嫌いだと言う学生
ミコトはイライラしながら刻印を解錠させた。
変わり果てたその人にも苛付きが収まらない。
「久しぶりだな。」
「…」
「フェイズ2なりかけってとこかぁ?
まぁ何にせよ俺は今虫の居所が悪ィんだ、兄貴には悪いが…」
「ミコト?」
聞き慣れた、嫌な声だった。
竜夜イザナ、ミコトの実の兄。
…大嫌いだった。
「イザナ…」
「何してるの?」
「来るんじゃねぇよクソ兄貴!!」
酷く荒れ切った弟の声に圧倒されてそそくさと路地裏を後にしようとする。
自殺し男子生徒の事は見えていなかったのだろう、何にせよ今は目の前の敵に集中しなければならない。
ゾンビの様に焦点の合わない、虚ろな目をしていた。
「ああぁッ!!クソッ!!!」
ミコトは力いっぱい剣を振り下ろした。
コンクリートに打ち付けられた剣が鈍く不快な音を立てる。
虚無はもう動かなかった。
「胸糞悪ィ…」
報告書なんて書いてやるか、と路地裏から出るとイザナが立っていた。
一発ぶん殴ってやろうかとも考えたが無視することにした。
「ミコト!ちょっと、待ってよ。」
「誰がおめぇなんか待つか、とっとと帰ってやれよ。」
「なぁ、頼むよ。ミコト、1晩だけさ、泊めてくれない?」
意を決した声だった。
相当な勇気を振り絞ったのだろう。
話すのだって久々だし、昔から話しかけられても荒んだ言葉しか返してこなかったから、
少し、怯えているような声でもあった。
まぁ少なくとも実の弟に向ける声では無かった。
「あ?」
「実は…その、家出してきたんだ。」
驚いた。
あんなに親から好かれているのだ、実際ミコトから見て、イザナは親に懐いていたように見えた。
プレッシャーと重い期待に耐えきれなかった、という事か、と。
ミコトはイザナを蹴った。
「いった!」
「おいクソ兄貴、散らかしたり面倒な真似したら即刻追い出すからな。」
「…ありがとう!」
何だかんだ、兄を好いている自分がいる。
こいつを嫌いになる奴はそうそう居ないだろう。
容姿端麗、才色兼備、博識多識、眉目秀麗。
ハイスペックという言葉が似合うより勝る天才的な兄だ。
欠点といえば優しすぎる所とか謙虚過ぎる所だろうか。
嫉妬、ただの嫉妬だ。
こんな風になりたいという『憧れ』ではない、『嫉妬』だ。
「ここ?」
「…」
無駄なことは喋りたくなかった。
うるさそうだし、というのも追加で。
「綺麗、整頓されてていいね。」
「飯作るからウロチョロしてんなよ。」
深い溜息をついてキッチンへと向かった。
イザナ君ちょっとヘタレ感あって好き。




