表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インモータルズ  作者: kojima
2/3

2.能ある鷹



ひとゲームを終えたオフェンダー達は控え室へ戻るとソファに凭れ掛かった。


誰も口を開かない部屋を不気味なほど無音だった。


あのジェフリーですら目を閉ざし休息に勤しむ中、豹牙は気になることがあった。


「何故俺を助けてくれた?」


頭に包帯を巻かれたエドワードに訪ねるも彼は目を閉ざしたまま口を開かなかった。


そんな彼等を見てハリーは興味深そうに近寄ってくる。


「ヒョーガ、そう言えばキーは何処にあったんだ?」


「それが妙な事にセリーナが持ってたんだ」


疑う眼差しで豹牙は上品にティーカップを持つセリーナに目を向けた。


「何?お陰で助かったじゃない」


肩を竦めるセリーナは不敵に笑いながらティーカップに口を付けた。




休息を取っているオフェンダー達の元にJが顔を出す。


「あら!お疲れモードじゃない!」


妙なテンションの彼にオフェンダー達の苛立ちは増しており、ジェフリーの目付きは極悪のものだった。


「さっきのゲームで何人かにスポンサーが付いたわよ!プレゼントが届いているからちゃんとカメラにお礼言いなさいね」


そう告げるとさっさとJは帰っていった。


テーブルに置かれた名前を書かれた大量のボックスをジェフリーは強引に開けるとそこにはビールの樽が入っていた。


「最高だな、スポンサーって奴は」


それぞれボックスを開けるとハリーには高機能のタブレット、ケイトリンには生きている仔猫が入っていた。


「……」


その中でエドワードは1枚の紙切れに目を通すと神妙な面持ちになる。暗号で書かれている手紙を部屋に持っていく。


“応援している。S”


