!」
『リフレクション‼︎』
魔法陣から吸収した無数の石がグロス目がけて飛び出す。
「んなああーっ‼︎ つ、対死防‼︎」
「無駄ですよ。既にあなたの周りにも魔法無効化の結界を張ってますからね」
セラの言葉通りグロスの能力は発動せず、とんでもない量の石をその身に受け、ダウンするグロス。
「ど、どこがただのヒーラーだ……ガクッ」
セラVSグロス
はったり勝ちでセラの勝利