#2-3
とうとうきました第三部!前回言った通り、バトルから始まります!ではごゆっくりどうぞ!
「エリィ、左はA右はBのベックをインストール」
「了解」
響也の両手に白銀の拳銃タイプのベックがインストールされる。VTSでは関係がないのだが、[A]ではいちいち情報体となっているベックを電脳世界へインストールをする必要がある。エリィはその情報体を事前に編成、保管、接続する能力を持つ。響也のいうA、Bはダガーがあるかどうかで分けている。今回ではBがダガーになっている。因みにAだからダガーが付けられないという訳ではなく、戦闘中でもダガーの付替えはできる。
エリィはEWSP専用AIの試作機であり、表面上は近日公開されるAIの試運転(テスト版というのが適切だろうか)として運用している。しかし本業としてはデータ処理などの軍事的機能を持ち合わせているがために超が付くほどに重要な情報体なのだ。
――標的視認
響也のレンズに電子文字が表示される。至ってハッキリと見えてはいないその標的は、何かを振り上げて突撃を仕掛けてきた。それに対してバックステップを踏んで回避する。立ち止まっていたら確実に腰のあたりに当たったであろう攻撃がすんでのところで空振る。後ろに働く力を利用してそのまま対象から距離を取る。
背後にある電灯が、闇の中の対象をうっすらと照らす。響也の視界に映ったのは、理解しづらいものだった。
「人……型?」
色彩は他の雲状のウィルスと変わらない黒紫色をしているが、その容姿たるものは今までの姿と一変して、しっかりとした鎧のような人型を取っていた。きっとさっきの攻撃で使用したであろう武器は人間で言う両腕にあたる部分に、一mほどの長さの剣のようなものがあった。その両腕をクロスさせて構える姿は、中世の騎士を彷彿とさせた。
一瞬の静寂。
不意に騎士が左腕を下げて突進を仕掛ける。
「エリィ、データを頼む!」
「やってます!」
即座にエリィに命令するが、既にデータ収集に努めていた。響也は落ち着き払って細く息を吐き、目の前の対象に集中した。
まず右腕で肩から腰を切り落とすように振りかぶるのを横に逃げるように体を右にズラす。そしてがら空きな脇に向けて数発、左手のベックで弾丸を打ち込む。
「――なッ!?」
本来ならば体を貫通し、電子的な消え方をするのだが、弾丸の当たった部分のみ皮が捲れるかの如く気化するように消えていった。驚きはしたが、次に左腕で胴狙いの薙ぎが来ることを予測し、即座に宙返りでそれを躱す。予想通り空を切る音がしたのを着地と同時に聞いた。
「エリィ、コイツは一体なんだ!?」
「分からない! 考えられるのは――ベックの弾丸が保管できる情報量を超過しているか、装甲のようにいくつも構成層が重なってるか。きっと後者!」
エリィが言い終わった瞬間、間髪を入れずに騎士が追撃で突きを繰り出す。
(確かに弾丸が貫通せずに装甲が少しずつ捲れるような形であるならば厄介だ。でもむしろこれは……)
ウィルス本体の色も相まって闇に溶け込み、見づらくて上手い攻撃だと誰しも思うだろう。
「予想通り、ここは僕の勝ちだ」
しかし響也は無傷のまま、的確にウィルスの頭にあたる部分を切り落としていた。
ロックオンをかけられた敵は自動で見やすさが変わるため、暗い中でも楽に戦闘が行えるのだ。響也は体を捻って回転させ、右手のダガーで首を切ったのだ。
ダガーは弾丸とは違い、それ自体が吸収用のフォルダなのだ。弾丸に比べてリーチなどを含めればまだまだ調整が必要らしいが、今回のように何重にも重なる装甲層を寸断するには最適な武器なのだ。
首なし人形は、そのまま前のめりに倒れた。
「よし、切り取ったデータを送信」
「お見事、響也。新型相手によく楽勝できたね」
「おいコラ、それって僕が勝つと思わなかったってことか?」
「いや、苦戦するかなって思ったです」
「なんだと――あながち否定できないな、それ」
妙にニコニコしているAIにちょっとばかりの怒りを覚えるも、響也は否定できない部分を指摘されて困惑した。
「さっきは冷静に戦えて勝てたが……今後はウィルスも進化する、か」