その文字を摩りながらエドワードは目を閉ざした。


危うく最初のゲームで死にかけたが運良く今生きている。


最後まで勝ち残らなければ、そう重くのしかかった。




セリーナがボックスを開けるとそこには大量の白い粉が入っており手に持つとズッシリと重いことがわかる。


「最高…」


思わず笑うセリーナは慣れた手つきで袋を破るとテーブルの上に粉が撒き散らされる。


その光景にハリーは目を丸くさせていた。


「一体これって…?」


「一瞬で天国に行けちゃう古代の魔法の粉。試す?」


誘う眼差しにハリーはドキリとする。しかし


「ハリー、騙されちゃダメ。こんな危険なモノ彼に近付けないで」


ケイトリンの声にセリーナは両手を上げる。


「アンタの彼女おっかない」


ウィンクするセリーナはそのまま去っていくとハリーは目線で追った。


そんな彼等を他所にケイトリンはまるで取り憑かれたかのようにテーブルを綺麗に拭き取る。


綺麗にしなければ…


何故か昔の出来事が脳裏に浮かび上がると冷や汗をかいた。




豹牙は酷く腫れ上がった首を氷で冷やしながらソファに腰を下ろすと隣に黒髪に少女が腰を下ろす。


「貴方最後に到着した人?」


ラテンな顔立ちの少女は静かに尋ね、豹牙は驚きつつも頷いた。


「あのゴールは凄かった」


消え入りそうな声はしっかりと耳を澄まさないと聞き取れないようだった。


「私、アン・キーン」


手を差し出すアンに豹牙は微笑みながら握り返す。


「俺は出雲豹牙」


自己紹介を終える2人は微妙な距離感があった。


「ねぇ、貴方にスポンサーは付いた?」


「いいや…」


「よかった、私も」


不思議な雰囲気のあるアンはそれを確かめたかったのかすぐに姿をくらました。


一体何だったのかわからなかったが豹牙は再び首を冷やしていると部屋から出てきたエドワードと目があった。


「まだ痛むか?」彼の問いに豹牙は苦笑を浮かべる。


「少し…、礼をまだ言っていなかった」


思い出す豹牙にエドワードは複雑そうに顔を俯かせる。


「タイミングが良かっただけだ」


寂しげに話す彼の眼差しは切なげで儚いようだった。


すると控え室が急に騒がしくなり2人は目を向けると新しいタブレットで音楽をガンガン鳴らすハリーにエドワードは笑う。


「緊張感のない奴らだ」


ケイトリンと手を繋いで踊るハリーに、ビールを一気飲みするジェフリー、楽しげに話すオフェンダー達の姿だ。


そんな彼等を見ていた豹牙はある思いが浮かぶ。


このままで本当にいいのか?そう考えているとエドワードに肩をガシリと掴まれる。


「あまり疚しいことを考えるな」


静かにカメラを指差すエドワードに豹牙は頷いた。もしかしたら自分と同じ考えを持っている人間がいるはずだ。何故かそう思えた。




第2ゲーム当日になると再び緊張感が走る。


「また…始まるのね」


震えるケイトリンの肩をハリーは優しく抱いてやる。


そして大画面にマーディスターが顔を出した。


『昨日はゆっくり休めたかな?』


この笑みは何を企んでいるのか彼等には分からなかった。壁に寄りかかりながら話を待つ豹牙は隣に立つエドワードに目を向ける。


しかしエドワードは目を合わそうとはしなかった。


『今回のゲームを先に話しておこう。というのも今回は2人1組のチーム戦だ』


「チームを組むなら貴方みたいな人がいい」


いつものようにセリーナは喉を鳴らしながらジェフリーの太い腕を摩る。しかしジェフリーには通用するわけでもなく彼女の手を振り払う。


ベントゥスイグニートコリエンテフロンドトニトルスの5グループに分かれて、それぞれにゴールを目指して貰う。勿論今回も制限時間があるので注意を』


「時間を超えたらどうなるの?」


ハリーの問いにマーディスターは面白そうに笑う。


『獣が解き放たるが、万が一それに逃げ切れることができれば目標達成とみなされる。つまり今回死人は出ない可能性があるという訳だ』


「…その可能性って?」首を傾げるアンは無表情で冷静そのものだった。


『あの獣に遭遇して生き残れた者は居ない0%に近い。その正体とは話せないが期待してくれて構わん』


その台詞に豹牙の背筋は凍った。


今回は逃げ切れないかもしれない。


もし生き残れるとすればケイトリンかハリー、もしくはエドワードと手を組む必要がある。彼等は信用に於けると分かっていた。


『ではグループ分けをする。先ずは風は…ジェフリー・ガルバとケイトリン・マツバ』


初めから期待を裏切られると豹牙は焦る。


それにあのケイトリンがあのジェフリーと手を組むのは危険極まりない。獅子の檻に兎を入れるようなものだ。


ハリーも同じ心境らしく彼女の顔を覗き込む。


「大丈夫?」


優しく尋ねるハリーにケイトリンの顔は青ざめていった。


「えぇ…」


『では火は出雲豹牙とセリーナ・ギルバート』


思わぬ組み合わせに目を丸くする豹牙だったが、同じくセリーナも口をあんぐりと開けていた。


『そして水はエドワード・シーモアとハリー・ロイド。地はアン・キーンとレオン・ランバート。雷はドリュー・マイコフとツバサ・アイレス。組み分けは以上だ』


そう告げると画面は一方的に切れる。その頃合いを見てかJはスタイリストを連れて顔を出した。


「ハーイ、皆さん御機嫌よう!お着替えの時間よ!」


手を振るJは直ぐに豹牙とセリーナの前に駆け寄る。


「私はアンタ達の担当なの」


嬉しそうなJだったが豹牙は毛嫌いしたように顔を背ける。


「あら朝は不機嫌?」


心配そうに覗き込むJに豹牙は睨み付けた。


「俺たちの首に爆弾を取り付けたばかりだけど、今回はどうするつもりだ?」


「あぁ、そのことね…。あの事は私達も知らされてなかったの。あの時、爆弾の首飾りを渡しちゃったって分かって血の気が引いたわ」本心を語ってると分かり豹牙はJを哀れだと思った。


「でも今回は安心して、パレード用のドレスを選んであげるだけだから」


「パレード?」


眉を顰めるセリーナにJは嬉しそうに微笑む。


「アンタ達美形なんだから今回のパレードで人気者になるわよ、きっと」


そう言いながらJは持って来たドレスを次から次へと選び出していった。




着替えが終わったオフェンダー達は再びエレベーターで最上階へと向かう。そして開かれた扉の向こうはこの間と打って変わり真っ白な大理石で出来た床が何処までも広がっていた。


「さぁ笑顔よ!」


Jに尻を叩かれながら前へ進む豹牙は誰よりも先に大理石に足を付けると歓声が上がった。誰もがこのゲームを待ち望んでいる様子だった。


それぞれに用意されている戦闘馬車のチャリオットに目を留める。人工の馬にハリーは見とれており、その姿をエドワードは呆れながら見守っていた。


自分達のチャリオットに乗り込みながら風のチームが先頭を切って走り出す。風をモチーフにしたチャリオットからは桜の花びらが舞い2人を包み込んだ。歓声の中を通る快感にジェフリーは酔い痴れている中、仔犬のように震えるケイトリンは彼の顔など直視出来ずにいた。


続いて火のチャリオットが走り出すと豹牙の緊張が高まる。2人のドレスから炎が包み観客の感心を買う。


しかし2人を乗せたチャリオットは無言のまま到着した。


続いてハリー達のチャリオットも到着し皆が揃うとマーディスターは先ほどのゲームの内容を話していく、その間に豹牙はケイトリンの元へと向かう。


「俺もハリーも君を気に掛けているから、心配することはない」豹牙の言葉にケイトリンはホッと胸を撫で下ろす仕草をしてみせる。



再びオフェンダー達は着替え室に向かいいつものウェアに身を包む中、火の控え室で豹牙は気になることがあった。


「この間ナイッサに襲われた時、どうやって倒した?ナイフでも隠し持ってるとか?」


髪を結い上げながらセリーナは笑い出す。


「何処に隠すっていうの?あのチョーカーで首が切れたのかもしれないじゃない」全くと呆れた様子で肩を竦めるセリーナに豹牙は口を尖らせた。


「信じられる話ではないな…」


信用出来る相手ではないと分かった豹牙は警戒心を強めながら扉を開けた。





コロシアムのパネルにはマーディスターの顔が映し出されていた。


『これからゲームが始まりますが制限時間は24時間と長丁場となっております!それぞれがゴールに向かうこのゲーム、もし敵チームと出会した際殺し合いも可能です。その為に彼等にプレゼントを贈りましょう!!』


