銀髪の男
アメリカに着いて五日がたった。
アメリカでの生活は、分からないことが多く、上手くやっていけるか不安だったが、今はそんな不安はなく、大分慣れてきた。
しかし、僕の中には今、別の不安がある。それは、手紙が信じられるものであったかどうかだ。
陸に関する情報はまだ一つも手に入っておらず、僕は騙されたのではないかと、だんだん不安が募っていく。
けど、僕はその不安を心の奥底に押しのけて、必ず陸を見つけ出す、と胸に誓って、今日も聞き込みを始める。
何人に聞いただろうか、日も大分暮れてきた。アメリカの夜は、何かと物騒だ。僕は、聞き込みは日が落ちるまでと決めていた。
今日も情報はなし。僕はその場に座り込み、赤く染まった空を見つめる。
あの警察官は今、僕と同じようにアメリカにいて、陸のことを探しているんだろうか。ふと、そんなことを思った。けど、警察官のことを考えるのはすぐにやめた。
ホテルに戻ろうとして、体を動かし始めたそのとき、目の前を一人の男が通り過ぎた。銀色の髪の毛の、眼鏡をかけた男だった。
そうだ、最後にこの人に聞いてみよう。
そう思い、陸の写真をポケットから取り出し、声をかけてみる。
「すみません」
「ん?何だ?」
「この男の子を見たことありませんか?」
そう言って写真を見せる。
「………」
僕は見逃さなかった。男は写真を見た瞬間、表情が少し変わった。この男は何か知っている。そう直感した。
「あの、何か知っていたら…」
ゴッ。
鈍い音がした。何かに押されたように体が後ろに飛ばされる。時間がとても遅く感じた。最初は、何が起きたか分からなかった。だんだんと顔が痛み出す。僕はようやく理解する。
殴られた。何故かは分からない。
すると、男はこう言った。
「お前も、こいつを狙うクチか?」
男の言っていることが理解できなかった。狙う?陸を?僕が?
僕は、痛みをこらえながらなんとか声を出す。
「何の、ことですか?」
「あ?……お前、何も知らないのか?」
男は、僕の目をジッと観て、そう聞いてきた。
「この写真に写っているのは、僕の弟なんです…。僕は、弟を探してるだけなんです…」
男は何も言わない。ただ僕の目をジッと観る。すると男は、突然たばこを吸い始めた。
「そうか……。いきなり殴って悪かったな」
男はそう言って、僕に背中を向ける。
「あの、何か知ってるなら…」
「おい」
男は、振り向いてこう言い放った。
「もうこれ以上、そいつのことを聞いてまわるな。俺から言ってやれるのはそれだけだ」
男は歩き出した。僕はもう何も言えなかった。