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30分小説

尊時

作者: 雨月 嶽

学校のグラウンドにひとひらの雪が舞い落ちる。

「ゆき……、か」

もうそんな季節か。

ここ最近、心なしか寒いと思っていたが雪が降るほど寒くなっていたとは。

気が付かなかった。

どこか、遠くで灯油屋の音楽が聞こえる。

『と~ゆ、18りった~、1380円』

いつの間にか吐息が白い。

雪は嫌いだ、寒いのも、冷たいのも、嫌いだ。

冬が嫌いだ。

母さんを思い出す。

俺が高校に上がる前に、死んでしまった。

母さん。

「寒いのはいやだ」

声がこぼれた。

「わたしもだよ?」

「おおおおおおお!?」

突然背後から話しかけられた。

目の前におかっぱの女の子が立っている。

「むっふっふ驚いたか?」

そりゃあ驚いた。

「私のお父さんはね、こんな雪の日に車にはねられちゃったんだ、だから雪は嫌い」

少女は頬を膨らませる。

俺はこの顔を見たことがある。

どこだろう?

「でもね、どんなに嫌っても思い出しちゃうんだ」

少女の言葉は続く。

「お父さんと過ごした、雪の日を。楽しかった日を。だからね、嫌うのはやめたの。いつまでも好き嫌いは良くないから。嫌いなら好きになる、嫌いを上回るくらい好きになる」

『嫌いなら、それを上回るくらい好きになればいいんだよ』

母さんの言葉。

「私はね、大切なものを置いてきちゃったんだ。本当はだめなのに無理言ってここまで来た。そしたら雪が嫌いとか言ってんじゃない。だから、励まそうと思ってね」

少女は歯を見せてニカっと笑う。

知らないはずの少女は、俺の知っている笑顔を浮かべる。

母さんは昔からすごかった。

俺がどんなに泣いても、反抗しても、決して笑顔を絶やさなかった。

子供ながらにすごいと思った。

どんな特撮ヒーローよりも、ヒーローみたいだった。

けれど、母さんは死んだ。

その母さんが……

少女は俺を見ると、また笑った。

死んでも、俺に会いに来る。

本当にすごい人だ。

俺が

口を開こうとすると、少女はそれを押しとどめて、満面の笑みを浮かべ

「頑張れよ」

一言告げて、降り積もる雪の中に解けるように消えていった。

俺はそれをしばらく眺めてから、ゆっくりと雪の中に歩いていった。

母さんやっぱりあんたはすごいや。


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