その合図にボックスとリストが手渡される。


ジェフリーは慌ててボックスを開けるとそこには長い一本の縄が入っていた。


ケイトリンにはナイフ、ハリーにはスタンガン、エドワードには短剣、豹牙はバール、セリーナはワイヤーと致傷率の低い武器が手渡されていた。


迫力のない武器に不機嫌なセリーナに対し、ロープを懐かしそうに触るジェフリーだった。


『ではスタート地点に立って貰いましょう。今回も生き残ってゴールした者全員が勝者となります!』


そしてアラームが鳴るとゲートが開かれた。


そこは何台もの風車が風を送り込むように回り続けており、そこがオランダを示すような場所だった。


リストにはキーを奪いその扉を開け


それだけ書かれているだけだった。


早速駆け出すジェフリーの後をケイトリンは仕方がなさそうに追い掛ける。


大男の割には俊敏な彼に関心していたもののケイトリンはいつ自分が殺されるか不安で堪らなかった。このまま逸れてハリーや豹牙の元へと向かいたいが2人でミッションをクリアさせなければならないのが今回のゲームだった。




その頃ハリーとエドワードはヴェネツィアが舞台となった地を只管歩いており、同じくキーを探すミッションとなっていた。


エドワードとは話したことがないハリーにとって彼がどんな人間か知る由もなかった。


「まさか君と手を組めるとは思っていなかったよ」ハリーの声を耳にしながらエドワードはボートに乗り込む。


「チーム戦にするとはむごい話だ」


「何故?そうすれば今回は死者は出ないって話だ」ハリーも同様にボートに乗るとエドワードは船を漕ぎ始めた。


「最終的には殺し合う仲だと言うのに絆を敢えて持たせるつもりだ」


「確かに…、今回だけじゃない。同じ空間で生活させるのも僕達が初めてじゃないか?」


「ドラマ仕立てのサバイバルゲームか…」


憂いを帯びたエドワードの声音を聞いたハリーはタブレットを操作し始める。


「どうやらゲーム期間中は映像だけ配信されるらしい、声は聞かれないようだ」


笑って話すハリーにエドワードは振り返った。


「何が言いたい?」目を細める彼にハリーは頷く。


「つまりここでの会話は全てオフレコ。何を話しても大丈夫」何かを知っている口振りにエドワードは苛立った。


「だとしても貴様と会話をするつもりはない」


「そっか…」


残念そうに顔を俯くハリーにエドワードは仕方がなさそうにため息を吐く。


「済まない…、それで何を話したいんだ?」


「君のこと」笑みを浮かべるハリーにエドワードは口を閉ざす。


「ハッキングして君の犯行ファイルを覗いたんだけど、他の連中よりもずっとシンプルなんだ。あまりにもシンプルすぎる」


「それが悪いのか?」


怪訝そうに尋ねるエドワードは用水路に設置されたカメラを気にした様子だった。


「僕は侮れないよ、偽装しているファイルはすぐに見抜ける」


「なら何の為に偽装する必要があると?」


「それが聞きたい」首を傾げるハリーはいつもと雰囲気が違うと感じられた。


まだゲームは始まったばかりだったがエドワードにはもう既に地獄のようだった。



ゲームの最中マーディスターは大理石で出来た廊下を歩いていた。


青年刑務所ドムス・アウレアの本部では大勢の役員が揃っており、彼等の中へと漸く到着した頃には事の重大さに気付かされる。


「此れは此れは、メイソン君」


「本部長…」頭を下げるマーディスターことメイソンは顔を顰めさせながらも敬意を示す。


レッド本部長、この青年刑務所を仕切ってきた期間は想像以上に長いもので、その間部下全員に慕われた男は優しく笑みを浮かべる紳士であった。しかしその風貌は外向きであり内面を理解している者は極僅かである。


その一握りの人物であるメイソンだからこそ恐れ多いこの場を早く逃れたかった。


「今回のゲームには如何やら変化が見られているようだが…メイソン君、君はどう考えているか聞かせてくれるかね?」


彼の問いに役員達は一斉に目を向けた。


この中には信用できる者は居ないが、その考えを決して見せてはならない。テレビ向けの笑みを作り上げたメイソンはゆっくりとレッドの元へと向かう。


わたくしは長年このゲームの司会をやって参りました。その中で今回のゲームは史上初。それは本部長の思索と思いまして進行して居ります」


「ふむ、私の思索とは一体どんなモノか君の口から是非とも聞きたいものだ」


上品な顎の髭を摩りながらレッドはウイスキーをグラスに注いでいく。


「今迄のゲームは個人戦、それが必須でした。しかし異なる点は今行われているゲームがチーム戦であることです。それは観客の関心を強める為の思索かと」


「何故チーム戦にすることにより観客の関心を引けると?」


グラスを差し出しながら尋ねるレッドに恐れながらもメイソンは静かに受け取る。


「チーム戦はドラマが生まれる、観客はドラマを好みますから」


「確かに…、オフェンダー達は絆を深める。しかしこのゲームの狙いは殺し合いであり最後の1人となるまで彼等は戦い合う。観客の反感を買う恐れもあることを分かっているのかねメイソン君」


