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シノ

繰り返し見る夢があった。


 なんかロマンチックな夢とかならいいんだけど。


 そうじゃなくて怖い夢。


 どうしてそういう夢を見るのかわからなくて。


 ていうか、そもそも記憶を必死になって手繰ってもきっかけのイメージに辿り着かなくて、そもそもなんで繰り返し見るのかさえわからない。


 それは死体だらけの部屋に辿り着く夢だ。


 その中に知っている人の顔はない。


 もちろん怖過ぎなので夢の中で死んでいる人の顔を確認したりしてないのだけど、知らない人だっていうことは何故かわかっている。


 ひょっとしたら、小さい頃に見たホラー映画かなにかがトラウマ過ぎて、何度も何度もそういうシーンを夢で見てるだけかもしれないのだけど、そうだとしたらいつになったらそのトラウマを克服するんだよ?というぐらいなのだ。


 たぶん最初に見たのは小学生になるかどうかだったような気がするから10年以上ってことになる。わたしって、10年以上もそのホラー映画がトラウマになってるほど繊細な女の子なわけ?


 それは納得できない説明だ。


 自分では標準的な女子高生だと思っている。

 普通に遊びに行くし、普通に学校に行くし、普通に恋愛もする。

 まだ本当に付き合った男子はいないけど。

 つまり、誤解しないで欲しいのだけど、別にその夢を見てるからって精神を病んでいるわけじゃないから。

 なんでもないんだ、ほんと。

 見てるときは怖いし、夜中にそれで目が覚めたときもめちゃ怖いのだけど、せいぜいそのくらいで。

 ただ、たぶんなんだけど、それを何度も見ることが不思議で。

 その理由を知りたくて。


 それで彼女、杉橋詩乃スギハシシノと仲良くしている。


 詩乃は、まあ、言ってみれば電波で。

 友達のことを悪く言うつもりはないんだけど。

こうなんていうのかな、わかりやすく言うとそうなので、あえてそう書いたんだけど。

 でもいい子だよ。ほんとに。


 春に新学期が始まった時、詩乃は教室の後ろで一人でいることが多くて、友達いないのかなと思ったんだけど。

 それでちょっと声を掛けたのがきっかけ?

 その時は全然知らなかったんだよね、詩乃の電波部分については。

 普通に話している時はそういう話しないしね。

 あんまり人と話すのが好きじゃないから友達作るのに熱心じゃないだけ、と。

 見た目も色白で小柄で細くて、髪も真っ黒で伸ばしていた。

 髪型の校則は緩かったから纏めてたりはしてなかったけど、きれいな黒髪だった。

 微妙に長さは揃ってなくて、後で聞いたら自分で切っていると言っていた。

 全体的に派手さが無くて目立たない感じではあったんだよね。


 その後も、なんとなくちょっとしゃべるくらいな感じだったんだけど、時々、放課とか授業が全部終わった後とか、詩乃のところに別のクラスの子とかが来たりしていた。

 へえ、同じクラスには仲良くしている子はいないのに、別のクラスには居るんだって思ってた。

 迎えに来たっぽい感じで教室を出て行くこともあったし、高校1年の時の友達かなって思ったりしたんだけど、それがいつも同じ人っていうわけじゃなくて、それにあんまり仲良さそうな雰囲気もなくて。

 なんなんだろと思っていた。


 それで聞いちゃったんだけど。


 その時は昼休みで、お弁当とか食べた後のガヤガヤした感じの時間。

 背の低いかわいい系の女子が教室のドアのところから声を掛けてきた。

「詩乃さんっていう人、いますか?」

 ああ、その後ろの席のやつがそうだよ、って男子が指差していて、詩乃と少し話して出て行った。

 1年の子っぽいな、と思って。

 ていうか、詩乃の顔も知らない1年が何の用なの、みたいな?

 それで詩乃に聞いてみたんだよね。

「ねえ、なんか時々知らない子が尋ねてくるっぽいんだけど、部活か何かやってるの?」

そしたら、詩乃はうつむいたまま、ちょっと自嘲気味に言った。

「うん、占いっていうか、そういうやつ」

 昼休みだった。

 梅雨前線が校舎を取り巻いていて、灰色の雲が厚く垂れ込めていた。

「そんな占いとかの部活って、この学校にあったんだ」

 詩乃は俯いたまま首を小さく振った。

「じゃあ、サークルみたいな?」

 うちの学校は割と自由な校風で、部活の参加も自由だったし、新しく同好会を作るのもけっこう簡単で、3人集めればとりあえず承認されるっていう感じ。

 けどあまりに乱立してたから、それで部活動費が出るとかじゃなかったけど。

「サークルっていうわけでもないんだけど・・・」

じゃあなんなの?と思った。なので、そう言った。

「なんだろ?勝手に集まってきてる、みたいな?」

「何が?」


 その時、わたしは確かに「何が?」と聞いた。


 後で考えてみれば、どう考えても「誰が?」と尋ねるべきだったと思う。


 でも、何故かその時は「何が?」と聞いたんだ。


 深い意味で言ったわけじゃなかった。

「わからない。ただ何かいやな予感がするんだよ」

 そういう答えが返ってきた。

 後で考えてみると、それが詩乃と一緒に不思議で恐ろしい体験をすることになる最初の出来事だったと思う。

 けどその時は意味がわからなくて。ただ不気味だった。

 感覚的には10分くらい固まっていたような気がするけど、たぶん10秒くらいかもしれない。

 気を取り直してわたしは最初の疑問を口にした。

「それで、さっきの子は何の用だったの?」

「悩み相談みたいな?」

「悩み?」

 詩乃は、そこで初めて顔を上げてわたしの顔を見た。

「沙織。後にしよう。授業終わったら一緒に帰らない?話したいことがあるの」

 その時、午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、わたしは不安を引きずりながら窓際の自分の席へと戻った。


 窓から見えるグラウンドには雨が降り始めていた。

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