公園にて
折角だからと当初の構想に色々追加して書き込んでみたものの、中途半端にホラーともコメディともつかない作品になってしまった。
表現が野暮ったくならない様に気を付けてもなかなか難しい…。
楽しくもあり怖くもある、それが文章。文字とはこんなにも恐ろしい物だったのか。
いや、書いている本人が怖がっててどうするのさ?
そんなブレッブレな作者が面白がりながらも必死で書いています。
多少なりともお付き合い頂ければ幸いです。
ついさっきまでの事がまるで嘘みたいに体が重い。
よく手足に鉛を入れられたという表現があるが、むしろ全身が鉛になってしまった様な感覚。もしくは何かとてつもなく重くドロドロした液体を頭の上から絶え間無くかけられ続けている感じだ。
それにアパートからここまで走っても何とも無かったのに、今はバクバクと動悸が激しい。
そりゃあんな話聞いてショックではあるけどもさ、こんな調子まで悪くなる程の事なのか?
ただこれ以上ここでこの不愉快な話を聞くのはゴメンだ。それにもしショックでこうなったのなら、このままここに居続けるのは得策では無い。
一刻も早くこの場から去ろうと、俺は必死に足を引き摺り歩く。
そしてほうほうの体で公園まで辿り着くとベンチに縋り付く様にして倒れ込んだ。
「俺って何だったんだろ…。」
頭上から降りしきる日光。微かに草の匂いを含んだそよ風がサァッと頬を撫でてゆく。
しばらくすると動悸も収まり体も軽くなってきたのでベンチに座り直し、公園の様子を見渡した。
ああ、ここは幼い頃よく爺さんに連れられて来た場所だったっけ。あの頃は両親が共働きで忙しくて、しばらくは祖父が世話をしてくれていたんだよな。
それからこの公園は悪ガキ達の集う場所になり、いつしか仲間内で“集会所”と呼ばれる様になった。
狭い家より広い場所だとか言って、皆で携帯ゲーム機を持ち寄り遊んだのがここ。
俺は鍵を取り出してマスコットを見つめた。これはそのゲームに登場する猫のキャラクターで、兄妹に一つずつ色違いを買って貰った物だ。
そういや、あの頃の妹は俺の後ばかり追いかけて来たっけなぁ。
いつも「にぃ、にぃ※兄ぃ」言うから目の前でこれをブラブラさせて、お前は猫かよって笑ったら顔真っ赤にして本気で怒らせちゃって。
あーでも俺がこの付いている鈴を無くした時、自分のを取ってくれたんだよな。
「うるさいからいらない、あげる。」とか言ってたっけ。よくケンカもしたけど根は優しい妹だったんだ。
うん。“だった”…なのかな。
「はぁ…これから、どうしよう?もう一度家に向かうべきか?それとも…。」
もしかしたら俺の記憶が無い間に何かをやらかして、家族から疎まれているんじゃないのか?そう考えると余計に家には戻り辛い。
そうだ!会社はどうなった?きっと皆にも迷惑かけたんじゃないのかな。
それに俺がどうしたのか?もし何かしたのなら、その手掛かりが掴めるかも知れない。
まぁ正直に言えば、家に戻るより遥かに行き易そうだし他に行きたい場所も無いからなのだが。
ようやく歩けそうになったのでストレッチの要領で体のあちこちを伸ばしながら立ち上がった。
「…くうぅぅぅ。」大きく伸ばした腕が、うっすらと黒く見える。
なんだこりゃ?と腕をぶんぶん振ってみると、体に纏わりついていた黒い霧の様な物が文字通り霧散していった。
二の腕の毛穴から噴き出していた様にも見えたが…いや腕どころでは無い。よく見るとこの霧は俺の体全体を包み込んでいる。そしてじわじわ体を侵食している感触がして、不愉快でたまらない。
「うわっ気持ち悪っ。」
その場を飛び退き頭を、体を、腕を、足を…全身をよじらせながら叩いていると、やがて黒い霧が見えなくなった。一瞬この霧は俺の体から出ていた様にも見えたが気のせいだろうか?とりあえず今はもう大丈夫らしい。
そして今まで立っていた場所をよく見ると人間の、つまり俺の体の形をした黒い霧がぼんやりと浮かんでいた。
これ何かやばいんじゃないのか?それにあの異常な体の重さもこれが原因だったとしたら?
そう思えば思う程、この霧の事が気持ち悪くて仕方が無い。それに公園内至る所にある遊具の影の中で一斉に沢山の何かが動いた気がして、もう気が気では無い。
俺は逃げる様に公園を立ち去った。