グラスを傾け口に付けるレッドに合わせてメイソンもウイスキーを飲む。


「ひとつ言っておくが、我々はその様な指示を出した覚えはない」そう付け足すレッドはメイソンがゲームを変更したと考えていた。


彼の考えに気が付いたメイソンは目を細める。


「貴方の指示ではなかったのですか?じゃあ誰が…」


「ほぉ、では君の勝手な進行ではないようだ」


面白可笑しく笑い出すレッドにメイソンは怯えていた。


「誰の仕業かは知らないが、このまま様子を見てみようじゃないか」


そして画面に目を向けるレッドはウイスキーを飲み干した。




急に降り出した雨を凌ぐためにある建物に入るも豹牙とセリーナだったが2人は睨み続けていた。


1度は救われたもののそれは善意からではない。


それを知っているからこそ豹牙の疑いの眼差しは止むことがなかった。


一方セリーナもこの細っこい青年がナイッサに殺され掛けた光景を目の当たりにし、頼りになる男と思っておらず自分の足を引っ張るはずだと感じていた。


しかし豹牙は口を開いた。


「先ずはこのミッションをクリアしなければ先へ進めそうにない…」


豹牙が持っていたリストを奪いセリーナは目を細める。


「キーを奪い扉を開け」


リストの文字を口にするセリーナだったが口をへの字に曲げる。


「一体誰からキーを奪えって言うんだ?」


首を傾げる豹牙は床に腰を下ろす。


建物内を見渡すと如何やら地下鉄のような造りだった。改札があり駅のホームのような場所に見覚えのある漢字が目に入る。


「渋谷…」


そう声を漏らす豹牙にセリーナは眉を寄せる。


「聞いたことある、日本の地名だったような…」


「そうだよ、ここは東京だ」豹牙はハッとするように顔を上げセリーナと目を合わせた。


「まぁ雨も止みそうにないしこの建物を探索しようか、少年」


そんな豹牙を馬鹿にした眼差しでセリーナは彼の肩を叩くと豹牙は舌を出した。


「ひとつ言っておくが俺はもう20歳だ、少年って年じゃない」


「意外、私と同い年なんて…」


本当に目を丸くさせるセリーナは信じられなそうに青年を見つめていた。


「俺も驚いてるよ?君はもっと老けてるのかと思った」


そう話す豹牙を睨みつけながら歩き出すセリーナだったが遠くの方で何かが落ちる音に身構える。


「ねぇ、今何か聞こえなかった…?」


震えるセリーナの声に豹牙は肩を竦める。


「聞き間違いじゃないか?何も…」そう答えようとした瞬間、バダダダと慌ただしい音が聞こえ豹牙の表情が固まる。


何かが近くにいる


直感がそう知らせていたが、セリーナは一歩前へと足を進めた。


「何か見える?」


豹牙の問いにセリーナは首を横に振った瞬間、金切り声が2人を襲った。


「「あぁ"ぁああ!!!!」」


悲鳴を上げ2人は死に物狂いで建物を逃げ惑う中、未だに正体が分からぬ生き物が迫り来る。


細道を見つけた豹牙はセリーナの腕を取り必死にそこを目掛けて走るとその影は彼らを見失ったのかそのまま前進していった。


息を潜め影を見届けた2人は心から安心したようにため息を零した。


「もしかして、あのバケモノからキーを奪えってこと…?」気が付いていたもののセリーナは敢えてその質問を打つける。


「他に何か居るんだったらな」


ひと息吐きながらそう答えると再び腰を下ろす。


「まずは此処で策を練ろう」豹牙の提案にセリーナは同意するように床に座り込む。


ここで初めてセリーナは彼と共に行動することを決心したのだ。ドッと疲れた表情を浮かべる彼女は爪を噛み何とか心を落ち着かせようとしていた。


「策を練る前にお互いの事を話そう、小さなことでもいい」


「何を言い出すの?」


機嫌が悪いのか舌打ちをするセリーナに豹牙は自分について話し始める。


「俺は生粋な日本人。趣味は車とバイク運転で海辺を走るのが好きだった」不安感を紛らわそうと話し始める青年に気付きセリーナは鼻で笑う。


「アンタの事別に興味ないんだけど?」


「君の趣味は何?」蔑むセリーナに気にも留めず語りかける豹牙は純粋な眼差しを浮かべる。そんな彼に仕方がなさそうにセリーナは答えた。


「男を騙すこと」


嫌味の篭った笑みは何か企んでいるようにも見える。その笑みに何人もの人間が騙されてきたのかと思うと豹牙の興味は更に唆る。


「男を騙した結果危険な目に遭ったんだろ?」


「何でそう思うの?」


「だって整形して顔を変えたって聞いた」


率直な青年の言葉に吹き出し笑うセリーナは口をを抑える。


「アンタってモテなそう」


髪をかき上げるセリーナの言葉を豹牙はじっと待ち続ける。一体何処をイジっているのか探る。しかし


「残念だけど、イジってるのは顔じゃない」


「体を?」


豆鉄砲を食らった鳩のような豹牙の鼻をつまみ上げながらセリーナは頷く。


「如何?興味深いでしょ?」


甘えるような声に豹牙は我に返り笑い出す。


「残念、俺の好みじゃない」余裕を浮かべる豹牙にセリーナはつまらなそうに顔を背けた。


「あの小娘に気があるようだけど、このゲームに私情は禁物って事を教えてあげる」


急に無表情になるセリーナに豹牙はムッとしていた。


