#1-2 ◆
第一話のその2です、どうぞごゆっくり。
2100年 四月上旬。
「中将、ホントに私がやらなくてはならないのですか」
『諦めろ。十代に見える童顔は少尉以外には特にいないからな』
V・R(ヴィジョン・リフレクターの略)で通話をしたまま、徒歩で何処かへ向かう冬の制服姿の男性――もとい青年が深い溜息をつく。
実際は従来の通話とは違い、V・Rでの通話は全くそれといった動作が見受けられないほど行動がない――というか、まず動きすらない。
歩きながら使っていれば、ただV・Rをかけているだけにしか見えないのだ。
「いろいろ納得いかないですが……まぁ、了解しました」
『毎日午後十二時には通信を入れるように。くれぐれも通信を怠らないでくれよ』
「了解です、それでは」
そう言った途端、会話をしていた男性にノイズが掛かり、消えた。
そしてやはり傍から見ればその様子は全く分からないのだ。
裏付けのように、響也の横を平然と、怪しむ様子なく通り抜ける同じ学校の生徒たち。
誰も彼もが若く、元気ある姿だった。
ある生徒は友人とじゃれ合い。
ある生徒はグループを作ってベラベラいろんな話をして。
ある生徒は響也と同じようにV・Rをかけつつ歩いて。
懐かしく感じつつ若いなぁと思う自分が妙に悲しくて目線を正面に戻す。
「響也、少し精神に乱れがあるです。大丈夫ですか?」
不意に画面の端からひょこっと顔を出したのは金髪オッドアイのミニマム少女。響也を労わる言葉が妙に機械的でちょっとばかしおかしな感じがした。
それでも少し嬉しくて、口元を少し綻ばせて微笑みかけた。
「大丈夫だよエリィ、ありがとう」
「いえいえ、そうプログラムされているだけですから」
決まり文句みたいな台詞を言いつつも、顔を赤らめて背を向けるのは何故だろう、本当にAIのプログラムなのだろうか。
因みにアバターに反映されないように、アバターの思考言語ツールを介さずに考えるような技術もある。
「あ、もうそろそろで目的地ですよ」
エリィがナビ機能で目的地が近いことを知らせてくれた。響也はナビの指す方角に目線をやると、近代的な校舎が白い壁を挟んで映った。
『県立高嶺学園』
従来の書類を多用した勉強法とは違い、電子機器を利用して教育を行う、今でも数少ない学校。この高嶺学園は授業にV・Rを使用するため、生徒は絶対に購入するように指示されている。これは資源の削減になると言われ、支持する人間も多いんだとか。
(それ故に、か)
響也はこれに関しては半分肯定、半分否定だった。勿論世界の緑を減らす必要が軽くなるのも、効率が良いのも納得はする。しかし、だからこそB・Wの洗脳が集団で起きやすいのも事実。響也は個人的には推奨できないと思っていた。
「エリィ、学園のデータパンフレットはあるか」
「ちょっと待ってください――ありました」
校門前で、まず校長に挨拶をしなくてはと校舎内のパンフレットを開くよう指示し、開かれたデータを“歩きながら”閲覧する。止まっていたら変な奴と思われるからだ。
故に全く気が付かなかった。
「はい兄さん、こっち向いて~」
「え――ふおッ!?」
まさか、急に左斜め前から機械音と共にフラッシュが瞬くとは。一切警戒をしていなかった響也は、このフラッシュのおかげで視界が少し暗くなった。
(もしや襲撃か!? ――エリィ!)