今回の敵と今までを鑑みて、凶暴性が増していることは確か。響也の今後の不安が増す結果となった。
「エリィ、データは取れたか?」
「まぁ、こんなものです」
エリィから画像が展開される。そこに映ったのは何かのフォルダだった。
「今の画像はこのウィルスの構成です。この中には中国の言語が検出されました」
「中国? 最近工業が飛躍的に伸びたあの中国?」
「えぇ。しかし有力な情報は得られませんでした」
「どうして」
「マスターの情報が隠蔽すらされていない空白だったのです」
「つまりそれは――誰かの脳を直に攻撃して無力化させようってことか?」
「そういうことになりますね。完璧に無差別の犯行です」
ウィルスにはある程度の情報が詰まっている。最低限としては支配者の親機のありか、ウィルス自体を構成するファイル、行動を示すファイルが基本だ。しかし、このウィルスからは支配者が登録されていなかった。つまり、BWを乗っ取ったところで操る気はないということを示している。これが引き起こす問題は、最悪死亡事故になりかねない。
「そしてもう一つの画像。これは研究部向けなのですが、どうも不可解な点が多いのです」
「不可解な点?」
「えぇ、ウィルスを構成するフォルダが五個検出されました。それが人間の関節のような機能をしているんです」
「関節?」
「動かす部位をしっかりびっしりと機能させるようにプログラムされていて、尚且つもう一つ分かったことと言えば――」
「分かったことと言えば?」
「余計なパーツのフォルダがいくつか保存されていました。もしかすると、心臓や核にあたるフォルダを破壊しなければ、勝手に破壊されたパーツを複製された完全なパーツに交換して再生するかもしれない、ということです」
エリィが言い終えた途端に再度警報が鳴り響く。
背を向けていた方向からの反応、気付いた時には既に獲物を振りかぶっているウィルスが眼前にあった。
(――しまった!?)
普段では完全に手遅れなタイミング、反射的に両腕を頭の前に置いて尻餅を付いた。来たるであろう死の感覚を覚悟して。そんな時、たった一発の銃声が響き、視界からウィルスが消えたことに驚く。
「あれ? 生きてる」
「全く、一人で無茶して。立てる?」
「――ソフィ!?」
正面から堂々と歩いてきたのは間違いなくソフィーヤだった。彼女の手には短めに製造されたショットガン「マーベリック M88」を連想するような形状のベックが握られていた。
「よっと、ありがとう。これはショットガンかい?」
「えぇ、弾丸も普通のショットガンと同じ性質を持つわ」
「よく巻き込まれなかったな、僕」
「本当よ! 今回はたまたま私の方向に背を向けて、尚且つあなたが尻餅をついていたからウィルスの上半身を吹き飛ばせたけど、もしそうじゃなかったら響也のアバターごと吹き飛ばす羽目になったかもしれないんだよ?」
「それは――いろいろと怖いな」
今となっては緊急回避ともされている友軍誤射だが、これは五感のうちいくつかは擬似的に死を味わうのだ。それは恐怖の一言に尽きるであろう。ソフィーヤはそんなことはしたくはないのだ。
「しっかりしてくださいよ、先輩」
「なんか妙にツンツンしてるね、ソフィ」
「気のせいじゃないですか?」
しかしながら、ここまで態度が少々刺々しすぎるのは響也にとっては心外だった。
「そういえば、どうして僕の居場所が分かったの?」
「へへ~ん、エリィちゃんから届いたSOSで警報のあった場所をGPS機能で表示させてくれたんだよ~」
意外な事実に響也は目を丸くした。全くもってそんなことをした姿を響也は見ていないからだ。
「エリィ、お前いつの間に?」
「だから警報が鳴った時ですよ。いつも一緒にベッタリしてるお二人さんなら、お互いにウィルスに遭遇したらこんな風に情報が取れれば楽でしょう?」
「――まぁ確かに助かったな、うん。改めてありがとう、ソフィ」
「ホントですよ。でもまぁ無事でなにより、かな?」
話がひと段落した途端に図ったように電話がかかって来た。
――着信 貞喜
「なん――げ、忘れてた」
