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#5-2

どうも、少し遅くなりました。


それではどうぞー。

 時刻は午後五時を過ぎていた。

 夕方特有の幻想的に赤みがかった空を背景に、副会長が微笑む。その微笑する姿は他人にはない、独特な高貴さを醸し出している。

 ただ現状は、小夜とソフィの二人だけが綾瀬の美貌に見とれていたことから、生徒会メンバーはその美貌に慣れていることがよく分かる。


 「綾瀬(あやせ) (なぎ)です。(わたくし)は情報部で副会長を担っています」


 そう礼儀正しく挨拶をするのは綾瀬。


 「こ、こちらこそ」


 緊張気味で返事をするのは小夜。


 「よろしくお願いします」


 社交辞令並みに落ち着いて答えるのがソフィ。


 「なんだろなー、なんで綾瀬と私の反応の差が大きいんだろうなー」


 なんとなく苛立ち始めているのはロリータ会長の心音。


 「「「……」」」


 絶賛沈黙中の生徒会総メンバーたち。

 結論。


 「あの、他のメンバーさんは一体」

 「壁紙よ」

 「なら仕事に戻してあげましょうよ……っ!」


 ソフィはいつまでも休めのまま動かない生徒会メンバーがかわいそうでついつい口を出してしまったが、会長はさらりと酷いことを言ってのけた。壁紙などと言われるなんて、普段から心音がどんな風に生徒会を動かしているのか想像すら恐ろしかった。


 「ところで、なんで放課後と言われたのに、こんな夕方から始まったのですか?」


 今更だが、ここまで時刻が遅くなったのは、元々心音が『仕上げなくちゃいけない仕事があるから!』と言って指定された時間まで待たされた結果なのだ。ところがどっこい、いざ来てみれば未だに慌ただしいではないか。とどのつまり、仕事が終わっていなかったのだ。


 「あぁ、それはちょっと今の活動が一段落して落ち着くかなって思ってたんだけど……」

 『『『会長、現実はそんなに甘くないッス!』』』

 「君たちが要領悪すぎなんだよーッ!」

 『『『会長が要領良すぎなんスよッ!』』』

 (うわ凄い連帯感)


 現在は主に広報紙作成で手間取っているらしい。遠目で見ていたソフィだが、活動自体はそんなに要領は悪くはなかった。それでも会長は更に凄いらしいとあらば。


 「ソフィちゃん、ちょっと会長の本気見てみたいね」

 「えぇ、そうね」

 「お? じゃあ後輩ちゃんのご指名がありましたので、広報紙作成ホッチキス対決としゃれ込みましょうか♪」

 「誰も対決とまでは言ってないですよ」

 「相変わらず綾瀬は厳しいわね……」


 小夜がソフィの言葉を代弁するかのように言葉を投げかけてくる。正直そこまで大きくない声量で話していたにも関わらず、心音はしっかりと会話に気付いていた。見た目から幼いと感じるからといって侮ってはいけない、態度でそう宣言しているかのようにも取れた。やはりこの会長は見た目に似合わず恐ろしい。


 「それじゃあここにある広報紙数百部分を半分に分けて、どっちが早いか勝負するわよ。綾瀬以外は机、ホッチキス、定規の準備を!」

 『『『了解(サー)!』』』

 ((定規?))


 さりげなく冊子系の資料作成に必要のない道具の名詞が上がった。どうやら今回の広報誌は冊子らしいが、どう数えても総合計五百は超えている。つまりは最低二百五十枚も作成しなくてはいけない。それは二人だけでやるには相当な時間、体力が必要になる。

 果たしてどれだけの早さで終わるだろうか、二人にとって見ものであった。


 「さぁ、準備完了! ルールは簡単、どっちが早く終わるか!」

 「受けて立ちましょう」


 バタバタとした準備も終わり、机に指定された道具のみ鏡のように机の中心で分けた形で置いてある。その机付近に置かれたパイプ椅子に二人が腰掛ける。


 『それではお二人とも、準備はいいでしょうか?』

 「おっけー!」

 「えぇ、いつでも」

 『了解です。レディー……』


 横にストップウォッチを持った生徒が立つ。そしてしっかり伸ばした腕をゆっくりと天井に向けていく。

 そこにいる全メンバーが、生唾を飲み込む。そんな大したことではないだろうが、会長対副会長などというシチュエーションはそうそうない。静寂が、妙に長く感ぜられた。


 『ゴー!』

 「「ッ!!」」


 力強く腕が振り下ろされた。それと同時に二人が冊子に手をかける。その速度はほぼ同着であった。しかし、行動は違った。


 紙はページで分けられている。綾瀬は丁寧にページを合わせ、一冊分ずつ取り、ホッチキスで止める。


 「なるほど、だから定規を……」


 ここで小夜から納得といった声が漏れた。綾瀬は定規を作成したばかりの冊子の裏表紙のホッチキスの芯に当て、机と挟む形で押し付ける。これは読む人に配慮した、怪我防止の技術だったのだ。なんだろう、力強く押し付けているせいか、首のすぐ下の果実が揺れて目に痛い。


 「うぅ、なんでしょうこの悲しみ」

 「小夜ちゃん、気にしちゃ負けだよ」

 「誰よその相手は……」


 さめざめと泣く小夜を横目に、ソフィは男子が対面にいてよかったと思った。ふと気になって、ソフィは心音の方へ視線をやる。しかし、彼女は冊子を作っていなかった。正確には、冊子にするために紙を束ね、交互に重ねて置いていたのだ。