脳裏に例の“敵”が浮かんだ。
もしかしたら登校中の自分のV・Rにハッキングをかけていたのかと焦りつつ、現在の状態を確認するための一番の手を考え、エリィに呼びかけた。
しかし、それは結局のところ、杞憂だった。
「響也、違うですよ。あれは“カメラ”です」
「え」
エリィに言われて、視界がある程度回復するのを待つ。
そして段々と見えてきたのは。
「えっへへ~、新入生の驚き顔写真ゲット♪」
視界が回復した途端に響也は驚愕した。なんと高嶺学園の女子生徒と思しき女の子が木の枝にコウモリのようにぶら下がって旧電子機器に分類されるカメラを弄っているではないか。しかもスカートが捲れているのに本人は一切気にしていない様子。
「あ、あのさ、スカート捲れてるから降りたらどうかな」
ちゃっかりとあるものを見てしまったと思った響也は顔を少し赤くしてそっぽを向き、降りるよう促した。しかし、返ってきた言葉は意外そうな声だった。
「へ~、新入生君って紳士なんだね。でもこれってスパッツなんだよねっと」
身軽に枝から飛び降り、足に異常が無いか確認する女の子。その女の子を、響也はV・Rを外して完全に回復した視界で彼女のことを見つめた。
第一印象はちょっと身長の低い女子。薄く茶色がかった黒髪のハーフツインテール、ちょっと下がったタレ目に幼女(?)体型。一応学園指定の制服を着ているが本当にこの子は高校生なのだろうか。
「えっと~、私の顔、虫でも付いてる?」
頬に人差し指を軽く当てて小首を傾げ、困ったように見せる彼女。どうやら響也は他人をまじまじと観察する癖が付いてしまっているようだ。
「あぁごめん、何も付いてないよ。ところで君は?」
「ん、自己紹介してなかったね。私は星野 心音。生徒会長として新入生君を校長先生のところまで案内する役目を担ってます」
右手の親指をグッと突き出し片目をばちんとつぶる心音と名乗る少女。確か高嶺学園の生徒会長は、春の前期期末試験の後に二年生から選出される手筈になっている。
そして今は前期中間試験の数週間前。
「ってことは、三年生?」
「ご名答、新入生君」
「そんな馬鹿な!?」
「なんだって?」
「痛っ!? 会長、カメラは叩くものでは――痛っ!!」
響也は今までの馴れ馴れしい言動と先程の無礼を詫びた。
生徒会長は随分と身長にコンプレックスを持つことが分かった。きっと今まで散々言われてきたのだろう、表情には出さずとも殺気の類が感じ取れた。しかしカメラとは時に武器となるんだな、と響也は他人事のように思った。
「全く、君がそんな失礼な生徒だとは思わなかったよ」
両の頬をぷぅと膨らませて起こる心音会長。そんなぷりぷりという擬音が聞こえてきそうなほどに膨らませる姿は誤解されてもしょうがない気がするんだが、と言うのが本音だが。
「すいません。ところで今更ですが、どうして僕の写真を撮ったのです? しかも旧型のカメラで」
「あぁ、あれは高嶺学園恒例の新入生と転入生の写真を、このカメラで撮るっていう決まりがあるの」
「なぜ僕は驚き顔を?」
「面白いでしょ、その方が」
「……」
響也はあまりの意外さ(曖昧さ?)に心の中で唖然とした。
「さて、着いたんだけど」
コンクリートで固められた周辺の壁とは随分と雰囲気の合わない木製のドアの前に立たされる響也、その左隣に心音。心音は頬を掻きながら響也に申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「なんか込み入った事情があるって学園長に言われてて、ここからは新入生君一人で頑張って」
「そうなんですか」
「うん、ごめんね」
「いえいえ、気にしてませんよ」
どうやらここから先は“お仕事”絡みのことらしい、と響也は踏んだ。心音はどういった経緯で責任感を感じているかは分からないが、どうもしっかりしたお姉さんタイプの性格らしい。身長以外は。
「それじゃあまたね」
「えぇ、ありがとうございました」
いえいえ、などと言いながら笑顔で片手をブンブン振って何処かへ向かう心音。これがまた子供らしさを強調しているように見えるから困る。響也は軽いお辞儀をしてドアに向き直り、軽く深呼吸した。ドアノブ付近に赤いボタンがあり“呼”と書いてあった。そのボタンを押し込んで声を掛ける。
「転入生の静内 響也です」
『どうぞ』
案外早めにドア越しから返事が返ってきたことに驚いたが、表情には出さずにドアを開く。緊張からか、いつもより余計な力が手にこもっていた。
「高嶺学園へようこそ、静内 響也君」
ドアを開いた先には、強いウェーブの短い白髪に上下共に黒、中に着ているハイネックは赤と、案外バランスの取れたカラーを纏った白く皺の入った肌を持つお婆さん――もとい学園長が回転する椅子を半回転させて響也の方向へ顔を向ける。
「初めまして。この度は高嶺学園への転入を」
「あー、そういうのはナシナシ」
「はい?」
キリッと顔を引き締め普通の挨拶をした途中に学園長が片手をひらひら振って中断を促した。
「事情は分かってるから。アンタEWSPなんでしょ」
「――何者ですか、貴方は」
「なぁに、しがないただの学園長さ」
学園長はケラケラと笑って答える。
普通に考えてEWSPのメンバーが関連のない他人に知れ渡る可能性は低い。そう考えれば。
(まさか、この学園長がウィルスを?)
