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#6-2

書けたので紅茶のお供にどうぞ。

 データボックス、それは現実世界で扱われる、情報体の箱だ。ほぼ直訳だが、まぁ気にしてもしょうがない。その中にあるデータは無線でエリィが対象のV・Rと同期させ、自由に取り扱える。と言っても不思議なもので、それらの通信は勝手に行われる。人間的に言えば、耳鳴りのような感じが頭の中で鳴り響く感じだろうか。それが合図になっている。もう響也のモノになってから随分経っているのだから、これくらいの推理は成せて当然のことである。


 「響也のモノ……あぅ、恥ずかしいことを考えてしまったのです」


 いや、そんなことよりも仕事仕事、と頭を振り、目の前にあるデータの塊を持ち上げる。重量なんてものは感じないが、なんとなくよいしょ、と言ってしまうのも、人間の響也と長いこと一緒にいるからなのかもしれない。


 「あら、結構簡単なロックですね。では――ちぇすとぉー!」


 なぜか握り拳を作り、小さな腕を振り上げてハンマーのように叩きつける。ちなみに簡単に殴ったように見えて、これは開くための鍵となるデータを握り拳に送り、それをぶつけることでデータの承認を行うのだ。

 殴りつけたと同時に構成体と思しき情報体が飛び出し、エリィはそれら全てに目をやる。単純に目をやっているのではなく、これはマークを付けているのだ。バラバラになったデータにマークを付けることで、一気にひとつの新規作成フォルダに収容できるのだ。それが構成体の場合、半自動的に組み立てられる。勿論、これもエリィの能力だが。

 この時のエリィには表情なんてものはない。さっきまで笑っていた顔が嘘みたいに消え去る。人間らしさと情報体らしさ、いわば矛盾の存在が現れる瞬間が、こういった作業なのである。


 飛び出た情報体にマークを付け終え、一気に収束させる。


 「――ふぅ、頭が重いです。もうそろそろ私の処理能力の更新をしなくてはいけないかもです」


 えへへ、と頬を掻きながら笑う。誰に言うでもなく。どことなく寂しい感じはするが、そんなことはとっくのとうに慣れた。作りたてのファイルを開き、二つにまとめられた情報体を展開させる。目の前に人型の、現実世界でいうマネキンのグラフィックが開かれる。それは低速でクルクル回っていた。


 (まぁ、私からすればこれも“マネキン”なんだけどね)


 そんなことを思いつつ、エリィはそのグラフィックに目を向けていた。その人型は当然情報体。そして、それを眺めているエリィも情報体。こうして両目で眺めているのは便宜上人間に当たる存在だからだが、やろうと思えばエリィの性能と、保存されている容器の容量次第でどんなところでも視界に収めることができる。それを行わないのは、結局は市販のV・Rではそれが成せる条件が揃わないからだ。

 少し話が反れたが、要はお互い作られた存在で、なぜその空間でエリィが人間のような能力を持ち、人間のような態度を取るのかにある。


 データとしての自分。

 人間としての自分。


 本来は情報体にあってはならないものが存在し、行動に支障をきたしてしまう。こんな矛盾のような存在の自分は一体なんの為に作られたのか。全ては――。


 (貞喜さん、あなたの目的は一体……?)


 かつて自分の息子である響也に行ったことも、それに加えて自分を作成したことも、いくら考えたって答えが出ないままだ。そもそも、貞喜の過去の経歴すら分からない。実は調べても偽物のデータしか出ないのだ。


 貞喜の存在、それが現段階でのエリィの謎であった。


 とりあえず作業が終了したので、響也のV・Rのバイブレータ機能を強制発動させた。


    ◇ ◇ ◇


 『だから、いい加減に僕の話をだね』

 『いいじゃない、減るもんでもないんだしぃ』

 『そりゃ人間の身体は減ったら恐ろしいわな』

 『まぁ諦めろ、響也』


 画面には三人のデフォルメされた姿が電脳世界にプロテクト・スーツを中心に立っていた。その三人はいわゆるSD化というもので、エリィと同じ三等身キャラとなっていた。既に情報の確認は終了しており、なぜか通信を切らないままに雑談タイムに変わっていた。


