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ハンバーガー

『聖なる方、真実な方、

 ダビデの鍵を持つ方、

 この方が開けると、誰も閉じることはなく、

 閉じると、誰も開けることがない。』


 ──ヨハネ黙示録 3章7節


 ◇


 弱々しい蛍光灯の元で、上半身裸の男が、アーミーナイフの刃をガスコンロで焼く。

 大小さまざま、傷だらけの肉体だった。

 焼いた刃を彼は違和感のある胸板の上へ持っていく。

 魔法で施術した傷の跡だ。

 アーミーナイフが煙を上げながら胸に沈む。

 男が苦痛に顔を歪ませる。ナイフが異物に当たった。ナイフの先で異物を引っ掛け、取り出す。

 紫色の三角形。謎のチップであった。

 男は息を吐き、ナイフを置く。代わりに焼いた針で、絹糸で縫うと、包帯を巻く。


 ちらつくテレビがノイズを吐き出す。

『映画「大冥界」、ロードショウ公開中! 銀幕の中であの世を体験できる! もう怖くない、あの世!』


 男はランニングシャツを着る。

 生卵と牛乳を冷蔵庫の中から取り出してはコップに割り入れ、牛乳を注いでは呑み干した。


 ◇


 黒い男が書類に目を通していた。先ほどまでそこに座っていた灰色の背広を着た男が渡して来た文書だ。

「羽村」

 グラスを磨いていた、蝶ネクタイのマスターが、黒い男に声をかける。

 男が書類を投げだした。クリップで綴じた表紙には、MJ-12 に関する極秘文章マジェスティック・トゥウェルヴとある。


「悪いことは言わん。今度こそ止めておけ」

 マスターがグラスを磨く手は止まらない。


「一度始めたことだ」

 羽村は言葉を口に含み、革鞄に書類を仕舞う。そして羽村はカウンターに万札を置いて店を出た。


 ◇


 羽村は(キャデラック)を長崎に回した。目指すは米海軍佐世保基地。V8エンジン(ノーススター)が唸りを上げる。怪物の咆哮が轟き、山と海が車外に流れた。


 ◇


 基地の正門の見える、バーガーショップに羽村が出向く。

そのなりに息を呑む店員が注文を聞く前に、レジにて口を開く。

「店長の昨日のおすすめを頼む」

 店員の顔色がまた変わり、急いで厨房の奥へと消えて行った。


 けたたましく電話の鳴る音がカウンター席まで聞こえる。

 やがて、黒のスーツにサングラスを掛けた男たちが店内に入ってきては、一直線に羽村目掛けて進む。

 男が羽村に拳を振り上げると、逆に羽村は拳を振りかぶる。

 腕が交差し、黒スーツの男の眼鏡が吹き飛び、男は鼻から血を流しながら、そのまま後ろに倒れた。

 残る二人の男がスーツ内ポケットに手を入れる。

 羽村は前の男の喉に拳を叩きこみ、男が大きく咽ると、後ろの男の手の上から鳩尾に蹴りを叩きこむ。銃を取り落とす男の手を踏みつけては銃を拾い、前の男の眉間に銃を突きつける。前の男も銃を抜いて、羽村に銃を突き付けていた。しかし羽村の言葉を聞くと銃をしまい、顔面を押さえている男に手を差し伸べて立ち上がらせると去ってゆく。