 「なるほど、道具を入れ替えるロスを軽減してるのね」


 つまりはそういうことだ。綾瀬は冊子単体を作る早さはあるが、いちいち道具を切り替えなくてはいけない。そのタイムコストを心音は削減しているのだ。


 ――数十分後。


 「もう少しだね」

 「えぇ」


 一心不乱に会長と副会長が冊子を作り上げ、残りはもう少しとなっている。ほんの数十分でスパートがかけられるだけでも、周りの生徒と比べて要領がいいことが伺える。既に数枚、差はほとんどない。

 もう少しで、勝負が終わる。


 「――あぁっ!?」


 カシャン、とホッチキスが床に落ちる。滑り落ちたのは綾瀬の手からであった。その落とした本人はショックのあまりか、立ち上がって落としたホッチキスに向けて手を伸ばしていた。


 「おっわりぃ~!!」

 『勝負アリッ!』


 再度審判が手を上げ、勝負が終わったことを高々と告げる。二人の戦いは、心音の勝利で決まった。心音は片腕を腰に当て、小夜とソフィにドヤ顔と共にVサインを向けた。対して負けた綾瀬は、ため息混じりで顔に手を当て、腕を組みながら頭を振っていた。


 「はぁ、もったいない。私もまだまだですね」

 「綾瀬はまだまだ、いざ追い詰められた時の焦りが大きいのよ。まぁ、それでもここまで成長するなんて、先輩嬉しいわ♪」

 「同級生でしょうが。それに傍から見れば私の方が年上でしょうに。ねぇ?」

 「「……」」


 終戦後、二人がちょっとした冗談を言い合う。その途中で綾瀬が急に小夜とソフィに同意を求める視線を向ける。それを二人は左右に視線をズラして黙秘した。勿論その行動は、否定できないという意味になってしまうのだが、突然のことであったがためにそこまで考える余裕がなかった。そも、美人な綾瀬の顔を正面から見ることも少々小っ恥ずかしいことではあったが。


 「ヘー、キミタチハソンナコトオモッテルンダー、ヘー」


 会長からの蔑むような視線が刺さった気がしてなかなか正面が向けない二人だった。




 「まぁ、とりあえずこんな風に仕事をやってるの。簡単に言えば普通科は重要書類を主として扱い、情報科は重要情報を主として扱っているの」

 「それでは書類を扱った先の勝負は会長の独壇場だったのでは……?」

 「ナ、ナンノコトデショー」


 ソフィが基本的な流れを聞いた瞬間に思いついた疑問を出した途端これだ、きっと分かっていてもうしこんだのだろう。明らかに明後日の方向を向いている心音に、逆にソフィは冷たい目線をぶつけていた。


 「いいのですよ、ソフィさん。所詮会長のくだらない戯れなので」

 「ちょっと綾瀬、フォローのつもりだろうけど悪意がダダ漏れよ」


 ニッコリと笑って答える綾瀬に、シワを少し寄せた顔でツッコミを入れる心音。案外痛そうな音がしたが、全くもって崩れない綾瀬の顔を見る限り、特に気にすべきことではないとソフィは推測した。それにしてもどこか裏の顔でもありそうな綾瀬に、言うことは大人びていてもどこか幼さの抜けない心音。このタッグは見ていて飽きない、そんなどうしようもないことを考えていた。


 「なにニヤニヤしてるの、ソフィ」

 「ん? いや、会長副会長コンビが面白いなぁって」

 「ちょっと、それってどういう」

 「お気に召しましたでしょうか」

 「やってやったみたいな顔で言葉を切らないでくれるかな!?」


 心音以外の全員がついに失笑する。生徒会室は温かい雰囲気を持っていた。先程のピリピリした空間とは打って変わって穏やかな空気は、とても居心地がよかった。


 (あぁ、こんな空間がいつまでも、どこでも保てたらいいのに)


 ソフィはそんなことを思う傍ら、それが現段階で不可能であることを悟っていた。これが響也であったらどういう風に考えるだろうか。

 きっと、自分が作っていくしかない、例えそれが地道でもと考えるのではないだろうか。いや、そんなキザなことは思わないだろう。

 ではどうなのだろう。一切浮かばないのは、やっぱり響也のことをあまり理解できていないことなのだろう。ソフィは笑顔でいながら、どこか悲しかった。


 そんな時、ソフィのV・Rが振動する。


 「あ、すいません。重要な電話が来たので一旦抜けますね」


 そう言い残して、有無を言わせず生徒会室を抜け、少し離れたところへ移動する。


 振動パターンがいくつか設定できるのは未だ残っている機能だ。ソフィの設定したパターンは、仕事タイプと日常タイプとで分かれており、仕事か否かを振動パターンによって即座に判断できるのだ。小夜やタケルたちは日常に、響也や本部などは仕事に分類されている。

 そして今回は“仕事”の方のパターンであった。


 結構離れた、校舎の端で立ち止まり、周囲を確認する。人影は見えない、絶好のチャンスだ。

 ずっと振動しているV・Rを展開し、画面を起動させる。


 ――システム    ALL GREEN

 ――脳波座標    ALL GREEN

 ――脳波パターン  Софья Несторовна Кондрашоваと確認


 「!?」


 ホーム画面を開いた瞬間に、現在通信を入れようとしている相手の名前が表示される。それは明らかに“仕事”としてではなく、私的な相手。


 【通信:静内 響也様ヨリ】


 それは、思ってもみなかった相手――響也であった。

ってことで、響也君久し振りの登場疑惑です。


果たして響也がソフィに連絡を入れた理由は……?


次回に乞うご期待です。

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