 「なんだか周りの皆さんが自分と同じ身長って新鮮ですね」

 『ねー!』


 妙に上機嫌なソフィ。それもそのはず、このグラフィックを展開する前に告白して、親に認めてもらったのだから。まぁ本気ではないかもしれないが。


 『というか、なんでエリィは縮小されないんだ?』

 「我が家だからです」

 『なるほど』


 そういえばそうだ、と考える。しかし、元々この世界は自分のいる世界だ。多分それが理由となってこうして響也たちと同じ身長なのだろう。この回答に至るまで一秒もかからなかった。


 『ねぇ、響也。結婚旅行どこ行こっか!』

 『いいから情報の確認しろ』

 『冷たい夫だなぁ、響也は』

 『あんたも用が済んだならなら帰れ』

 『……冷たいな』


 結婚もしてないのに結婚旅行なんて考えているところからも、エリィがいない間になにがあったのかは大体予想できる。


 (おめでとう、ソフィ)


 ただそれだけ。そんな一言が、喉を通らない。声にならない、というよりも音声にならない。シビアに反応するはずのこの能力が発動しないのは、どこかやるせない気分にさせる。


 (そもそも、私に“気分”などというものがあるのだろうか)


 自分自身、どうしてこうも人間に似た思考を持つのか理解できない。全ての元凶はきっと。


 『なぁエリィ。お前はどこがいいと思う?』

 「は、はぃ?」

 『だから、響也とソフィの結婚旅行だ』


 貞喜、ただひとり。


 急に話しかけられて少々ビックリしたものの、ちょっと言い淀んだかのような風に偽ることができたらしい。貞喜の笑顔に少しも変化は見られなかった。


 「そうですね、ハワイなんかはどうでしょう?」

 『『『熱い』』』

 「即答ですかそうですか」


 即効で却下される。有名どころを適当に言っただけなのにこの扱いって……。


 「そんなことより、確認が済んだのなら通信を切ればいいじゃないですか」

 『なに言ってるんだ、エリィ』

 「え?」

 『お前はそんなに一人になる必要はないぞ。お前には散々迷惑をかけたがな。休めはしないだろうけど、一緒に話さないか?』

 「……ぇ?」


 予想だにしない返答が返ってきた。つまりは、自分も会話のメンバーの一人になれということ……?


 『そうだよ、エリィちゃんも一緒に話そうよ! エレクトリック・ワールドについてはこの中で一番詳しいでしょ?』

 『いや、一番詳しいのは私だ』

 『“旧型”の知識なら、な』

 『おま――ッ!』

 「……ふふっ」


 面白い。それだけなのに、どうしてか人間らしい感情と感じる。本当の感情ではない、でも逆に本当の感情なんてものも分からない。


 ――なら、考えてもしょうがない。


 「しょうがないですね、加わってあげますよ」

 『なんで上から目線?』

 「気にしたら負けなのです」

 『誰にッ!?』


 貞喜についても気がかりは多い。しかし、無駄に考えたってデータバンクに支障ができるだけ。そうなってしまうのは自分がAIだから。ならそこはAIらしく、無駄な情報は省こう。


 『なんだか今日の響也ってツッコミに徹してるよね』

 『そんなことでは疲れてしまうぞ』

 『誰のせいだ誰の!』

 「さぁ? 誰でしょうね」


 今はおもしろそうに話している輪の中に混ぜてもらおう。“AI”としてでなく“エリィ”として。


    ◇ ◇ ◇


 「メェン!」


 タケルと郁美の試合が始まってから、既に数分経っている。時間的に見れば軽そうに見えるが、試合をしている当の本人たちはとても長く感じるのはよくあることだ。


 「甘い」

 「クソッ!」


 先程からずっとタケルばかりが攻め、それを郁美は最小限の動きでいなして躱す。それが何度も続いているのだ。今さっきの面打ちですら、郁美が構えている状態からちょっと竹刀を上に持ち上げただけで回避している。ちなみにそれをすることでタケルの面打ちの軌道がずれ、郁美の横に逸れてしまうのだ。


 「お前はまだまだ単純なんだよ」

 「なにをッ!? これでもかよ!」


 軽く興奮したタケルは面を打つ時のように腕を振り上げ、郁美が反応したのと同時に胴に向けて振り抜く。


 (もらった!)


