プロローグ
今、俺は歩いている
昔、歩けなかった道を
今、俺は探している
昔、失ったものを
今、俺は求めている
昔、手にすることができなかったものを
決してそれがもう、この世にないものだとしても
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「おー、久しぶりだな」
後ろから、ふとそんな声が聞こえた。
振り返ってみると、そこには日焼けをした、いかにもスポーツ系の男子がいた。
「久しぶり、洋太君」
彼は、去年同じクラスだった河西洋太。クラスに馴染めていなかった僕に、初めて声をかけてくれた、一番の友達だ。けれど、ニ年生になって、違うクラスになってしまった。
「お前、この前のテスト、また一位だったんだって?マジですげーわ」
「そんなことないよ、たまたまだよ」
「頭が良くて、性格のいいお前に、未だに彼女がいないのが俺には理解できん」
「ありがとう」
「おう。‥っと、そうだそうだ。勉強の話なんだけどさ。明日から夏休みじゃん?だから俺のちょー苦手な英語を教えてもらえないかな、と思って」
一年生のときは、よく洋太君に勉強を教えていた。
彼は、決して頭が悪いわけではないが、部活が忙しく、勉強する時間がないため、いつも平均点より少し下の点数を取っていた。
「ついに、この前のテストで英語が赤点ギリギリまで落ちちまってよ。ほらお前、英語ペラペラじゃん?だから頼むよ」
洋太君には感謝しているし、教えてあげたいのは山々だけど、今回は断らなければならない。
「ごめん。今年の夏休みは予定が入ってるんだ」
「ん?予定って…毎日?」
「うん。この夏休みを使ってアメリカに行くんだ」
「マジか。ホームステイか何かか?」
「いや、ちょっと行かなきゃいけないところがあってね」
「ふーん…。まあ、そういうことならしょうがないな。楽しんでこいよ、アメリカ」
「うん」
そして、僕は明日から今まで知りもしなかった世界へと足を踏み込んでいくことになる。