表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

心霊スポットに行ってみよう その二

口封じの谷というのは三倉据山(みくらすやま)という場所にある渓谷の事なのだが、ここを訪れる人は皆そう呼んでいた。

なんでも噂によれば戦場から逃れて来た落ち武者を村で匿うふりをして惨殺したとか、お城の秘密を守る為に関係者を宴と騙して連れて来て、遊女もろとも始末した場所だとか、それで口封じの谷と言うんだそうだ。

そしてそれ以来夜な夜な幽霊が出るというのだが、まぁよくある怪談話の類なのかも知れない。


しかし、だ。それでもこの心霊スポットはあの太田さんの家とは明らかに格が違う。

なにせ肝試しに来て精神が変になった人もいると言うのだから。

そんな場所って、霊から見たらどんな感じなんだろう?これは純粋に興味がある。

でも怖い人(霊)とか居なければ良いんだけど…。


念の為に目立たない地味目で黒っぽい服装に着替えると俺は懐中電灯を片手に店へと向かった。

口封じの谷までは、流石に歩いて行ける距離では無い。しかし自分のスクーターは行方不明だし、いくら疲れないからといえ自転車は勘弁。

だったらいつも乗っていた配達用スクーターをちょっとだけ拝借してしまおうという魂胆だ。


店はもう戸締まりをした後で誰も居なく静かだった。鍵を開けて中に入ると、掃除してそんなに間がないのか厨房から水の臭いがする。

とりあえず俺は鍵置き場からスクーターの鍵を手にして店舗裏にある駐輪場へ向かった。


キュルルルルル…ブォンッタタタタタタ…。


「よし!思った通りだ。」

停めてあるスクーターはそのままに、俺の乗った霊体のスクーターのみが分離した。

でもこれ、ちゃんと走るんだろうか?それにガソリンって減るのかな?もし勝手に使ったのがバレたら…いや、それは大丈夫か。


スクーターに乗ったまま足をバタバタさせて後ろ向きに道路へ出ると、一路口封じの谷へと向った。


夜の国道には大型トラックが多い。

その中に紛れて幽霊スクーターが走っているなんて、誰一人気付かないだろう。

いや、気付かれないが故にこちらも注意しなくては。この大きなトラックに跳ね飛ばされでもしたら、いくら幽霊でもただでは済まなさそうだし。


側道に入ると車の数も一台また一台と減っていき、やがて他に何も居なくなってしまった。これで気を張り続けなくても良くなったけれど、少し寂しくもある。

でも、ここまで来ればもうすぐだ。


周囲を木々に囲まれて道はいよいよ曲がりくねり、勾配も強くなって来る。

そして目的地へと繋がる小道にたどり着いた。先は真っ暗で何も見えないが、ここを入って少し行くと目印の小さな石碑がある筈だ。

俺は道の脇にスクーターを停めた。ちゃんと鍵も外して。


「さて、ここからか…。」


懐中電灯で足元を照らしながら両脇に生い茂る草を掻き分けつつ小道を進むのだが、夜の山は霊からしてもちょっぴり怖い。


やがて少し開けた場所に出ると、リーリーという虫の音が辺りに響き始めた。いや、それに混ざって何かが道の先の方から聞こえている。

俺はそっと姿勢を低くして辺りの様子を窺った。

ざわついた空気が肌からピリピリと染みてくる。

少しずつ近寄りながら聞き耳を立てると、どうやらゴニョゴニョと何か言っている声らしい?まさか…これ、お経か。

続けて何かをポンポン叩く様な音も始まった。えっ何だこれ?木魚か?いや太鼓?一体この先に何があるんだ?


………ザッザッザッザッ。


「っヒィ!?」


突然背後で物音がして、思わず変な声をあげてしまった。

ヤバい!誰かが来る。


俺は咄嗟に草むらへ飛び込むと明かりを消して、うずくまり息を潜めた。

妙に慣れた足取りに思える。なら、これは幽霊か?こんな場所にいる奴だ、きっと恐ろしいに違い無い。なら少し隠れて様子を見よう。


幽霊は、すぐ横をザクザク歩いて通り過ぎて行く。

よし!上手くやり過ごせた様だな。

頃合いを見てそっと頭を上げるとその誰かを確認した。

暗闇の中にぼんやり白い影が見える。体格からして男性か。そして手には何か細長い物が…。


これは白装束に弓を持った男性の霊だ。


もしやあれが例の落ち武者なのか?少しイメージと違うのだが、古風な雰囲気からしてそうなのだろう。

俺は音が立たない様に気を付けながら、その後をゆっくりと追い掛けた。軽くスネーク気分だ。

と言っても道は、戻るか石碑に向かうかしか無いのだけれど。


次第に大きくなるお経や太鼓の音。それに加え川の水音やカエルのわしゃわしゃという鳴き声がし出した。

つまり目的地までもうすぐという事だ。


すると前方から男性の何か叫ぶ声がし、その主らしい誰かがこちらに向かって走って来る。


まさか、見つかったのか?

俺は覚悟を決めると拳にグッと力を込め身構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