 そして、タケルの手には――胴に当たった感触は来なかった。


 「だから、甘いと言っている」


 郁美は竹刀を握っている両手の間の柄で攻撃を受け止めていた。そしてその距離は。


 「メェン!」

 「んがっ!?」


 完全に郁実の距離だった。




 「あー、また負けた……」

 「そんなに負けてるの?」

 「一回も勝ったことねぇんだよ、悲しいことにな」


 試合が終わった途端、小夜の隣に作法もなにもなくドカッと座り込む。どうやら心底疲れているらしい。


 「理由は簡単さ」


 いつの間にか傍に寄っていた郁美が話しかける。静かに立っているはずなのだが、丁度逆光になっているせいか威圧感らしきものが感じられる。


 「お前は甘い。俺の頭にガツンと入れりゃあいいものを、躊躇(ちゅうちょ)しているからそういう目に遭うんだ」

 「……」


 タケルは反論しない。反論せず、視線は地面に固定されたまま、動こうとしない。郁美はそれを一切気にしてないという風に続けた。


 「今度やる時は、そんな軟弱な精神を捨ててかかってくるんだな」


 そう言い捨てて、郁美は去っていった。なんというか、普段から全く運動が苦手そうに見えた郁美がこうも強さを見せ付けられるほどのレベルがあったとは予想だにしていなかった。小夜はその驚きのために黙り込んでいた。




 「それにしても、どうして面と籠手を付けなかったの?」

 「アイツはカッコつけてるから」

 「仲良くカッコつけ、ねぇ」


 郁美がさってしばらくの沈黙の後、小夜がタケルにさりげなく質問を投げかける。どうやら調子に乗って郁美が装着しなかったのが気に食わないようで真似したらしい。どこか子供っぽくてついつい笑ってしまう。


 「仲良く、か」

 「タケル?」

 「ん? あぁいや、なんでもない。ちょっと着替えてくる」

 「う、うん」


 郁美に関する話をすると必ず不機嫌になるタケルだが、今回は違う形で不機嫌になったようだ。試合に負けたからか、それとも今さっきまでの間の会話になにか琴線に触れるようなことでもあったのだろうか。


 考えようとも全く思いつかないので、とりあえずはタケルを待つことにした小夜であった。


 「存外、武道場に一人って寂しいものね」


 ぽつりと呟いてみても、やっぱり寂しさは取れないままであった。


    ◇ ◇ ◇


 「ふぃ~、久々にいい汗かいたわ~」


 職員室に入るなり、おやおやもうおじさんですかな、と職員室で茶化される郁美。そもそも郁美は生徒にはイケメン(いい意味でも悪い意味でも)と言われ、教師の中ではイジり甲斐のある後輩であった。


 「生徒と戯れるお暇があるのですね、あなたは」


 しかし、その中でも校長だけは厳しい人であった。厳しいというより、ただ単に毒を吐いているだけかもしれないが。


 「おやおや校長先生、不機嫌ですね」

 「まぁ、いろいろとね。毒を吐いても笑って流してくれるのはお前だけだよ」

 「お褒めに預かり光栄です」

 「随分軽い言葉だねぇ」


 前言撤回、毒薬と確定。


 「まぁそんなことはいい。お前宛にイイモノが届いている。容易に持ち出せないからちょっと付いてきなさい」

 「あぁ、アレですか。ついに健康体の校長先生も腰が」

 「それ以上言ったらヴァルハラ行きですよ」

 「……」


 くるりと身体の向きを変え、廊下に向かう校長。その校長から放たれた完全なる殺害予告。どうやら校長の逆鱗に触れかけた様子。少々自重してか口を閉ざす郁美だが、口元のニヤケは取れていなかった。校長が先を歩いていなかったら今頃はヴァルハラだったであろうに。


 そも、ヴァルハラは“戦死者の館”では……?


 当時職員室内にいた先生のほとんどがそう疑問に思った。


 ――それが、実際間違いでなかったことには気付かずに。

書けました。


う~む、まだまだ下手ですね~。


なので今後とも精進致します。


ではまた次のお話で~。

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