響也が敵視を孕んだ目で学園長を睨む。
それに気付いた学園長が、つまらなそうに軽く口を尖らせて、それでも少しおどけた様子を残しつつ告げた。
「そんなに睨まないでおくれよ。ただコネがあるんだよ」
「コネ、ですか」
「こらこら。レディに秘密はつきものだぞ」
「――了解しました。ところで私の所属予定のクラスはどこですか」
響也は一切崩れない学園長の飄々とした態度に諦め、話を切り替えた。
「あぁ、既に大人の君は試験なんて簡単だろう。第二学年、最大のクラスAに決定した」
「実力ごとにクラスを分けているんですか、この学園は」
「そう、実力のある人間は下を見て“ああはなるまい”と思い、逆に乏しい実力の者は上を見て“ああなりたい”と思い、それぞれが学業に意欲を持たせるのがこの学園の方針だ」
「その願望が報われることはあるのですか」
「勿論、定期テストの実力次第さね」
「なるほど、つまり定期テストごとにクラスが入れ替わる、と」
「大正解。ま、くれぐれもヘマをしないよう頑張ってくれ、以上」
出てっていいよ、そうしてそれ以上はなにも告げぬと言うかのように椅子を回転させて背を向けた。
あんまりにも雑な態度に、ホントに学園長なのかと疑問を持ちつつ、見える見えない関係なしに一礼して廊下へ出る。
廊下に出た途端に、意外性によって疲れたことを表現するかのように深い溜息をつく。今なら透過度の悪い息が出るかもしれない。
「どうしたんですか」
そんな響也に横から声がかかり、疲れたままの顔で響也に声をかけた誰かに目線を移す。その視線が捉えたのは、黒髪のポニーテールが特徴的な女の子だった。身長はほんの少し響也より低く、意外と大きくて少しツリ目であった。
「いえ、なんでも。えーっと……」
「あ、名乗ってなかったね。ボクは苅谷 小夜、第二学年の元最高得点独占者だよ」
両の腰にそれぞれ手を当て、大きくも小さくもない胸を張り、次に「えっへん」とでも言いそうな態度を取った小夜。響也はある単語に引っかかった。
「最高得点独占者……ってことは、二年のAクラス所属ですか」
「へぇ、よく分かったね。正直言えば、元が付いている時点で違うかもしれないと思うのが普通だと思うんだけど」
「いや、成績が落ちるとしてもそう簡単にクラス落ちはしないんじゃないかと踏んだだけです。ところで」
「ん、何かな」
「ここに転入決定した自分も二年Aクラス所属になったので是非クラスの場所を教えてほしいのですが」
「ふぅん。それくらいなら構わないよ。じゃあ早速行こうか」
「はい、お願いします」
軽く話してみたところ、響也は小夜に対し案外打ち解けやすそうなフレンドリーな印象を受けた。こんな人がクラス内にいてもらえるのはありがたかった。
「そういえば、君の名前聞いてなかったね」
校舎の廊下を響也と小夜の二人で歩いていると、急に思い出したように小夜が口を開いた。
「そういえばそうですね。静内 響也です、よろしく」
「響也君ね、よろしく。ボクは小夜でいいよ。あ、あと敬語は無し!一緒のクラスの友達だからね」
(友達……か)
小夜に向けている表情を崩さずに、響也はどうしょうもない違和感を抱えている自身にモヤモヤしていた。それに一切気付かずに話しかけてくれる小夜に、どことなく劣等感を感じた。いや、劣等感というより罪悪感というべきだろうか。少なくともいい気分ではなかった。
「あれ?」
「ん、どうかした?」
不意にピタリと足を止めた小夜。響也は何事かと少し先で振り返る。
「静内、なんかどっかで聞き覚えがあるような」
(なんだと?)
