夏の夜 花火と君と
こんな経験したいです。
したことないです。
想像だけで書くなんて死にそ(白目)
こんな経験したいなぁ。
空がデコレーションされる。
耳の鼓膜を人の歓声と火の玉の爆発する音が振動する。
今しかない、そう思った。今なら、言えるような気がするのは夏の、お祭りの異様な空気のせいだと思う。
俯いて花火ではなく、赤い金魚を眺めている彼女の腕を強引に引っ張って人混みを掻き分ける。後ろから「え、ちょ、どうしたの。ねぇってば!かずや!?」と叫ぶ声が聞こえるが今は無視だ。変わりに少し後ろを振り向いたら、咲和の肩にかかるかどうかの、短い、柔らかい髪が揺れているのが見えた。
よくあるシチュエーション。神社の裏。ありがたい事に先着はいない。2人きりの空間。周りのざわめきがどこか遠い、異世界のように感じる。むしろ、こちら側が異世界なのだろうか。
心臓のドクドクいう音が花火より大きく聞こえる。当たり前だ、俺の中にあるんだから。
「急にごめん。」
「ええけど、急にどうし…えっ…な、なに…?」
俺はもっていた狐のお面を咲和の顔に押し当てた。
そのまま顔を咲和の耳元に近付け、ぼそっとつぶやく。その瞬間、咲和の体が固まったのが分かる。
数秒の間に、急いで、絡からまっていた頭が整理され、今の状況を再認識した。とたんに、やばい、と思った。何がどうやばいのか、また、こんがらがった頭ではうまく言えないが、とりあえずこの状況はやばい。
「ご、ごめん急に…。」
慌てて顔とお面を離して後ろを向く。
「い、いや、その。私もびっくりしちゃって…。」
沈黙が続く。その沈黙は時間にしてはきっと数十秒ほどだったのだと思う。たぶん。だが、数十分続いたと思わせるような重たい沈黙が、俺の肩に重くのしかかり、2人を包む。
どうしたらいいのが分からなくて固まってる俺。きっと、とても情けない面してるんだと思う。情け無さすぎて顔向けできねぇ…。
「ねぇ、睦也。」
咲和は、お面をもっていた方の俺の手をとり、その手ごとお面を俺にあてた。軽く重なる手が柔らかいなぁ、とか、そんな空回った思考が頭を占める。
「私も、だから…。その、好きやで。」
その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。どういう意味の好きなのか。それともからかっているのか。たぶん、俺のした告白への返事なんだから、もちろん、そういう意味に決まってる。はずなのだ。これは、つまり、その、いわゆる、世間にいわせると両想いとやらなのだ。
その言葉が聞けた事が嬉しいのより先に、今の咲和の顔が見たくて仕方ない。と思うのはやはり変だろうか。
お面の目につけられた小さな穴からは光しか見えない。
だから、その時も咲和が1歩近づいて来た気配と、トンとお面にかかる圧にしか気付けなかった。
しばらくしてお面が顔から外された時、咲和の顔が本当に赤くて、顔から火が出そうっていうのはこんな感じなのだろうか?という他人事のような感想しかでてこなかった。とりあえずかわいかった、とだけ言っておこう。
「…や、やっぱ、ちゅーはお面越しより、直接がいい…ね。」
そういって目を閉じる咲和。俺ははじめて、さっきの圧がお面に咲和がキスしたからなんだって気付いた。
分かったとたん、顔が赤くなっていくのが分かるほどに恥ずかしかった。
「は、はやくしてよ…。恥ずかしいから…。」
緊張のあまりあふれでる生唾を、ごくりと飲み込むと、俺は咲和の頬に唇を押し当てた。とても、柔らかかった。こういうのはちゃんとキスした時に思うんだろうけど。
「ごめん、今はこれで我慢して…。」
「ばか。」
咲和が1歩近付いてきたかと思うと、今度は唇に何か柔らかいものが押しあてられた。
「こ、今回だけだからね。初めてだから、サービスね!!」
付き合いはじめた初日から、どうやら俺は尻に敷かれるらしい。
どうでした?
またいつか外伝書くかもです。