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針と鼠と夜と私

作者: 秋助

三年前の作品です。

拙い部分は多々ありますが、どうかご容赦下さい。

『友達は質ですか? 量ですか?』

 地域限定の極めて小規模なSNSコミュニティ『ハリネズミ』にそのトピックは立ち上げられた。トピックを設立したのはハンドルネーム「ハリネズミ」さん。このコミュニティの管理人だ。

 コミュニティ登録は二十日町の住人しか申請できないのにも関わらず、閲覧自体は誰でもできる。かくいう私もこの町の住人ではない。コミュニティに登録して得られる恩恵はトピックを立ちあげられることと、コメントを書き込めることくらいである。そもそも、二十日町の住人でなくても申請はできる。情報も規制も緩い、本当に地域限定の極めて小規模なSNSコミュニティなのだ。

「友達は質ですか? 量ですか?」

 立てられたトピックに書いてあることを声に出し、その言葉の意味を咀嚼する。秋の夜長は深く静寂で、開けた窓からは優しく風が入り込む。少しばかり生温い空気は、私の微睡んだ脳内を軽く融かし、画面越しにいる「ハリネズミ」さんと繋がりそうになった。

「ハリネズミ」さんは果たして、どのような心境で、どのような状況で、この書き込みをしたのだろうか? 本当にこの画面の向こうには「ハリネズミ」さんがいるのだろうか?

 その時、画面上に新着コメントの文字が踊った。

『量だと思う。まぁ、人の恋を笑わなければどっちでもいいけど』

 コメントをしたのは、ハンドルネーム「テト」さん。

他のトピックでは名前を見かけないので、おそらく新規に登録したのだろう。コメントだけ見て、自分は呟かないという人が大概のコミュニティなので、一概にそうとは言えないけれど。

「量だと思う。まぁ、人の恋を笑わなければどっちでもいいけど」

 再び、言葉の意味を咀嚼し、飲み込む。飲み込み、長い時間をかけて消化する。本名も顔も知らない「テト」さんを思い、いかなる過程を経て量という結果に至ったのかを想像する。

 私の学生時代は、友人と呼べる存在なんて片手の指を折るだけで事足りた気がする。人を見たり知ろうとしない人見知りなのだ。

 苦い過去を思い出し、私はキッチンへと向かう。牛乳をコップに注ぎ、一分半温める。僅かばかりに張る膜を人差し指で救い上げ、口の中に入れる。美味しいわけではないけれど昔からの癖だった。

ココアパウダーをコップの中に落とし、軽く混ぜ合わせると、白と薄茶のコントラストがくるくると回転し、やがて一つになる。

 溶けて、融けて、解け合う。

『友達は質ですか? 量ですか?』と質問した「ハリネズミ」さんと『量だと思う。まぁ、人の恋を笑わなければどっちでもいいけど』と答えた「テト」さん。そして、未だに結論を出せない私。

 私がこの質問に答えたとして、それが人の役に立つのだろうか。

 考える。けれども答えはまだでなかった。

 私の生きる現在が、誰かの未来に繋がりますように。

 祈る。

 そして、私は鼠色の夜に沈んだ。

最後までお読みいただきありがとうございます

感想やご指摘などがありましたら宜しくお願い致します

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