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第5話 誰だって見返りは欲しいよね?

 クラフトとの戦いが終わった後、その日の宿代が無い事に気付いたノアが、仕方なくまた昨日行った飲食店で少しだけアルバイトをさせてもらい、何とかその日の宿代を確保したのだった。


 ついでにJPも更に増えて、95になった。


 夕食を終え部屋に戻ったノア達が、今後について話し合っていた。


「確かにクラフトとのバトルは楽しかったが、金にはならんからのう」


『ならばまた店の手伝いをすれば金は稼げるし、JPも少しずつ溜まって行くではないか』


「1日ずっと猫をかぶって愛想笑いをするのは、精神的に苦痛なんじゃ。はあ〜、もっと楽してすぐに稼げる方法は無いもんかのう」


『ダメ人間の発想だな』



 翌朝、朝食をとるべく食堂に向かうと、何やら周りの宿泊客がざわついていた。


「まさか、魔獣にやられたなんて事は?」


「いや、街からは誰も出ていないらしい」


「ではやはり、誘拐か?」


(何やら物騒な話をしておるのう?)


『おいノア。詳しく聞いてみろ。人助けができるチャンスかもしれん』


(う、うむ)


 近くの宿泊客に事情を聞くノア。


「オイ。一体何があったのじゃ?」


「ああ。なんでも、この宿のオーナーの子が昨夜から帰ってないらしいんだ」


「ん? ただ夜遊びをしてるだけではないのか?」


「いや、それがその子はチカちゃんって言う6歳の女の子なんだ。ひとりで遊び歩いたり、ましてや街の外に出られる歳じゃないだろ? だから、もしかしたら誰かに誘拐されたんじゃないかって」


 ノアとウルは、その名に聞き覚えがあった。


(チカ? 聞いた事のある名じゃのう?)


『お前に始めて感謝のオーラをくれた子じゃないか?』


(おおー。あの時の小娘か⁉︎)


 そこへ、ひとりの男がメモのような物を握り締めながら、入って来る。


「みんな! 誘拐犯からのメッセージが届いた!」


「なんだって⁉︎ オイ! 誰かオーナーを呼んで来てくれ!」


 宿屋のオーナーであるチカの両親が呼ばれ、そのメッセージを読み始める。


「そんな、チカ……」


「あなた、何とかしてください! チカが!」


「し、しかし相手が悪過ぎる……」


「そんな⁉︎ チカ……うううう……」


 その手紙にはこう書かれていた。


〔娘を預かった。返してほしくば明日の正午までに5千万ゴールド用意しろ。それまでに金が用意出来なければ、娘の命は無い。なお、もしもギルドに依頼を出したと分かれば、その場で娘を殺す。猛堕将(もうだしょう)より」


「猛堕将だってー⁉︎」


(何じゃ⁉︎ そのよく打ちそうな名前は?)


『猛堕将というのは、元冒険者が堕ちて盗賊や強盗に成り下がった連中が集まって出来た、ならず者集団の事だ。俺達が全て討伐したと思っていたのだが、まだ残党がいたようだな』


 猛堕将の名を聞いて、絶望的な表情になる冒険者達。


「無理だ……あいつらの強さは尋常じゃない」


「あの時はウル様達が居てくださったから何とかなったが、今やウル様は行方不明。他のパーティーの方々もまだ意識が戻らないし」


「何を言う⁉︎ まだクラフト様がいらっしゃるじゃないか!」


「そ、そうだ! 誰かクラフト様を呼んで来てくれ!」


 そう言っている間に、先に動いたであろう男性が慌てて入って来る。


「ダメだ‼︎ クラフト様は昨夜アイス食べ放題で200人前のアイスを食べてお腹を壊して動けないらしい‼︎」


「何だとおおおー‼︎」


『あのバカ……』


 頭を抱えるウル。


「じゃあどうする⁉︎ 今すぐギルドに依頼を出せば……」


「バカ! それだと人質が殺されちまうだろ⁉︎」


「なら、どうにかして身代金を……」


 オーナーであるチカの父親をみんなが見つめるが、大きく首を横に振るオーナー。


「たった一晩で5千万ゴールドもの大金を用意するなんて、とても無理だ……」


「そんな……それじゃあチカは……うああああーっ‼︎」


 うなだれる父親と、泣き崩れる母親。

 そんな重い空気に耐え切れなくなったノアが逃げようとする。


(さて、それじゃあ余はまた、肉まんでも売りに行くかの〜おおおああーいっ!)


