歪む学生
今回少し流血とか…ちょっとしたグロ表現あるので注意。
前髪をかき上げたミコトは廃ビルの上でスーツ姿の男と対峙していた。
伸びてきた後ろ髪が風に靡く。
「お前、アレだろ?竜夜ミコト。」
「…何で俺の名前を…。」
「俺元教師だ、見覚えないか?」
そう言われれば、醜悪な脂ぎった顔とふくよかな身体は記憶の中にぽつりとあった。
しかし思い出したくもない。
彼とは馬が合わなかったし、何より裏で生徒に暴力を振っていたのだから。
あまりというか、好かない。
「フェイズ2に成り果てて、何の用です?」
「勿論教育だよ。お前だけが心残りで俺はこんなに人を食らった。」
「…俺が、なんすか。」
醜悪なフェイズ2はにやりと笑う。
そして街の灯から遠ざかった、暗闇の街へと消える。
あそこは違法滞在者等がのさばる地域で九龍城砦のようになっているので警察も手に負えないと言っていた所だ。
…行ったら、帰れなくなるかもしれない。
そんな恐怖を微塵も感じさせることなくミコトはその街に落ちた。
「ッはは!やっぱり来るよな!!お前はそういう奴だ!」
だから先生はお前のことが大好きだよ、と笑う。
吐き気がした。
違法滞在者とアジア系の浮浪者がミコトの元へと縋りつくように歩みを進める。
(やりずれぇッ…。)
ミコトの足元に魔法陣が浮かぶ。
青く、強い閃光と共にミコトが呟く。
「刻印、〈解錠〉。」
巨大な剣を薙ぐとミコトの周りにいた者達が恐怖で路地に逃げ込む。
ミコトがフェイズ2に斬ってかかると、待ってましたと言わんばかりの攻撃がミコトの頭と腹に直撃した。
廃ビルの上に着地したミコトは胃液を吐き出す。
目の前がクラクラする。
「何だ、もう終わりか?」
「ンな訳…、」
「でも満身創痍じゃないか、血も出てるし。」
通りでクラクラする訳だ、と。
額に手を添えてみれば鉄の臭いと鮮やかな血の色がミコトの顔を歪めさせる。
フラフラと剣を持ち直してミコトは何かを呟いた。
「?…竜夜?」
「アンタが俺を指導する為にフェイズ2になったなら、本当に馬鹿だな。
俺は確かに協調性も無いし、授業はサボるし、アンタ等教師にとっちゃ、迷惑極まりない、クズ生徒の見本だろ。でもなぁ…」
ミコトの感情が『怠惰』から『歪』に変わる。
「アンタに何を言われようが、俺は変われる気はしねぇッ!!」
「ミコトは、感情のコントロールが出来るんだ。」
リュウはパソコンを打ちながら言った。
カズヤリュウが何を言っているのか分かっていない。
「感情をコントロール…って、どういう事っすか?」
「簡単に言うと『嬉しい』だとか『怒る』だとか、あいつは『楽しい』という感情以外だったらスイッチを切り替えられる。そのスイッチのON/OFFで力加減も変えることが出来る訳だ。」
「へぇ、便利っすね。ミコト君すげーな。」
「ただ、あいつの場合…」
カズヤの頭にハテナマークが浮かぶ。
リトも少し興味があるのかチラチラとリュウを見ていた。
「『歪』と『恨み』の感情を1度ONにすると、目標完全沈黙まで豹変するんだ。
つまり歯止めが効かない、それが厄介なんだ。
あの感情を表に出すと相手に付けた傷の分だけ自分に反動やダメージが返ってくるんだ。」
廃ビルと廃ビルの間、少し広めの路地裏。
血塗れの青年が目標を見ることもせず帰路についた。
その笑みを、見たものは居ない。