「分かってるさ」


そう話していると再び金切り声が構内に鳴り響き2人の警戒は高まる。


「また来る…、今回は逃げ切れない可能性が高い」


豹牙の話にセリーナはワイヤーを手に持ちながら頷いていた。


「私は罠を仕掛けるからアンタが仕留めて」


「俺が…!?」動揺する青年に呆れながらも慎重にワイヤーを張っていく彼女の手つきは慣れているようだった。


張り巡らせているワイヤーに巨大な影が迫る。そして罠に掛かった影は悲鳴を上げ、その首目掛けてバールを振り落とすも中々切り落ちない様子に豹牙は焦った。


しかし次の瞬間には金属が地面に落ちる音が聞こえセリーナは咄嗟に手を伸ばす。


「あった…!」


キーを手に入れたセリーナだったが暴れる影の鋭い鉤爪が襲う。


「…ッ!」


肉の斬れる音が聞こえたもののセリーナは豹牙の腕を取りその場を逃れるように駆けて行った。


「上手くいったな!」


建物から出ると雨は既に上がっており豹牙は興奮してガタガタと震えていた。


そんな彼を他所にセリーナは日が暮れそうな空を見上げ神経質になっている様子だった。


そして手に入れたキーを見つめると何やら字が刻み込まれていた。


「個性は様々…ねぇ、如何いう意味?」


眉を寄せるセリーナに豹牙はキーの字に目を通す。


「この形って…何処かで見たことがあるかも知れない」そう話す豹牙は悟ったように駐車してあるジープの車に近寄ると車窓にバールを嵌めた。そして鈍い音が聞こえると豹牙はドアを開ける。


「扉は此処から遠い、乗って」


いちいち彼の命令口調に苛立つセリーナだったが素直に車に乗り込む。


「向かう先は?」ミラー越しで尋ねる彼女に豹牙は笑う。


「浅草って知ってる?」





その頃ジェフリーは1人でバケモノを倒しすぐにキーを手に入れたものの未だに扉を見つけ出せずにいた。


苛立つ彼に怯えながらもケイトリンは後に続いて歩くしかなかった。


静かな彼女に気が付きジェフリーは振り返る。


「お前も手を貸せ」


「手を貸せって…」


急に話しかけられたケイトリンはビクっと体を震わせ涙目になる。


そんな彼女に気が付いてかジェフリーは目を細める。


「俺が怖いか?」彼の問いに首を横に振るも未だに体は震えていた。


「俺の噂ってどうなってるんだ?」


「噂…?」


「デッドリーオフェンダーは独房に入れられえいるだろ?他の奴らからどんな嘘を吹き込まれているのか気になる」


低いジェフリーの声は怒っているのかそれはケイトリンには分からなかったが、ここで嘘を吐いたとしても得はしないと分かっていた。


「多くの人間を殺してきたって聞いたわ…、その中には女子供もいたって…」


気まずそうに答えるケイトリンにジェフリーは腹を抱えて笑う。


「女子供…ふざけんな!俺は男しか殺さない人間だ」


殺意が込められるジェフリーの言葉を信じられるのか自問するケイトリンは目を背ける。


「色んな殺し方をしてきた…はじめは銃を使って簡単に殺したがそれじゃつまらないってわかった。俺の専攻はこのロープだった」先ほどもあのバケモノを何の戸惑いもなく絞殺するジェフリーを思い出すケイトリンは恐怖が最高潮に達していた。


「女子供は一切殺したことはないの?」恐る恐る尋ねるケイトリンにジェフリーは鼻を鳴らす。


「興味がない、殺したところで得をしない」


嘲笑うジェフリーにケイトリンは呆れていた。


「それを私に話して貴方に何か得はあるの?」


「1日俺と一緒だ、そんな怯えられてたらヤリ辛ぇんだよ」


「そんな事聞かされても皆が安心するとは限らない」


強気になるケイトリンにジェフリーは苛立ちを覚えるも震える腕を下ろした。


「あまり調子に乗んなよこのアマ。直ぐにでも捻り殺せることを忘れんな」


ジェフリーの脅しはケイトリンにしっかりと届いていた。再び2人の距離が開き始める。




浅草に到着した豹牙達は車を乗り捨てて浅草寺を駆ける。そして正堂の階段を昇り立派な扉の鍵穴を豹牙は指差すとセリーナはすぐにキーをはめ込んだ。


カチリと音を立てて扉が開くと2人はハイタッチし扉の向こうへと向かった。


「「…!」」


すると目の前に広がるのは鉄の塊で出来た建物の中だと気がつく。


「まだゴールじゃないみたいね…」あからさまにウンザリするセリーナを豹牙は不憫そうに見つめる。


「1日掛かるゲームだ。そんな簡単にゴールに辿り着ける訳がないだろ?」


「ムカつく」


フンと顔を背けるセリーナだったが再び金切り声が聞こえ2人は顔を見合わす。


「また同じ手で行けるか賭ける?」不敵に笑うセリーナに豹牙は鼻をすする。


「当たり前だろ?」


そして2人は音が聞こえた方へ駆けて行ったが其処に居たのは既に影を倒しキーを手に入れたハリーとエドワードだった。


豹牙達に気が付いたハリーは見せつけるかのようにキーを揺らすとセリーナは彼からキーを奪う。


「あッ!」


一瞬の出来事で驚くハリーを他所にエドワードは不敵に笑いながら彼女の脚を引っ掛け転ばせるが、セリーナはその勢いに任せ腰から隠し持っていたナイフを手に取るとエドワードに斬りかかる。