「う~ん……」
EWSPについての情報を持っているならばこの状況はマズイ。響也にとって、一切触れてはいけない情報を小夜が持っているとすれば口止めも考えなくてはいけない。心の中で何かを覚悟した、響也は一瞬で嫌な汗が背中を流れるのを感じた。
「え~……あ、あぁああああッ!?」
「!!」
「そうだ、ボクの記録を壊した奴の名前だ!」
(はぁ? なんだそりゃ)
心配して損したとはこのことだろう、無駄に気疲れした響也は溜息を隠しきれなかった。
「どうしたの、溜息なんかついて。あ、別に気にしないでね。むしろ尊敬してるくらいだから」
「尊敬?」
「そ、この学園の人間ってテスト順位に向上心がなくて、全然ボクを抜こうって意欲が感じ取れなくて退屈だったんだ。君っていう目標ができたから退屈しなくて済みそうだから嬉しいんだよね」
「へぇ」
今となっては珍しい、自分を高めようとする意欲のある学生のようだ、と響也は心で思った。きっとポジティブ思考もあるんだろうから、学力的に将来有望かもしれない。
ここまで考えた途端、HRが近いと告げるチャイムが校舎に鳴り響く。
「げ、早く行こう!」
「了解」
こうして二人の望まない朝のランニングが始まった。
◇ ◇ ◇
《皆さん、今日は新入生が入ってきてから間もないが、転入生の紹介だ》
平凡なドアの向こう側から男性の担任教師の野太い声が聞こえる。
《入ってきなさい》
至って普通にドアを開け、中に入る。所々で「身長デカッ」とか「結構普通」なんて聞こえるが響也は一切反応しなかった。ただ淡々と自己紹介を始めることにした。
「静内 響也です。父親の仕事の関係により転入してきました。皆さんどうぞよろしくお願いします」
嘘は全く言っていない。響也はギリギリ使える範囲までの単語の中から無難に過ごせるものを選んだ。あまり目立つのは潜入捜査としては致命的だからだ。
「因みに転入試験にて、成績優秀者として名を馳せていた苅谷を抜かすなんて言う素晴らしい実力を持つ。皆もよぉく見習うように」
この担任の一言で響也が不安に駆られたのは言うまでもない。
「それじゃ、成績最優秀者は一番最前列の窓側に座ってくれ」
「……はい」
ざわつく教室の中、頭を抱えたくなった響也に対して手を振る小夜も、先程の担任と似たような類だった。
◇ ◇ ◇
過去に受けた筆記授業とは使い勝手の違う授業を終えて時は放課後、急に貞喜から通信が入った。人目につかないよう教室の中に人が少ない時を見計らって接続をした。電脳世界の木製の机の上に、また縮小された父親が映る。
「どうした、親父。定期通信はまだのはずだが」
「勿論分かっている、そういう話ではない。ところで」
「ん?」
「こちらの画像だと座っている形のお前が映っているだけで、なかなかに面白い光景だぞ」
なんということでしょう、机と椅子が表示されていない向こうでは響也は変な体勢で宙に浮いているそうだ。
「どうでもいいだろ。立って通信していたって変な奴に見られるだけだ」
「分かってる。さて、いい加減本題に入ろう。お前、校内で目立ってはいないよな」
「初日からは分かりませんよ、そんなの」
「お前、相当疲れているようだな」
「うん……新しい生徒に対する質問攻めがこんなにキツイなんて思ってなかった」
「まぁ成績最優秀者って設定だからな」
「やっぱりあんたのせいかってか目立ってるじゃん」
思いっきり溜息をつく響也。その姿に貞喜はいろいろ面倒だからな、と言ってけらけらと笑っていた。
「んで、用事は何さ」
「あぁ、V・Rの補助用具やらなんやらといった最新用具ががそろそろ利用可能な形で開発されるからデータを送っておくと、開発部から連絡が届いた。サンプルデータの送信も兼ね備えてお前に押し付け――いや、手伝ってほしいそうだ」
「あー、いろいろ文句は言いたいが、とりあえず分かった。帰宅したら連絡するからその時にデータを寄越して。道具はすぐ届く?」
「いや、結構かかりそうだ。まぁ首を長くして待っているといい」
「そうさせてもらうよ。じゃ」
「ふぅ」
「よう、電話は終わったか?」
「!?」
クラスで最初は人間は馴染めないもの。それはいつどんな学校でも似たようなパターンが多い。多少声を出したって気にする人間は少ない。通信を切った途端、響也に軽い調子で声が掛かったのに驚いたのは、響也の自論が一気に覆されたからであった。
ただその驚きは、相手にも同じような反応をもたらした。声をかけた本人は後頭部を掻いて申し訳なさそうな表情をしていた。
「別に驚かすつもりはなかったんだがなぁ」
「ごめん。君は?」
「俺か? 俺は久米 タケル。剣道部所属だ、よろしく」
久米と名乗るこの男は妙に響也より大きく、しっかりした体をしていた。よく言えば野性味溢れる髪に強気そうなツリ目をしていて、その眼が響也をじっと捉え続けていた。