「どうしたの?」
「親父を本部に送る約束、すっかり忘れてた」
「もしもし?」
「遅いぞ響也! どれだけ待たせる気だ!?」
接続すると、レンズ越しに等身大の貞喜が現れた。通信相手のアバターは場所や空間の使用状況に応じて変化する。今回の場合は人気の少ない外のために等身大なのだ。通話接続した途端にすぐこれだ、と響也は心で呆れた。まぁウィルスと戦っていたことなど分かりはしないのだろうが。正直死を連想してしまった響也にとっては面白くなかった。
「あー、ごめん親父。ちょっとウィルスの相手してた」
「嘘こけ! そんな都合よくウィルスに出会うか!」
「あの、貞喜さん? ウィルスは本当にいましたよ」
「何!? それは本当かエリィ!」
「ちょっと待て! なんで僕とエリィの扱いが違うんだ!?」
「出来の悪い息子だから」
「それが子に対する親の態度か!?」
響也はあまりの理不尽に涙しそうだった。ソフィーヤが近くにいることもあってそんなことはできなかったが。
「いいから早くしてくれ、時間がない」
「――了解」
「と、いうわけだ」
「ちゃんと説明して」
「話してもないのに急に“と、いうわけだ”なんて言われて理解はできませんよ?」
「……悪かった」
正論を言われて立場のなくなった響也は少々気分が落ち込みがちだった。
「――ということで、一旦親父を本部まで送らなくちゃいけないんだ」
「私も行くよ。さっきのウィルスのこともあるし」
「そうですね、ソフィーヤさんも一緒に行くべきだと思います。時間も遅いですし、ソフィーヤさんみたいな美人は夜道に一人というのは少々危ないですから」
「やだエリィちゃんったらお上手!」
「うん、決まったなら早く行こうか。遅くなっても親父が困るだけだから」
「もう充分遅いけどね」
「……い、いいから行くぞ!」
「あ、待ってよー」
どこか和やかな雰囲気で空港へ向かう響也一行。ただし響也は内心酷く荒れていた。ウィルスの新型、しかも戦闘に長けて進化を遂げていること、そしてその新型の対処方法の不明確さ。これらが響也の精神をずっと不安に駆らせる。響也に限らずソフィーヤも似たようなことを考えていた。
「ふむ……装甲は弾丸には有利だが斬撃には脆い、か。さすがは試作型、まだまだ甘いな」
いつぞやの集会のメンバーの一人が据置型の機械を弄りながら呟く。その機械の画面には響也とソフィーヤの戦闘したデータが詰まっていた。
「しかし、もう少しで完成する。もう少しで私の完璧なる兵士が完成する……!」
キヒヒ、と不穏な声で笑うメンバー。彼は一心不乱に、据置型の機械をずっと弄っていた。
◇ ◇ ◇
「う~……ソフィちゃんの言ってること、分かんなかったなぁ」
普段のポニーテールを下ろし、ベッドに寝っ転がる小夜。頭の中ではある感情についてを考えていた。
「恋ってなんだろ。響也君は尊敬できる人物だし、そんな人と付き合ってるソフィちゃんも尊敬できる人なんだけどなぁ……私、他人のこと見下しすぎてるのかも」
ふと短髪で爽やかなある小夜よりも(比較して)成績の悪い男子生徒の図が頭に浮かび、頭を振って真っ赤になりながら自身を否定した。
「ありえないありえない! なんでアイツなのよ! なんでアイツのこと考えると――」
何も意識せずに小さな窓を開く。同時に少し冷たい夜の風が吹き込み、頭がスッキリしていくような感覚を覚えた。
「なんでアイツのこと考えると、他のことが手につかないんだろ」
初めての感情に戸惑う乙女、小夜は青春をする女の子になっていた。
はいどうも、やっと物語が動き始めます!人の形をした新型ウィルス、装甲を持っているので少々戦い辛い相手です。「弾丸が……効かない、だと……?」はい響也くんコメントありがとうございます。最後辺り、どこぞのマッドサイエンティスト(?)と小夜の青春発覚物語がちょくちょく入ってますね。果たしてこれがどんな風に展開されるのでしょうか?乞うご期待です!
※そういえば少々E.W.に使われる単語の意味が分からないなどありましたらコメント下さい。意見があった場合には単語録を作成致します。