そこで豹牙は彼女は何かしら武器を隠していることに気が付いたのと同時に嘘の達人であることがハッキリとした。


その一方で安易に避けるエドワードは余裕の笑みを浮かべ彼女の頰を殴り付けるとセリーナは怯み後ろへ下がって行くも再び斬りかかった。


豹牙は思わず2人の間に入り争いを止めようとするもそれは簡単な事ではなかった。


睨み合う2人に挟まれながら助けを求める豹牙にハリーは溜息を吐く。


「お2人さんお熱いのは分かるけど、ヒョーガから何か話があるって」


その言葉にようやく警戒を解く2人だったがどちらとも目を離さなかった。


「それで話とは?」エドワードの問いに豹牙は腕を組む。


「このゲームの目的はただゴールに向かうだけだ、殺し合いじゃない」


「それが何だって言うの?」


眉を上げるセリーナは鼻を鳴らす。


「他のチームと助け合うことは禁じられていないだろ?」


「確かに…」とハリーは頷いてみせるがセリーナは乗り気ではなかった。


「まさか4人で行動する気?」


「その方がゴールに近付き易い」


豹牙の計画にセリーナは未だに納得しておらず唇を窄める。


「果たして信用出来るかしら?」


2人を指差すセリーナにハリーは嘲笑う。


「それはこっちの台詞さ。ウソつきな君を誰が信じるとでも?整形したのも長い鼻を削ったんだろ?」


馬鹿にするハリーを睨むセリーナだったがひと呼吸起き咳払いする。


「分かった…、ならキーはヒョーガに持たせる」


まだ不服そうなセリーナだが仕方がなさそうに奪ったキーを豹牙に渡す。


「それなら問題はなさそうだ」


彼の思惑に気が付いているエドワードも同意し、4人は建物内を歩き出した。


「君達の第1ステージってどんな所だった?」ハリーの問いに豹牙は自分の故郷だと話すと彼は羨ましがっていた。


「僕も祖国に帰りたいな…」


「バーチャルな世界だったけど本物っぽい造りだったな」


そう話している間に建物をひと回りし終わったが扉らしきものは見つからなかった。


「もしかしたらこの建物外にあるのかも」


ハリーはタブレットを操作しながら予想している間にエドワードは周りを見渡す。


「もう夜も更けている、外は危険の可能性が高い。ここで寝泊まりしようと思うが如何だ?」彼の考えに豹牙は頷いてみせる。


「それが良い。順番に1人が監視しその間に3人が休息を取ろう」


豹牙の提案に4人は漸く体を落ち着かせることが出来た。


空腹感より疲労が溜まっていたのかハリーはすぐに眠りに就いた為、最初の監視はセリーナとなった。


壁に寄りかかりながら眠る彼らを見守りながら爪を噛む彼女の隣りにエドワードが腰を下ろす。


いつも持ち歩いているのか彼はハンカチを破り彼女の腕に残る引っ掻き傷に巻いていくエドワードをセリーナはただ見つめる。


「慣れた手つき…」


驚くフリをするセリーナにエドワードは微笑みながら手当てしていき、彼女の顔に視線を向けると先ほど殴りつけた傷に目が留まる。


バツが悪そうに傷に触れようとするエドワードの腕をセリーナは払った。


「同情は要らない…」


冷たく切り離す彼女にエドワードは意地悪に笑う。


「同情するつもりはない」


「あら残念」流し目で誘うセリーナだったが彼女を弄んでいたのは彼だった。


「男を出し抜く人生は楽しいか?」


「それが私の生き様なの」猫が喉を鳴らす声で答えるセリーナをエドワードは鋭い眼光で見つめる。


「嘘ばかりの人生は疲れるだろう?」知った口のエドワードにセリーナは嫌悪感を表す。


「それは貴方にも言えることでしょ?」


お互いに切り札を持てばどちらが有利になるのか分からない。それでも決してここぞという所を見分けるまで手の内を見せてはいけない。これがサバイバルゲームの掟である。


彼女は何かを知っている、そう思うとエドワードはジッとすることが不可能となる。


計画の為に口封じをするか、もしくは彼女を此方に引き込むか。どちらが安易か、冷静になって考えるが其処まで彼女を知らないという事実もある。


そして何よりも何処かで見たような顔だ。エドワードの不安要素は増えていく一方だった。


監視の順番が回ってきたエドワードは欠伸を噛み締めながら眠りに就くセリーナの顔をまじまじと見つめる。


一体何処で出逢っているのか、考えれば考えるほど記憶がポカリと無くなっているような感覚になる。


そんな彼の隣りに目を覚ました豹牙が隣りに腰を下ろした。


「様子はどう?」豹牙の問いにエドワードは目を伏せ笑う。


「何も変わりはない」


「それは良かった…」そう零す豹牙は何か言いたげな表情で俯くとそんな彼にエドワードは視線を向ける。


「そんな思い詰めた顔をして如何した?」


「君達はこのゲームに賛成してるのか気になって…」


「どういう意味だ?」眉を寄せるエドワードは彼の言葉を待つ。


「確かに俺達は法を破って罰を与えられるのは仕方がない。でもこれはやり過ぎだと思わないか?」切実な青年の問いにエドワードは目を逸らした。


「俺は庶民達の見世物になるつもりはない。君もそう思っているんだろ?」


豹牙の求める眼差しは一点の曇りのない誠実さを感じられた。


「このゲームが始まった時点でもう引き返せない所まで来ている」無駄な足掻きは犠牲を生む、そう思ったエドワードは釘を打とうとそう発する。


「引き返す必要はない。進めばいい」


青年の言葉にはどういう意味が込められているのかエドワードには気が付いていたものの、彼には重大な秘密がありそう簡単には頷けるものではなかった。


2人の会話をセリーナは耳を立てて聞いていたが何もなかったように目を閉ざした。


日が昇る頃に4人は身支度を整え行動に出る。


建物の外は自然に囲まれた場所であり冷たい風が頬をなぞるようだった。


「そういえばあのバケモノの姿を見た?」ハリーの問いに誰も答えられなかった。薄暗かった建物の中ではバケモノの姿を見れるわけもなく4人の恐怖をさらに高めることになった。


