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私が本当に欲しいもの

作者: 朱井彩月

 五年も付き合うと、お互いに贈りあうプレゼントでさえマンネリ化してくる。

 最初の頃はペアリングやペアウォッチなど意味を考えて、その次はアクセサリーや毎日身に付ける物、ここ一年はクリスマスもバレンタインも鞄や財布等の実用品ばかり。

 だが、もう大抵の物はお互いあげつくしたのだ。


「今年の誕生日プレゼントは何買ってもらおうかなぁ…」

 

 彼の部屋で彼のベッドで、雑誌を捲りながら呟く。部屋の主である彼よりも寛いでいるが、特に文句も言われないから良いだろう。

 財布は去年のクリスマスに貰ったやつがあるし。

 鞄はバレンタインに貰ったばかりだし、新しいパソコンも欲しいけどさすがにそれはなぁ。


「あのさ、今年のお前の誕生日はもうあげるもの決めてるんだけど」

「ええ?何買ってくれるつもり?」


 私は雑誌に目を向けたまま気のない返事をするーー彼が自力で考えたプレゼントには期待しない。

 お互いマンネリになり始めた頃、何も言わずにいたらその年の誕生日プレゼントは炊飯器だった。…いや、確かに良い炊飯器だったけど、もう少しだけロマンチックな物をと思ってもバチは当たるまい。更に言うなら別に炊飯器が欲しかったわけでもない。

 それからは必ずリクエストするようにしている。

 男は言わなければ女の欲しい物なんてわからない生き物なのだーーだから、彼が思い付いたプレゼントには期待しない。


「また炊飯器とかは嫌だよ?今年は靴とかが…」

「俺の名字、貰ってくんねぇ?」


 時が、いや、思考が止まった気がした。

 

 私たちはもう五年も付き合っていて、完全なマンネリで、お互い特に別れるほどの理由もないから別れないだけで、付き合い始めの情熱とか熱量とか、そんなものもとうに失ったと、お互いにあるのは愛より情でーーだから、彼にわかるはずがないと思っていた、私が本当に欲しいものを。

 雑誌の文字がぼやける…こんな時に目が霞む。


「何泣いてんだよ…そんなに嫌か?」


 彼の手が、優しく私の頬を拭う。違うの、嫌なんかじゃないの。

 あまりに嬉しくて幸せで声が出ないから、代わりの物が溢れるの。落ち着いたらちゃんと言うから。

「私ずっと前からそれが欲しかったんだ」って。



ちなみに彼が炊飯器をプレゼントしたのも、「これで毎日一緒にご飯を食べよう!」的なプロポーズのつもりだったけど、全く伝わっていなかったという裏設定あり。

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