心霊スポットに行ってみよう その一
その後俺は、以前のまま保管されていた自室に入ると両親を待った。
お袋も親父もじきに帰って来たけれど、見ていると真っ先に仏壇の前へ行くと線香を供えて合掌。そして今日は何の日だとか何があったかとか報告をする。俺、真後ろに居るんだけど…。
あれから妹は部屋で宿題を始めたみたいだったが、お袋が帰ると出て来て夕食の支度を手伝い始めた。豚肉に玉ねぎとピーマン?今日は生姜焼きだな。
そして完成。仏壇にも生姜焼きを小分けにして供えてくれたのだけれど、やっぱり俺はその後ろに立ってじっと見ていたりする。
「仏壇って何だろう…?」
いや確かに妙な気分ではあるけれど、悪い気がする訳でも無い。むしろ申し訳が無い気持ちもする。
俺は少々いたたまれなくなってアパートに戻る事にした。
線香の煙がやけに目に染みるぜ…。
歩きながら周囲を観察していると、案外自分みたいにこちらに来ている人を見かける。
やっぱり残した家族や仲間の事が気になって見に来てるんだなぁと思っていたら、犬の霊が楽しそうに走り回っていた。
おそらく俺も同じなのだろうけど、彼等はぱっと見には生きている姿と変わらない。
でもよく見ると何というか物質としての重さが感じられない感じがする。例えるなら立体映像っぽい“何か”だ。
しかも案外大勢居る。もしかして皆、あちらが暇で遊びに来ているんだろうか?
アパートの部屋に入るとすぐ霊の世界に変わった。
違和感というか、こちらの世界は何処かぼんやりとしていて酷く刺激に乏しい感じがする。
結局のところ俺が死んだ理由は判らなかったが、一年近く前に何かがあったのは確実だ。
でも家族や仲間が俺の事を覚えていてくれたのは本当に嬉しかったな。
黒い霧や影、それに体が重くなった事はやっぱり管理人さんか太田さんに話してみるとして、あと何か忘れている様な?
…あっ仏壇に供えてくれた生姜焼き食べるの忘れてたんだ!ってか死んでも食べたり出来るのかな俺?
部屋の外に出るとちょうど管理人さんが歩いて来たので、あの黒い霧について話してみた。
「そりゃ人間の“悪意”だな。気付かない内にその陰口叩いていた連中から出たのを吸い込んだんだろう。」
「悪意…ですか?」
「そう、それ。」
「じゃあ体が重くなったのは?」
「うーん、そうだな。悪意っていうのは所謂“負の力”という奴で、それにあてられて体の自由が効かなくなったんだろう。とにかく飲み込まれなくて良かった。でないと…。」
俺達の話し声を聞きつけたのか、太田さんが現れた。
「やぁ向こうへ行ってきたのかい?おかえり。ところでさ、何か良いアイデア浮かんだ?」
「えっ何の話でしたっけ?」
「ホっほら、肝試しの若者達が家をアらすのを止めさせたィんだヨ。」
所々で声を裏返らせながら喋る太田さん。そういえば意見聞きたいとか言われてたっけ?
やばい。すっかり忘れてたけど、どうしよう?ここは適当に誤魔化すしかない。
「あの、怖過ぎて来なくなる様に誰か来た人を呪ってみるとかどうですかね?」
「えっ?君、人を呪うとか出来るの?」
「多分…出来無いっす。でも心霊写真とかでよく聞きますよね?」
「それはね、生きてる人が勝手に怖がって“呪いだー”って言ってるだけなんだよ。それに心霊写真って…。あと暴力的なのはダメでしょ。」
心霊写真というのはほとんどが嘘か見間違いで、たまに覗き趣味的な霊が撮れてしまう事があるんだと管理人さん。
な、ナンダッテー?言われてみれば心霊写真って大抵、何処か隅っこの方に隠れる様にして顔が写っていたりするよな。あれって覗きだったのかよ…。
ここでふと、この街にも心霊スポットがある事を思い出した。それは支援物資を配っている時に教えて貰った場所だ。
「あっ!そういえば山の方にかなりヤバい心霊スポットがありましたよ!確か口封じの谷とか言う。怖過ぎてもう誰も近寄らなくなった位なんで、あそこに行けば何か参考になるかも?」
管理人さんは一瞬難しい顔をしてから。
「口封じの谷?…ああ、あそこの事か。そうだな、話を聞いてみても良いかも知れんね。」
へっ?“話”って何?報告しろって事か。でも管理人さんのお墨付きを貰った事だし行ってみよう。
背後で太田さんがオロオロしているみたいだけど…まっ良いや。