「剣道部? こういう学校じゃあ今時珍しくないか、それ」
「剣道を馬鹿にするな」
険しい表情で響也を睨む久米。電脳世界が普及している今、先進を行く学校では実技系の部活動は取り入れる場所は少ない。そのことを響也は指摘しただけなのに久米のこの過剰な反応、少し気圧された。
「気に障ったようだね、ごめん」
「あ、すまんすまん。俺、実家の両親が剣道を教えてるから、衰退していきそうな云々かんぬんって言われるとイラついちまうんだ」
焦りつつ両手を開いて敵意がないことを示して目線を反らすと、タケルは申し訳なさそうにまた頭を掻き、ははは、と苦笑いしながら謝罪をした。案外真面目そうな奴だ、と響也は思った。
「それで、僕に何か用でも?」
「あー、忘れてた! あのよ――響也、だっけ」
「そうだけど」
「俺のことはタケルでいいぜ。えっとな、この学園の男子の間でシューティングゲームが流行ってるんだ」
「もしかして、VTS(virtual target shooting)のこと?」
「おう、それそれ! 購買とかの賭け事はよくこれを使うから、お前も慣れといた方がいいぜ!」
「分かった、ありがとう」
「実はそれだけなんだよな。ま、これからよろしく!」
「あぁ、こちらこそ」
気さくに笑いながらあばよ、と時代外れな台詞を投げかけて教室を去るタケルの背中をボケっと眺めながら、あいつは結構いい奴だと心で感じていた。
◇ ◇ ◇
放課後の正午くらいに帰宅してすぐにV・Rを起動させ、貞喜をコールした。そんなに待たずして繋がり、暇人なのかと疑問を抱きつつ、響也は報告をする。
「以上が初日の感じです」
「よかったじゃないか、友達が作れて」
本当の歳は離れているけどな、などと笑いながら通信する響也、相手は勿論貞喜だ。意外にも今回の通信にはエリィも参加している。
「貞喜さん、聞こえます?」
「おぉ、君がエリィか。大丈夫、聞こえているし、ちゃんと見えている」
「プログラムは正常に稼働しているみたいだね」
そう、響也のV・Rにしか映らないエリィを通話の時やアプリ起動時に表示できるようなプログラムを追加し、その試験を兼ねての通信だった。
「んで、例のものは」
「VRS(vision reflector supporter)グローブと簡易電子フィールド、それとお前用の汎用型ベックだな。ベックについてはデータを送る」
「VRSグローブと簡易電子フィールドの説明を頼む」
頭に疑問符を浮かべながら詳細を促すよう響也は頼んだ。すると答えたのは父親ではなく、新たに縮小された父親の横に出現した白衣眼鏡の定番スタイルの研究員が姿を現す。
「えっとですねー、まずグローブです。これはV・Rの行動脳波感知機能を補助する手袋で、簡単に言えば行動のデータを座標的に細かく分析して圧縮、その圧縮データをV・Rに反映するんです。そして簡易電子フィールドなんですが、これはあるデザイン募集中のデバイスにある起動専用式を組み込み、ある特殊電気を発して電子の膜と言いますか、壁を作り出す訳です」
「うむ、分からん!」
「両腕を組みながら偉そうに答えるんじゃない。使い方についてはVTSでのシュミレーションデータを送るから、練習しておけ。今後にきっと役に立つだろうから」
「了解、それじゃ」
「あぁ」
通信を切った途端にメールが届き、開封してみると、先程言われたデータが現れた。一旦は置いとこうと思い、ベックの欄を開く。
「これが、僕専用のベックか」
送られた中の画像には、かつてアメリカで開発された拳銃“デザートイーグル”を彷彿とさせる形が映されていた。不思議なことにその画像には(1)と書かれており、(2)を表示させると、先程の拳銃に電子的なダガーくらいの長さの薄い刃を繋げた銃剣のような画像が展開された。
確かに汎用性のあるベック、敵の根城である可能性があるところでの潜入任務ではありがたいことだと、響也は感動しながらも冷静に思っていた。
データファイルの一番下にあった注意書きに“攻撃力はそこまで高くはない、遠距離の敵には不利”とご丁寧に書かれていた。
「まぁ、中距離では有利だろ」
自分専用のベックを渡されることは、EWSPに任務を与えられる程度の実力を認められたことを意味する。響也は内心嬉しくて飛び上がりそうになったが、訳も分からず自身を落ち着けていた。口元だけはニヤけていたが。
VRSアプリをダウンロードし、響也は嬉々として道具の扱いの練習に走った。
皆さんおはこんばんちゃー、紫苑です。
今回はちょっとクオリティ低かったかな?
正直この話はメインの登場キャラクターの説明です。
ちょっとばかし癖のあるキャラかな…?
未だキャラクターについては勉強中です。
まだまだ勉強不足ですが、どうぞ今後も生暖かい目で見ていてください。
あ、アドバイスも募集中です、よろしくお願いします。