しばらく木々を越えていくうちに何やら怪しげな白い塔が見えてくる。


「もしかしてあそこがゴール?」指差し笑うセリーナだったが彼女の背後に影が現れた。その姿は人のような体格であったが目と鼻はなく口だけある状態でキバはまるで獣のように尖っており、涎が垂れ落ちる。


身の危険を感じた豹牙は咄嗟に彼女の腕を取りバールでバケモノの顔殴りつけるも怯むことなくバケモノは鋭い爪で彼らを襲い掛かった。


塔に向かい逃げる4人だったが目の前には同じようなバケモノが立ちはだかっており、彼らの足取りが止まる。獣の唸る声が森の中で響き渡り豹牙の鼓動は小刻みに刻まれる。


行き場を失った彼らは逃げ道を探るも、気がつけば3体ものバケモノによって囲まれており4人はまさに窮地に出てされていた。


「どんな武器を持っている?」エドワードの静かな問いに豹牙とセリーナは武器を見せるもどれも致傷率の低い武器ばかりでエドワードの希望が薄れていく。


「そういえばお前はナイフを隠し持っていたけどほかに何か持ってないのか?」


豹牙はセリーナに尋ねるも彼女は首を横に振り焦りを見せる。


「持ち出せたのはこれだけ…」


豹牙にナイフを手渡す彼女はワイヤーをぎゅっと握りしめ戦闘準備に入る。どんどんと迫るバケモノにハリーは恐怖からか気を失いそうになるも必死に意識を保たせ震える手でスタンガンを持っていたが汗ばんだ手元からスタンガンが滑り落ちていく。


スタンガンが地面に落ちた音にバケモノ達は一斉に襲ってくるとエドワードは短剣で身を守る。バケモノ達の金切声は4人を奮い立たせており一体のバケモノがセリーナの肩に噛みつこうとするも彼女は俊敏に避けた所を豹牙は見届ける。