 当然、ウルズクローの餌食である。


『どこへ行く、ノア⁉︎』


(余はこんな暗い雰囲気は嫌いなんじゃ)


『あんな薄暗い城に住んでいた魔王が言うかっ⁉︎ これは人助けをする絶好のチャンスだろう⁉︎』


(余がクラフトの奴に治癒魔法をかけてやれば、あいつが助けに行くじゃろ?)


『それでいくら体調が良くなったとしても、あいつは昨日お前と戦ってJPを使い果たしている。一晩でJPを回復させるだけの人望も無い。治すだけ無駄だ』


(おぬし、パーティーの仲間に対してキツイのう?)


『体調管理も出来ずに、こんな時に動けんような奴は知らん! それより、この機会を上手く活かせばお前の名は知れ渡り、依頼が殺到するかもしれん』


(ええ〜⁉︎ だって相手は元冒険者なんじゃろ〜? だったらそう簡単にはいかんじゃろうし〜、大量にJPを使って助けても10やそこらの感謝じゃ割りが合わんし〜あ痛たたたーっ‼︎)


『つべこべ言わずに行けええーっ‼︎』


(わ、分かった‼︎ 分かったから、クチバシで鼓膜を破ろうとするでない‼︎)


 ウルに言われて渋々名乗りを上げるノア。


「よ、余が助けに行ってやってもよいぞ? 余はギルドには登録しとらんから、問題無いじゃろ?」


「あ、あなたはあの時の⁉︎」


 ノアの事に気付いた母親。

 しかしその反面、ガッカリした様子の父親。


「気持ちは嬉しいが、君のような子供ではとても猛堕将には勝てない。みすみす殺されに行くようなものだ」


 父親の言葉に怒るかと思われたノアだったが、あっさりと肯定した。


「ハハッ、そうじゃよな? 余もやめておいた方がいいと思うぞ! では、邪魔したにゃあああーっ‼︎」


 何とか逃げようとするノアを、力尽くで引き止めようとするウル。

 そんな時、ひとりの男性が口を挟む。


「そういえば俺、その娘が昨日クラフト様と戦ってるのを見たぞ!」


(何……じゃと⁉︎)


 そのひと言を皮切りに、次々と目撃情報が出て来る。


「そうだ! 俺もどこかで見た気がしてたんだ! 確かに凄い戦いだった!」


(そ、そうかの?)


「そうだよ。なんたってあのクラフト様と互角の戦いをしてたんだからな!」


(フンッ! 余が万全の状態なら瞬殺じゃ)


「最後は惜しくも負けちゃったけど……」


(あれは単純な計算ミスじゃ)


「いーやっ! 俺はちゃんと見てたぜ! クラフト様が周りの事なんか御構い無しに暴れているのに対し、その娘は常に周りの人を気遣いながら戦ってたんだ!」


(ひ、人を傷付けられないから、仕方なくじゃ)


「そうだ! お互い全力を出せる場所だったら、その娘が勝ってたかもしれない!」


 そんな周りの声を聞いて、態度を変える父親。


「何と⁉︎ し、失礼しました! それ程の実力をお持ちの方なら、是非娘を助けて頂けませんか⁉︎」


「私からもお願いします! もし助けて頂けたなら、何でもお礼はいたしますから!」


「何でも、じゃと?」


 何でもという言葉に反応して、顔がにやけるノア。


『オイ! 変な事を頼むんじゃないだろうな?』


「ハイ! 私達に出来る事なら何でも。ですから娘を!」


「ならば……昨夜の宿代をただにしてくれぃ!」


『ホッ⁉︎』


 ノアの肩の上でずっこけるウル。


「え⁉︎ あ、ハイ! 娘を助けて頂けたら、今後何泊泊まって頂いても全て無料にします!」


「な、何泊でもじゃとー⁉︎ そ、その言葉、忘れるでないぞ!」


(フッフッフー。これで当面の宿の心配は無くなったぞい)


『ホー。まあ、良しとするか……』


 そして、意気揚々と出陣するノアであった。


 



野球とは関係ございません。

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[一言] ノアは大魔王なのにとても純粋無垢な性格
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