 羽村は男に銃を返し、こう言ったのである。


 ──大佐に会わせろ。


 ◇


 バーガーショップに黒い人物が二人。


「羽村、無茶したそうね」

 黒いスーツの女が羽村にバーガーを奢りながら、赤いルージュを見せつける。


 羽村はバーガーを女、静華の手から受け取る。一口、口に含むと奥歯に舌を寄せて、

「旨いが、仕事の時間だ」

 と、再び黒いスーツを着てサングラスを掛けた男たちを出迎える。


「ミスタ」

 男は目線で外に出るよう促す。

 静華は血相を変えて、

「羽村、やっぱり無茶よ!」

 と引き留めるも羽村は、静華のルージュを指でなぞっては、

「マスタードが付いているぞ」

 と耳元で囁く。

 そして羽村は、黒服の男たちに身柄を預け、車上の人となったのである。

 軍ナンバーを付けた車は基地にのゲートをなんなくパスし、中へと吸い込まれて行った。


 ◇


 ボディーチェックとX線探査器による検査を済ませた羽村は、広い部屋に通される。

 壁に銃を担いだ軍人がずらりと並ぶ中、大佐の襟章を付けた軍服の黒人が、羽村に葉巻を差し出すも、羽村は辞退した。


「宇宙人はいると思うかね?」

「地球人も宇宙人だ」

 と羽村は返す。


「面白い冗談だ。特別に君を招待しよう」


 大佐は、内線電話で何事か話すと、受話器を置いて、

 羽村に「ついて来たまえ」と言ってはヘリの駐機場に羽村を案内する。


 羽村はアイマスクを強いられ、今度は機上の人となった。


 羽村がひと眠り終え、アイマスクを外されると、そこが海の香りの強く漂う、白浜の小島であることに気づく。


 大佐は言う。

「見せてやろう」


 空飛ぶ円盤(アダムスキー)が降りてくる。

「君についての調べはついている、ずいぶんとタフで、強いそうだな。──力は欲しくないか」

「結構だ」

「そうか。残念だ。しかし、君は良い素材になりそうだ」


 大佐は大きく息を吸い込むと、大佐の両手が長大な蛇に変わった。

 羽村は目を見開くも、それは一瞬のこと。


 羽村はアーミーナイフを引き抜き構え、呼吸を整えつつ、聖句を唱える。


「父と子と聖霊の聖名において──」

 指で十字を切れば、


「──エイメン!」と一振りの長剣、アゾット剣(サイコソード)が現れる。


 大蛇がうねり、羽村を巻き取る。羽村は蛇の鱗に剣を這わせては、一息に焼き切るも、反対の手に持つ蛇鞭に打たれる。

 羽村は大佐の左腕を剣で焼き切っては、大佐の懐に入る。


 ところが大佐は息を吸い、毒霧を吐き出した。

 羽村は染みる目に、視界を奪われながらも、地面を転げて距離を取る。

 羽村の視力が回復すると、大佐の左腕は復活しており、傍らのグレイより、輝く銀色の棒を手にしていた。

 大佐はそれを振りかざすと、


 ──雷よ!


 雷撃が羽村の体を焼く。


 羽村はよろよろと立ち上がっては、羽村は唄う。


「見よ、開かれた門が天にある。

 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、

 全能者たる神、主。

 かつておられ、今おられ、やがて来られる方。

 主よ、我に御使いを遣わし給え」


 羽村が紡ぐ聖句が終わると、大佐の背後で光が膨れ上がる。

 白き汚れなき純白の翼をもったそれは、大佐の姿を包み込み、その手にした剣で、その胸を貫いた。


 羽村は大佐との距離を詰め、動きの鈍った大蛇を右左に避けてはかいくぐると、サイコソードで十字に切り裂く。


 大佐が膝を砂浜に付ければ、周りを取り囲んでいた黒服たちが一斉に拳銃を構える。


 すると浜に近づくクルーザーの上から、女が重機関銃を斉射しては、黒服たちをなぎ倒す。黒服たちは体から放電を繰り返し、やがて動きを止めた。

 羽村は、羽村に近づいてくるグレイに紫色の三角形をした謎のチップを渡すと、グレイは大佐の持っていた銀色の棒を回収して空飛ぶ円盤(アダムスキー)に消え、空飛ぶ円盤(アダムスキー)は上空で旋回し、彼方へと去る。


「マナよ、その深淵なる混沌をもって敵を開け! 弾けよ、ブラスト!』


 女、静華は魔法の呪文をヘリに放つと、エンジンが炸裂し、やがてそれは火の玉と化す。


 羽村は静華のクルーザーに乗り移り、港に向けて動かす。男と女、二人で海を眺めた。



 ◇


 星降る夜に、バー『夜烏』。ムーディーなジャズの流れる店内で、黒い男は黒い女と二人、琥珀色の酒を酌み交わしては、グラスを重ねていた。

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