そして大量の血飛沫が上がり豹牙は目を見開いた。


「セリーナ!!」


声を荒げる豹牙だったが次の出来事に混乱をせざるを得なかった。


ばたりと倒れるバケモノの隣で膝を付く彼女の肘からは鋭く尖る刀が顔を見せ、あの時ナイッサの首が切れた訳が漸く謎を解いた。


一体のバケモノを倒したセリーナに観客達は歓声を上げる中、レッドだけは不服そうにパネルを睨む。そしてアジア系の重臣コンに彼女を調べるよう命じた。




肘から生えた刀は何もなかったかのように血を拭い取る彼女の様子に豹牙だけでなくエドワードも見入っていたが、まだ2体のバケモノに苦戦する。


しかし音を聞きつけたバケモノが次から次へと姿を現わすバケモノに4人は顔色を変えた。これでは埒が明かない、そう思ったエドワードは天までそびえ立つ塔を睨む。


「あの塔まで逃げるぞ!」エドワードの声が3人に届くと誰もが必死に走っていく。


背後から聞こえてくるバケモノの声はまさに死の囁きであるかのように、振り向いたら最期と感じさせられる。


冷たい空気が肺に突き刺さるようだったが、そんな痛みなど気にする時間がなかった。野獣のように両手足を地面に付け走るバケモノの姿は今まで見たことのない不気味さだ。


塔の扉が漸く見えて来たのと同時に横側からバケモノの声が耳に届き四方八方から攻めて来ているのだと分かりエドワードは苦虫をかむように顔を歪ませる。


「ヒョーガ、キーを持っているよな?」隣に並びながら尋ねるエドワードに青年は何度も頷きキーを見せた。その様子にエドワードは安堵の息を吐き彼を1番前に走らせる。


「私が彼奴らを食い止める、その間に扉を開けろ」


「それじゃ…!!」


思わず足取りを緩める青年にエドワードは苛立ちを見せる。


「5分しか持たない!行け!!」


品位を保ちながらもエドワードは叫びどんどんと後ろへ下がっていく。豹牙の不安は更に高鳴り必死に扉を目掛けて走るもバケモノ達は豹牙に狙いを定める。


3体ものバケモノが襲い掛かり身を縮める豹牙の頭先でセリーナが奴等の頭を切り落とした。


その隙に豹牙は鍵穴にキーを差し込むも手が震えて中々入らず焦りだけが募る。


漸く扉が開き豹牙は3人に合図を送るとセリーナは難なく入り込む。しかし苦戦しているエドワードに目が留まり豹牙は助けに向かおうとするも彼女は必死に阻んだ。


「アンタも巻き添いになる…」


悲しげなセリーナの眼差しを豹牙は振り払うように駆け出す姿に彼女は呆れたようにため息を零す。


20体ものバケモノに囲まれているエドワードは辺りを見渡し逃げ道を探るも無に等しい。


ここで終わりかと思えた瞬間、目の前で青白い電流が流れ込み思わず目を開ける。すると目の前にはスタンガンを手にしたハリーの姿があった。


仲間の焼け焦げる匂いを嗅ぎつけたバケモノ達は金切声を発し怯んだところを豹牙は狙い2人の元へと駆けつけると再び青年達は走り出した。


扉を開けて待つセリーナの元に向かう3人の背後には無数のバケモノ達の姿がありセリーナは葛藤とも戦う羽目となる。


このまま扉を閉ざせば自分は助かり、このゲームも生き残れる可能性が高い。しかしそれが果たして正しいことなのか。今の彼女には分からない問題だった。


そうこうしている間にバケモノは目の前まで迫っている。震える手で必死に扉を閉める間に3人は滑り込み扉の中へと入っていく。


大きな音を立てて閉まる扉を見つめ4人はどっと疲れたように地面に腰を下ろし肩で息をする。


ハリーが腕時計に目を向けるとまだタイムリミットまで1時間はあった。それだというのに何故あのバケモノ達は自分達を襲ったのか理解出来ずにいた。


「一体ゴールは何処なの?」


見えないゴールに迷路に迷い込んだような不安感が漂い全員の生気を奪っていく。


それよりも豹牙は疑問ばかり浮き上がるセリーナに不信感を湧くようになる。


「整形って言ってたけど、武器を隠す為に体を弄ったって言うのか?」


想定していた彼の問いかけにセリーナは目を細め3人の顔をそれぞれに見つめた。


「そんな言い方…まるで私がバケモノみたいじゃない」不服そうな彼女は顔を背けるとハリーは舌を出す。


「そう思われても仕方がないだろ?まるでXメンのウルヴァリンのようじゃないか」嘲笑うハリーを睨むセリーナの心境はどんなものかは分からないが、彼女の過去に何かあると豹牙には気が付いていた。


「そう言えばさっきのバケモノの写真を何とか撮ったんだけどさ、やっぱり気持ちが悪いな」


ハリーはタブレットを弄りバケモノの顔を彼等に見せつける。


「まるで人間と獣を融合させたような生き物だ」


顔を顰めるエドワードにハリーは思いついたように手を叩く。


「人間でも獣でもない、こいつはミュータントだな」


「それより早くゴールを見つけよう、また“ミュータント”が攻めて来たらこっちに勝ち目はない」


焦る豹牙にセリーナも賛同する。このメンバーから早く解放されたい気持ちでいっぱいになっていた。



真っ暗な道を進む中セリーナの隣に豹牙が並ぶ。


「あの時、何故扉を閉めなかった?」


「そんな愚問に答えなきゃいけない?」


「あの扉を閉めてさえ居ればライバルは一気に減る。俺には不思議でならない」


神妙な面持ちの青年にセリーナは鼻をすすりながら笑みを浮かべた。


「借りはしっかり返して貰うから」


鼻を鳴らすセリーナに豹牙は本心を決してひけらかさないのだろう、そう確信していた。


進んでいくうちに光が射す部屋が見えてくる。その光は恐らく求めている光であるのだろうと直感が言っていた。一点の光を目指し豹牙達は足を進める。


光の先に立っていたのは進行人マーディスター、そして見知らぬ老人が立っていた。上等な顎髭は白銀に染め上がり鷲鼻が印象的だ。


その老人が彼等に拍手を送るとマーディスターも笑みを浮かべながら拍手し始める。


「どうやら君達が1番乗りのようだ。そして何よりも4人が同時に到着となるのは今回が初めてである」


老人の言葉にハリーやセリーナはホッとしていたがエドワードは老人の顔を決して放さぬように睨みつけていた。


「私は青年刑務所の本部長であり、またこのゲームの最高責任者レッドだ」


不審に思う青年らに気がついてか、レッドは笑を浮かべて名乗り出る。しかしその笑みには裏があると青年達は勘付いていた。


「実は話があり君達をここに呼び寄せた。と言うのも1位に同時着した君達をCN局がインタビューをしたいと話しているのだ。どうだね、テレビには興味があるか?」笑い出すレッドは口を隠すように髭をなぞるその仕草は不気味だった。


レッドの申し出を飲むべきか4人は顔を見つめ合い確かめる。


「ではまた1週間後に会おう」手のひらを見せるレッドは彼らの答えを聞かずとも反応を見て笑を浮かべた。そして去っていくレッドの背中をエドワードはふつふつと煮えくり返る怒りを拳で抑え込んだ。


ゴールの下でパネルが設置されており、そこには他のオフェンダーたちの姿が映し出されていた。


そこにはもちろんジェフリーとケイトリンの姿もあり着々とゴールに向かっており、ハリーは胸を撫で下ろす。その中、豹牙はアンの姿を探し見つけた途端だった。あのミュータントに襲われ画面に血が飛び散るとそこで映像は切れた。


「…あぁ……、」


何とも言えない声が喉を通して出ると豹牙の体は力を無くしたかのように抜けた。しゃがみ込む豹牙の肩にエドワードはそっと手を置き見守る。


どんどんとメンバーが減っていく事実に青年の心は張り裂けそうだった。次は自分の番かもしれない、そう思うと溜め込んでいた恐怖が爆発し嗚咽の声が漏れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