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3/12

部屋の中は…

俺が死んでいる?そんな出鱈目を。人をからかうのにも程がある。


「何馬鹿な言ってるんですか!ここにこうして生きているでしょう?大体、幽霊ってのはもっと…こう、おどろおどろしい物ですよ?それに…」


俺の言葉を遮る様に管理人さんが言った。

「まぁ落ち着いとくれ。別に冗談なんかじゃないんだよ。」


管理人さんの表情は至って真面目に見える。横でこのやり取りを聞いている太田さんにしてもおかしな素振りは見せていない。

どういう事だ?これではまるで変なのは俺の方じゃないか。


黙り込む三人。暫しの静寂…では無かった。

会話していて気が付かなかったが、部屋の中からは依然としてゴツゴツと物音がしている。

まて、あれは太田さんが暴れて出していた音じゃ無かったのか?


一際大きくバリバリと何か裂ける様な音がすると、それを背中越しに聞いていた太田さんは全身をビクッと硬直させ今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。


「太田さん、もし良かったらなんだが、この子に家の様子を見せてやってはくれんか?そうすれば理解するだろうし。」

「…そうですね、本当は嫌なんですが…それに何か解決策と言いますか、意見を聞いてみたい気もしますし。」


「良いかな?」と太田さんの右手が俺の前に差し出された。握手?では無いか。男同士で手を繋ぐ趣味も無いのだが。

それにここからでも十分、部屋の中は見えている。明るくて整頓された小奇麗な室内だ。これ以上何があるのだろう?騒音の原因?

考えても仕方が無い。太田さんの手を掴むとそのままぐいっと引っ張られ、招き入れられる様に部屋の中へと入って行った。


一歩、二歩…体が完全に部屋の中に入るその刹那、今まで見えていた景色が一変した。


そこはまるで何年も放置され荒れ果てた廃屋。

しかし間取りや家具は、つい今しがたまで見ていたアパートの部屋とそっくり同じ。そして気が付かなかったのだが廊下や階段まである。

そう、ここはアパートの一室等では無く戸建ての廃屋なのだ。

照明は消えて薄暗く、月明かりに照らされた場所には埃が層になって溜まっている。

その明かりの差し込む窓を見れば、ガラスは無残に割られ重厚そうな枠もグニャリと曲がって見る影もない。

そして床に散らばったガラスの欠片が鈍く光を反射している。

壁紙や天井は引き剥がされ、家財道具はへこんだり倒れていてすっかり滅茶苦茶だ。


そして…。そして、部屋の中を懐中電灯で照らしながら土足でうろついている数人の若者達。


時折ゲラゲラと笑いながら家具に蹴りを入れ、スプレー缶で落書きをし、キャーキャーと悲鳴をあげたかと思えば部屋の物を手当り次第に壊していく。

その度に太田さんは「止めてくれ」と涙目で訴えるのだが、若者達の耳には全く届いていない様だ。


「これって…。」


部屋の外に出て手を離すと、部屋の中は最初に見た通りの小奇麗な様子に戻った。いや、もしかしたら見た目だけで戻ってなどいないのかも知れない。その証拠に音はまだ続いている。


「太田さん、嫌な事させちまってすまなかったねぇ。さて君、見て来たと思うがありゃ肝試しに来た連中なんだよ。」


俺は言葉を失った。

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