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契約戦争  作者: 布崎 健人
2/5

手紙

チーン…


「行ってきます」


両親に一時の別れの挨拶をする。


僕の両親は、僕が中学一年生の頃に交通事故で亡くなった。車の衝突事故だったという。


その車には、幸いなことに僕は乗っておらず、両親と、当時小学三年生だった弟の三人が乗っていた。


しかし、事故後の車の中からは両親の遺体が発見されただけで、弟の遺体は出てこなかった。


当時の警察は、弟を行方不明者とし、毎日のように捜索を続けた。しかし、弟はおろか、目撃者すら現れず、警察はある日突然、捜索を止めた。


警察は諦めたのだ。


僕はそれが許せなかった。なんとか僕だけでも弟を見つけ出そうと思い、必死で探した。弟の写真を持ち、出会う人全員に、弟を見ていないか聞いた。しかし、弟を見た人は一人もいなかった。


僕は諦めなかった。


それから三年後、僕が高校一年生になった頃のことだ。


僕のもとに、一通の手紙が届いたのだ。


差出人は不明。住所も載っておらず、直接家まで持ってきたものと思われる。


その手紙には、こう書かれていた。



“私は、三年前の君の両親が亡くなった事故のことを調べていた者だ。名前は、申し訳ないがここでは伏せさせてもらう。


今回、手紙を送らせてもらったのは、君の弟、本田陸くんのことについてだ。


当時の僕ら警察は、君の弟を見つけ出すことができなかった。そのことに関しては、本当にすまなかったと思っている。


だが、僕は警察の意向に納得がいかず、今日まで一人で捜索を続けてきた。


そしてついに僕は、ある確かな情報を手に入れることができた。


陸くんは今、アメリカにいる。


信じられないかもしれないが、これが、僕が手に入れることのできた唯一の情報だ。


君は今でも、陸くんを探していると聞く。もし、このことを信じてくれたのなら、君もアメリカに向かってほしい。


チケットは用意する。お金も、あっちで困らない程度なら渡せる。後日、また別の封筒で渡す。


僕もすぐには行けないが、なるべくはやく行こうと思う。会うことはないかもしれないが、一緒に陸くんを見つけ出そう。”



これが手紙の内容だった。


最初にこれを読んだとき、もちろん怪しいと思った。うさん臭すぎる。


しかし、このときの僕にとって、この情報は、初めて手に入れることができた情報だった。これを信じないわけにはいかなかった。


すぐにでも行きたかったが、高校生の僕に、海外へ行くほどのお金なんてなかった。


事故後、僕を育ててくれた祖父母にも言い出すことができず、ただひたすら警察官から送られてくるであろう封筒を待った。


その間、僕は必死で英語の勉強をした。なんとか普通に会話できる程度にはなった。


そしてつい一週間前。やっと封筒が届いた。封筒の中には、チケットと、ドル札が大量に入っていた。


入っていたのはそれだけではなかった。一枚の紙切れが出てきたのだ。そこにはこう書かれていた。



「遅れてすまない。陸くんは、まだアメリカにいる」



カバンを持って玄関に向かう。


「おや、どこかに行くのかい?」


「おはよう、おばあちゃん。これから当分、家には帰ってこないと思う」


「友達の家かい?」


「うん」


「そうかい、いってらっしゃい」


「行ってきます」


僕は、笑顔でそう言った。

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